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出荷-在庫バランスが2021年7-9月期以来のプラス幅に~2024年4月の鉱工業生産指数(速報)

 マガジンを再編成したら、生産や企業収益関連のnoteを最近あまり書いていないことに気づきました(笑)。講義用資料としても活用できるので、4月分からぽつぽつフォローしていこうかと思います。
 2024年4月の鉱工業生産指数の速報値が昨日(5/31)公表されました。日経は、民間予測(1.2%上昇)と異なり、前月比0.1%低下となったことに注目しています。私は、GDP統計と同じように前年同期比(前年同月比)に注目して観察してみたいと思います。


そもそも、鉱工業生産指数ってどうやって作られているのか?

 鉱工業生産指数(正式名称は鉱工業指数)は、基準年(現在は2020年)を100とした指数で日本全体の鉱工業の生産、出荷、在庫などの動向を示しています。鉄鋼や自動車、食料品など生産されている財は様々で、単位も異なります。そこで、こうしたそれぞれの財の生産動向を、まず、基準年=100の指数で表します。そして、これらの財別の指数を決められたウェイトに基づいて加重平均することで、日本全体の指数としています。
 ですので、各財の生産などが変動した場合、このウエイトが大きい財や業種の生産が変動するほど、生産全体への影響が大きくなります。注目度が高い生産指数では、基準年において鉱工業の付加価値のうち何割をその業種が稼いでいるかという比率がウエイトに用いられています。
 最新の2020年基準の業種別ウエイトは、以下の通りです。自動車が含まれている「輸送機械工業」は1万分の1502.4で全体の15%を占めます。その動向が生産指数に与える影響が大きいと言えます。ちなみに、輸送機械工業の内訳は自動車工業(1248.2)とそれ以外(254.2)となります。
 鉱工業指数の作成方法の詳しい内容は、経済産業省の資料を参照ください。

鉱工業         10000
製造工業        9983.5
鉄鋼・非鉄金属工業    596.5
金属製品工業       452.5
生産用機械工業      746.1
汎用・業務用機械工業   705.8
電子部品・デバイス工業  585.0
電気・情報通信機械工業  860.8
輸送機械工業       1502.4
窯業・土石製品工業    352.8
化学工業         1233.0
石油・石炭製品工業    175.6
プラスチック製品工業   464.7
パルプ・紙・紙加工品工業 236.5
食料品・たばこ工業   1377.9
その他工業        693.9
鉱業           16.5

季節調整済み前期比では方向感がつかみにくく

 鉱工業生産は、日経の記事のように季節要因を取り除いた指数の前期比(前月比)の動きに注目するのが一般的です。しかし、四半期単位で観察しても、最近の生産の前期比はプラスマイナスを繰り返していて、方向感がつかみにくい状況にあります(ちなみに、図の2024年4~6月期は、2024年4月の2024年1~3月期に対する変化率(2.0%上昇)を示しています)。

出荷-在庫バランスとは

 そこで、私はGDPと同様に、生産も前年同期比の推移に注目しています。その際、出荷の前年同期比から在庫の前年同期比を差し引いた「出荷-在庫バランス」と組み合わせて観察しています。
 出荷-在庫バランスは、多くの民間エコノミストの方々が昔から使っていて、私も前職で経済予測の業務に携わっていたときに学びました。
 基本的には、在庫循環図のアイデアがもとになっています。在庫循環図は鉱工業指数の参考図表集にも毎月掲載されているように、生産動向を見る伝統的な手法です。在庫の前年同期比をY軸、生産(もしくは出荷)の前年同期比をX軸にし、その交点の動きをプロットします。そのうえで、プロットが45度線(Y=Xの線)を下から上に横切ったとき、つまり在庫の伸びが生産(出荷)の伸びを上回ると、いずれ在庫調整が始まると見るのです。逆に、45度線を上から下から横切ったとき、生産「(出荷)の伸びが在庫の伸びを上回り始めると、いずれ在庫調整が終わり、生産が上向くと見込むわけです。
 出荷―在庫バランスがプラスからマイナスに転じるのは、プロットが45度線を下から上に横切ったとき、マイナスからプラスに転じるのは45度線を上から下に横切ったときに相当します。生産の前年同期比と組み合わせたグラフを描くと下図のように、出荷-在庫バランスがプラスになると少し遅れて生産の前年同期比がプラスに、出荷-在庫バランスがマイナスになると少し遅れて生産の前年同期比がマイナスになる傾向が観察できます。

2024年4月の出荷-在庫バランスのプラスは良い兆しか?

 以上を踏まえて最近の鉱工業生産の前年同期比の推移を見てみましょう。生産の前年同期比は2022年1~3月期以来、低迷が続いています。プラスになったのは2022年7~9月期(4.0%上昇)、2023年4~6月期(0.9%上昇のみで、直近の2024年4月もマイナス1.0%です。
 出荷-在庫バランスも2021年10~12月期以来、マイナス基調です。わずかにプラスになったのは2023年10~12月期(プラス0.2ポイント)のみです。
 一方、2024年4月はプラス1.9ポイント。これは2021年7~9月期のプラス2.4ポイント以来のプラス幅です。まだ4月単月の動きですが、今後の生産の良い兆しになるといいですね。

電子部品・デバイス工業は増産基調

 最後に、業種別の生産と出荷-在庫バランスの動向を確認してみましょう。前年同月比でみると、2024年4月は金属製品工業(0.1%上昇)、生産用機械工業(6.6%上昇)、電子部品・デバイス工業(11.8%上昇)となっています。
 出荷・在庫バランスは、鉄鋼・非鉄金属工業、金属製品工業、生産用機械工業、電子部品・デバイス工業、輸送用機械工業、窯業・土石製品工業、化学工業、プラスチック製品工業、パルプ・紙・加工品工業と幅広い業種でプラスになっています。
 中でも電子部品・デバイス工業の出荷・在庫バランスは2023年7~9月期からプラスに転じていて、生産も2024年1~3月期からプラスに転じています。増産基調にあると見られます。
 なお、化学工業のうち医薬品や、食料品・たばこ工業は確報の公表時に判明します。今後も、生産の前年同期比(前年同月比)と出荷ー在庫バランスを中心に生産動向を観察していきたいと思います。

#日経COMEMO #NIKKEI

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