2021年度の名目成長率が上方修正されましたね~「建設工事受注動態統計」の遡及改定の影響で

2022年4~6月期のGDP速報

本日(8月15日)、2022年4~6月期のGDP速報(1次速報)が公表されました。今回のGDP速報は、二重計上などの不正処理の対応のため、8月5日に遡及改定された「建設工事受注動態統計」と「建設総合統計」を反映するということで、どの程度GDP成長率に影響するかが注目されていました。

21年度は予想通り0.1%上方修正だが、19年度の0.2%下方修正に驚く

 私自身、8月7日に下記のリンクのような観測記事を書いてしまったので、結果が出るまでドキドキでした(笑)。予想通り、2021年度の名目GDP成長率が1.3%へ0.1ポイント上方改定されてほっとしました。一方、2019年度の成長率が0.2ポイントも下方改定されたのは少々驚きました。

 この一因は、今回の改定前、2022年1~3月期のGDP2次速報(2022年6月8日)で内閣府が推計に利用していた「建設総合統計」の実績値を私が見誤っていたためです。8月6日の新聞記事では「不適切処理に係る遡及改定」の前後の改定幅について報じていて、「影響は軽微だ」と言っていたので、2022年1~3月期のGDP2次速報では「不適切処理に係る遡及改定」前の実績値が使われているとてっきり思ってました。

 しかし、実際は補正率というものを変更することによる「定例遡及改定」の前の実績値が使われてました。下の図に示したように「建設総合統計(総計)」をみるとこの改定の影響(オレンジ部分)が結構大きく、改定前と改定後の前年比を見比べると、2019年度の下方修正幅が大きいのです。2021年度の上方修正幅は変わらなかったので見込み通りとなったわけです。

2018年度:0.3%→0.2%
2019年度:2.9%→1.0%
2020年度:▲1.2%→▲1.6%
2021年度:▲1.3%→▲0.1%

 ちなみに、内閣府は「不適切処理に係る遡及改定」が名目GDP成長率の改定に与えた影響を試算して示しています。それによると、2018、19年度は0.0ポイント、20、21年度はプラス0.1ポイントとのことで新聞・雑誌の記事もそれを前提にしています。一方、「不適切処理に係る遡及改定」の前と後の「建設総合統計(総計)」をみると、2021年度は前年比が縮小していて0.1ポイントのプラス要因というのはわかるのですが、2020年度は前年比は変わらずなので、なぜ0.1ポイントのプラス要因なのかわかりません。内閣府に問い合わせしております!

2018年度:0.3%→0.2%
2019年度:1.4%→1.0%
2020年度:▲1.6%→▲1.6%
2021年度:▲1.3%→▲0.1%

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名目成長率の改定要因は、ほぼ総固定資本形成

 今回の名目GDPの改定幅を詳しく見てみましょう。下の図からわかるように、改定要因はほぼ「総固定資本形成」です。これは、民間住宅投資、民間企業設備投資、公的固定資本形成の合計額で、いわゆる「投資」に関わる支出です。「建設総合統計」はGDPの建設投資の推計に用いられているため、これは当然の成り行きといえるでしょう。ちなみに2018年度が改定されているのは、内閣府の資料によると「昨年実施の第三次年次推計では推計スケジュールの関係で反映していなかった「建設総合統計」における建設投資額の2017 年度値から2018 年度値への更新を今回反映」したためだそうです。こんな昔の実績値の反映がなぜ遅れるのか謎ですよね。これも、内閣府に問い合わせしております!

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 次の図は、上の図の「総固定資本形成」の寄与を民間住宅投資、民間企業設備投資、公的固定資本形成に分けたものです。2021年度は公的固定資本形成の上方修正の寄与が目立つ一方、2020年度以前には全く見えません。これは、公的固定資本形成は速報段階では「建設総合統計」が推計に用いられているものの、年次推計(2020年度以前が該当)になると財政データをもとに推計されるためです。「建設総合統計」が改定されてもびくともしないのです。一方、GDP統計における建設投資額は「建設総合統計」の改定の影響を受けるため、2019、2020年度については民間企業設備投資が下方修正されているわけです。

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「コロナ前回復」も、実は微妙

 次の図は四半期ごとの名目GDPの前年同期比伸び率の改定幅を描いたものです。四半期単位でみると、最も下方修正幅が大きかったのは2019年10~12月期の▲0.27ポイント、最も上方修正幅が大きかったのが2022年1~3月期の0.25ポイントになります。

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 今日の夕刊では2022年4~6月期が、「コロナ前」と呼ばれる2019年10~12月期を上回ったと騒いでいます。実際、2022年4~6月期の実質GDPは季節調整済み年率で542.1兆円で、2019年10~12月期の同540.8兆円を上回ってます。しかし、2019年10~12月期の実質GDPは、2022年1~3月期2次速報のときは541.8兆円で、今回1兆円下方修正されています。さらに、2022年1~3月期の実質GDPは2022年1~3月期2次速報のときは538.8兆円で、今回0.4兆円上方修正されています。

 実績値が2022年1~3月期の2次速報のままで、今回の4~6月期の成長率を達成していたら、4~6月期の実質GDPは541.7兆円となり、2019年10~12月期をわずか0.1兆円下回ります。かなり微妙な「コロナ前回復」なのです。

 そもそも、かねて書かせていただいているように、消費税率引き上げの影響で落ち込んだ2019年10~12月期の実質GDPをコロナ前水準とするのは問題です。いい加減、政府の発表通りに記事を書くのはやめませんか、マスコミの皆様。

 せめて2019暦年の実質GDPと比較したいですね。2019暦年の実質GDPは552.8兆円です。まだ、1.7兆円足りませんよー。さらに言えば、心あるエコノミストの方々は、資源価格の高騰などで購買力が失われている現在は実質GDI(国内総所得)で見るべきと主張されています。私も同感です。2019年の実質GDIは550.7兆円で、2022年4~6月期の実質GDIは季節調整済み年率で526.8兆円。約24兆円も足りません(涙)


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