出生数最少は、どれだけ”想定外”なのか?
昨日(27日)、「人口動態統計調査」の速報値が公表され、外国人を含む2023年の出生数が75万8631人と前年に比べて5%減ったことが明らかになりました。日経新聞は28日朝刊で、足元のペースが続けば2035年には出生数が50万人を下回ると警鐘を鳴らしています。
一方、出生数など人口については、専門の研究機関である国立社会保障・人口問題研究所が、これまで数年ごとに見通しを推計してきています。最近の動向は、その見通しと比べて、どれだけ”想定外”なのでしょうか?
日本人に限ると70万人前半か?
1年前ほどに下記のnoteで書かせていただいたように、「人口動態統計調査」には、今回公表された速報値のほかに、毎年6月ごろに公表される「概数」、9月ごろに公表される「確定数」があります。
そして、速報値は「日本における日本人、日本における外国人、外国における日本人(いずれも前年以前発生のものを含む)」、概数は「日本における日本人(前年以前発生のものを除く)」、確定数は、「日本における日本人(日本における外国人、外国における日本人及び前年以前発生のものは別掲)」の数をカバーしています。
この3種類の出生数の数値の最近の数値を以下にまとめてみました。概数÷速報の比率が2022年と同じと仮定すると、6月に公表予定の「日本における日本人」の出生数は73万人程度になりそうです。
2023年5月に公表されたメインシナリオを2023年実績が早くも下回る?
一方、冒頭に紹介した国立社会保障・人口問題研究所による日本の人口見通し、「日本の将来推計人口」は、5年に1回の国勢調査のデータを踏まえて作成されています。最新版は、2023年4月26日に公表された「令和5年(2023年)推計」で、2020年の国勢調査で得られた実績値から先の人口動向を見通しています。図は、2015年の国勢調査を踏まえた「平成29年(2017年)推計」とともに、出生数のメインシナリオ(中位推計)とリスクシナリオ(低位推計)を描いています。
なお、ここではよく新聞・雑誌等で紹介される総人口ベースではなく、日本人人口ベースでグラフを作成しています。実績値は、上記の「確定数」を用いています。
まず、灰色の点線が2017年推計のときのメインシナリオ、黄色の点線がリスクシナリオです。黒の実線は実績値ですが、2018年からメインシナリオをはっきりと下回り始め、リスクシナリオに近づいています。2022年の出生数は77.1万人であるのに対し、リスクシナリオが73.3万人でした。
一方、緑色の点線が2023年推計のメインシナリオ。2021、2022年と実績値はメインシナリオを若干上回ってきましたが、2023年のメインシナリオは73.9万人であり、実績値がメインシナリオを下回る可能性があります。
一気に、2023年推計のリスクシナリオ(2023年で65.8万人)に近づくことはないでしょうが、徐々にそこに近づく可能性はあるでしょうね。ちなみに、2023年推計のリスクシナリオで出生数が50万人を割るのは2047年。日経記事から12年後です。
合計特殊出生率、出生数ともに2024年にリバウンドが見込まれているが…
こうした見通しの背景になっているのが、日本人女性の合計特殊出生率。ある期間(1年間)の出生状況に着目したもので、その年における各年齢(15~49歳)の女性の出生率を合計したものです。
2017年推計の際、メインシナリオは合計特殊出生率はほぼ横ばいを見込んでいました。実績値がそれを下回る中で、出生数が減少してきました。
2023年推計の際、メインシナリオ、リスクシナリオともに、2024年に合計特殊出生率がいったん上昇することが見込まれています。その後のパスは、メインシナリオは上昇傾向、リスクシナリオは横ばい傾向です。
実績値の合計特殊出生率は、人口推計の定義と異なるため、若干高めになっています。ただ、その推移は出生数と変わりありません。2024年の合計特殊出生率が判明するのは来年9月ごろになりそうですが、まずはリバウンドが現実のものになるのかを注視したいと思います。
人口動態統計と推計人口見通しの合計特殊出生率の違い
人口動態統計の実績値は、日本における日本人出生数÷日本における日本人女性人口で算出。外国籍女性は分母に入らず、父親が日本国籍、母親が外国籍の場合は子だけ分子に入るため、合計特殊出生率が高めになります。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では、こうしたゆがみを調整した日本人女性の合計特殊出生率を算出し、将来推計の基礎としているため、2017年推計における実績値の2015年、2023年推計における実績値の2020年が、人口動態推計の実績値を下回っています。