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出生率、「コホート」で見てみると~2023年人口動態統計月報年計

 本日(6/5)は統計発表が相次いでいますね(汗)。
 厚生労働省は2023年の「人口動態統計月報年計(概数)の概況」を本日公表しました。2月27日の速報値公表時には判明しなかった「日本における日本人(前年以前発生のものを除く)」の出生数や合計特殊出生率などが判明しました。日経電子版は、2023年の合計特殊出生率が1.20と過去最低となったこと、出生数が5.6%減少したことを報じています。
 私のnoteでは、2年前の下記のnoteをアップデートし、「コホート」でみた出生率の推移に着目したいと思います。また、2月の速報時のnoteもアップデートし、社会保障人口問題研究所の人口見通しと今回の実績値の比較もしたいと思います。


改めて「コホート合計出生率」とは?

 合計特殊出生率は「期間合計特殊出生率」と「コホート合計特殊出生率」の2種類あり、記事で取り上げられているのは前者の「期間合計特殊出生率」です。15歳から49歳までの各年齢の女性の、2023年の出生率(その年齢の女性が産んだ子どもの数÷その年齢の女性人口)を合計したものが1.20と過去最低となったわけです。  
 これに対し、コホート合計特殊出生率は、例えば、1960年生まれの女性が生涯に産んだ子どもの数です。「1人の女性が生涯に産む子どもの数」という合計特殊出生率の定義により近い出生率になります。「ごく粗い計算」という注釈付きではありますが、「人口動態統計月報年計(概数)の概況」には、このコホート合計特殊出生率が参考資料として掲載されています。

15~49歳、15~44歳の累積出生率は緩やかな上昇続く

 生涯の出生率に相当する15~49歳の累積出生率の推移を見たのが図1です。上記noteでも指摘しましたが、この生涯出生率は2020年調査(1971~1975年生まれの人が45~49歳に到達した年)に1.4347と最低水準をつけた後、じりじりと上昇しています。2023年調査(1974~1978年生まれの人が45~49歳に到達した年)では1.4641です。

 15~44歳の累積出生率も2015年調査(1971~1975年生まれの人が40~44歳に到達した年)を底に回復基調にあります(図2)。2020年調査(1976~1980年生まれの人が40~44歳に到達した年)で1.4644と、2023年調査の15~49歳累積の出生率を上回っていますので、当面は15~49歳の累積出生率の上昇傾向は続きそうです。少子化の一因として晩婚化、晩産化があるとされていますが、15~44歳の累積、15~49歳の累積の出生率はそうした動きを反映しているように見えます。
 一方で、15~44歳の累積、15~49歳の累積の出生率でともに最少であった1971~1975年生まれの人々が大学を卒業したのは1993~1998年。就職氷河期の真っただ中でした。安定した職を得ることが結婚、出産のうえでいかに大事か推察されます。

15~39歳は再び減少傾向

 このように、15~44歳の累積までは回復傾向がみられる一方で、再び減少傾向に入ったように見えるのが15~39歳の累積出生率です。2021年調査(1982~1986年生まれの人が35~39歳に到達した年)をピークにじりじりと減少傾向にあります。このトレンドは5年遅れて15~44歳の累積出生率に影響を与えると見込まれることから、いずれ15~44歳累積出生率もピークをつける恐れがありそうです。

若い世代(15~29歳、15~34歳)は回復の兆しなく

 15~39歳の累積が減少に転じたのは、より若い世代で累積出生率の低下に歯止めがかかっていないためでもあります。15~34歳は2017年調査(1983~1987年生まれの人が30~34歳に到達した年)から減少トレンドに転じています。この動きが約5年後に15~39歳の累積出生率に影響を与えているわけです。
 そして、15~29歳の累積出生率はだらだらと減少が止まりません。1990年調査では1を超えていたのが、2023年調査(1994~1998年生まれの人が25~29歳に到達した年)は0.4796と半分以下です。
 電子版の記事のコメントにもあったように、安心して結婚・出産ができるような安定した所得環境が求められているのではないでしょうか?

出生数は早くも社人研の出生中位推計を下回る

 さて、実績値が判明したので、2月に書いた下記のnoteをアップデートする形で、社会保障人口問題研究所(社人研)の人口見通しと実績値の関係を最後に確認しましょう。

 出生数の実績について私のnoteでは「概数÷速報の比率が2022年と同じと仮定すると、6月に公表予定の「日本における日本人」の出生数は73万人程度になりそうです」と書きましたが、実績値は72万7277人でした。概数÷速報の比率に大きな変化はないようです。
 この出生数は最新の社人研の見通し(出生中位推計(2023年推計))の2023年の73.9万人を下回りました。より少子化が進むと見込む「出生低位推計(2017年推計)」「出生低位推計(2023年推計)」に近づいていきそうです。また、2024年1~3月累計の速報値で、前年同期比6.4%減になっていますので、2024年に反転増加に転じるという「出生中位推計(2023年推計)」の見通しの実現は難しそうです。
 合計特殊出生率は「出生中位推計(2023年推計)」の2023年が1.2028だったので、ほぼ実績値並みに見えます。しかし、グラフの注釈にも書いたように、人口動態統計の実績値は、日本における日本人出生数÷日本における日本人女性人口で算出しています。外国籍女性は分母に入らず、父親が日本国籍、母親が外国籍の場合は子だけ分子に入るため、合計特殊出生率が高めになります。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では、こうしたゆがみを調整した日本人女性の合計特殊出生率を算出し、見通しを出していますので、実態としては出生率の実績値が見通しを下回ったと見るべきでしょう。


 

#日経COMEMO #NIKKEI

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