「壁」が103万円から引き上げられる?その影響は?
10月27日(日)に行われた衆議院選挙で自民・公明の与党が議席を減らしたこともあり、国民民主党が選挙公約の一つに掲げていた基礎控除等の103万円から178万円への引き上げ、いわゆる「103万円の壁問題」が政策論議の対象になりそうです。
この103万円の壁については、私も昨年9月にnoteを書かせていただいたのですが、国民民主党さんが政権公約に挙げてくださったためか?、多くの方にご覧いただいております。現時点の「スキ」の通算数106、通算ビュー数(1万強)は、私がこれまで書かせていただいたnoteの中で断トツの1位です。国民民主党さんに御礼を申し上げなければいけないですかね(笑)。
では、基礎控除などが引き上げられたら、私たちの所得税にどのような影響があるのでしょうか?制度を踏まえて整理してみましょう。
そもそも、所得税の計算方法は?
所得税の算出方法から振り返ってみましょう。国税庁ホームページの解説にあるように、収入金額そのものに所得税がかかるわけではありません。収入金額から様々な経費(自営業の方などの場合)を差し引き(これを所得金額と呼びます)、そこから所得控除も差し引いた「課税所得金額」に応じて、所得税額が決まります(詳しくは後述)。
所得控除には様々なものがありますが、雇われている人が必ず適用されていると考えられるのが基礎控除と給与所得控除です。現在、基礎控除は48万円、給与所得控除の最低保障額が55万円なので、この合計の103万円が所得税がかかり始める境目、「壁」と称されているわけです。
一方、所得控除はほかにもあります。ちょうどいま年末調整の時期ですが、生命保険料控除、地震保険料控除などの資料をそろえたりしている方もいらっしゃるのではないでしょうか?このほか、配偶者控除、お子様などの扶養控除などもあります。公的医療保険や公的年金などの社会保険料も収入から差し引けます(社会保険料控除)。
ですので、例えば、基礎控除を現状の48万円から123万円へ引き上げて、給与所得控除の最低保障額55万円との合計を178万円にしたとしても、他の控除の縮小などが行われたりすると、家族構成などによっては思ったほどの減税にならないとなる可能性もあります。
実際、現状でも基礎控除は合計所得金額が2400万円以下なら48万円ですが、それ以上になると減額され、2500万円超は0円です。配偶者控除も所得制限があります。
所得税を払っているすべての人に影響する
この103万円の壁の話。この壁の範囲内でアルバイトやパートで働いている人への影響が良く注目されています。せっかく時給が上がっても、103万円の壁があるので、逆に働く日数、時間を減らす必要が出てくるといった話です。私のゼミ生でも、「今年はこれ以上バイトできないです」と言っているものがおります。
学生アルバイトをしているお子さんがいる親御さんへの影響も注目されていますよね。私も上記のnoteで書きましたが、お子さんが103万円の壁を超えるとお子さんに税金がかかるだけでなく、親御さんの所得税も増えてしまうためです。親御さんの所得税計算における扶養控除が減らされるのです。
一方、上記のような事例でなくても、今回の基礎控除などの引き上げは所得税を払っているすべての人に影響します。前述したように、例えば、基礎控除が増えると、(他の控除額に変化がないという前提で)課税所得金額が減少し、支払う所得税が減るためです。
では、どれぐらいの減税になるのか?
では、与党と国民民主党の協議で基礎控除の引き上げが実現した場合、どの程度の減税額になるのでしょうか?これは、皆さんそれぞれの課税所得金額によって変わってきます。財務省ホームページの図のように、所得税の税率は課税所得に応じて上昇する累進税率になっているためです。
より厳密には超過累進税率と呼ばれる構造になっています。例えば課税所得金額800万円の人を例にとってみると、
①195万円未満の部分には5%
②195万円以上330万円未満の部分には10%
③330万円以上695万円未満の部分には20%
④695万円以上800万円の部分には23%
の税率が適用されます。
ここで、基礎控除の10万円の引き上げで課税所得金額が790万円に減ると、上記の④の部分(この方の限界税率)の金額が10万円減るため、減税額は10万円×23%=2万3000円となります。
課税所得金額の減り方によっては限界税率が下がるケースもあるでしょうが、ざっと言えば、適用されている限界税率に課税所得金額の減少額(控除の増加額)を掛けたものが、その人にとっての減税額になるのです。
財務省は素直に応じるかな(汗)
この103万円の壁については、私の知人のエコノミストの方もかねて必要性を感じていて、昨年、財務省の担当者に直接議論を投げかけたそうです。ただ、その時は「時期尚早だ」と片付けられたと聞いておりました。それだけに、選挙結果のおかげ(?)で議論の遡上に上るようになったのは喜ばしいことかと思います。
一方、上記検討したように、基礎控除の引き上げは、課税所得金額が多い(適用される限界税率が高い)人ほど、控除額を増やすことによる減税額が大きくなる傾向があります。これを逆手に(例えば、「金持ち優遇だ」といった批判とか?)、他の控除の整理・縮小などが出てこないか注意しておきたいですね。