消耗
終電に乗って最寄り駅に着き、ホームに降りたら唇が震えた。
呼吸が乱れてきて、視界が潤んだ。
まばたきをする間もなく、目からは雫が零れ、頬を伝った。
自分らしくない弱々しい声が唇の隙間から漏れる。
なんで泣いているんだろう。
なんで会社のことを思って泣いてるんだろう。
なんで帰社後も会社のことを思うほど愛社精神が強い私が泣いてるんだろう。
私の涙は、会社のために流さなきゃいけないの?
異動して4か月。まだ仕事についていけていない自分がだんだんみじめになってきた。
先輩もね、上司もね、みんな本当に優しいの。
私がどれだけトチっても怒らないの。
いっそ大声で怒鳴り散らされたほうが楽になれるのに。
優しく諭し、励ますように。言葉を選び落ち着いたテンションで、若者の「怒られ慣れていない」に対する模範解答のような言い方をするの。
もう良心が痛めつけられてしょうがない。
え、大人たちさ、絶対感情に任せて怒りたいですよね?
アンガーマネジメントとかいう6秒待つやつなんてもはや理想論ですよね?
全然感情交えて怒ってもらっていいんですよ?
理不尽な理由で怒られているわけじゃないんですから。
もちろん理不尽な理由だったら「ふざけるな」って言いますよ。
でも私が悪いんだから、変に気を遣わないで怒っていいんですよ?
残念ながら、こうした感情とは裏腹の優しさに、私は苦しめられているんです。
理由はよく分からないけれど、優しさから起因する行動を発揮する理由のない場面で優しくされるのが苦手なんです。
優しくされて、上司に申し訳ないなっていたたまれなくなって、トイレに逃げ込んで泣いてしまうような人間なんです。
だから、必要なときに優しさを捧げてくれればいいんです。
この日もそう。私のミスを責めずに「ここまではちゃんと出来ているから。明日また頑張ればいいから」って言われて、もう心が締め付けられて苦しくなって、半ば強引に仕事を上がってきてしまった。
早足で階段を下りて社屋から出て、浮かれた大人たちで溢れる飲み屋街を抜けて、駅へ向かった。
優しい大人たちと、こんな自分が同じ空気を吸っていいのだろうかって毎回思う。
罪悪感と反省と情けなさ。電車に揺れている間は我慢できたけど、降りたら漏れてしまった。
「自分かわいそう」みたいな悲劇のヒロイン感が拭えないけど、通りすがりの方にはそれだけ仕事に真面目に向き合っている証拠だと思ってほしい。
自分の仕事のできなさにもどかしさや悔しさをまだまだ感じる3年目。
きっと向上心の塊なだけ。
とにかく、自分には自分を消耗しすぎないように頑張ってほしい。
いや、頑張ろう、だね。
涙は、大切な人や美しい物をより輝かせるために流そうね。