「比翼の灯明~夫婦灯台~」
灯台の多様性の魅力をお伝えする「灯明シリーズ」。今回は港の歴史とともにある防波堤灯台から滲み出る“連れ添う情愛“をお伝えします。
「灯明シリーズ」はこちらでまとめて読めます
有料マガジン(500円):灯台訪問を楽しむための六ヶ条
灯台の楽しみ方には「灯台の多様性」があります。
初級者向けには「明治期灯台」や「離島灯台」「レンズ式灯台」など、魅力的なポイントは多数ありますが、それは世の中の灯台ファンの方々もよくご紹介されているので是非Web検索してみてください。
ここでは全く一般的ではありませんが、記者が独断と偏見で勝手に分類したマニアックな灯台の類型をお伝えします。
灯台はざっくり分けると、岬の先端などにあり外洋航海する船を導く「沿岸灯台」と、港湾の波止場にあり船の出入りを導く「防波堤灯台」に分類できます。
さらに防波堤灯台は基本的に左舷標識(白塔で緑光を放つ)と右舷標識(赤塔で赤光を放つ)に分けられます。
この左舷、右舷というのは世界的なルールで決まっており、海上(船上)から港湾(に流れ出る河川の上流)に向いた時に左手か右手かということになります。
これを専門用語で「水源に向かって」と言います。方角が分かりにくい海上では、明確になっているのが目的地(陸地)である港だからでしょう。
ところでこの左舷標識と右舷標識は、大きな港湾では2基以上設置されているところが時々あります。
特に、白塔と赤塔が対となっている場合に、地元では親しみを込めて「夫婦灯台」や「恋人灯台」と呼んでいたりします。
実際、防波堤灯台は比較的コモデティ化されている姿形が多いのですが、向き合うように設置されているだけで非常に趣を感じます。また多くの場合、向き合う灯台は全く同じ形であることは逆に珍しく、好対照な姿形をしています。
まるで本当の夫婦のように(!?)、片方の灯台が丸みを帯びていれば、もう片方の灯台はシュッとした形状をしていたりします。
この「夫婦灯台」は全国の航路標識を網羅している『灯台表』には1mmも表示されていません。当たり前ですが「灯台が夫婦のようかどうか」というのは、灯台が担っている「機能的」には全く意味のないステータスだからです。
しかし、それでも夫婦灯台が並んだ姿には、人間の夫婦が長年連れ添ったような、ある種の美しささえ感じます。
それもそのはず。灯台は雨の日も風の日も、嵐の日も、晴れの日も、その場から動かず連れ添っているのだから。灯台に少し傷みが出ている様子ですら、逆に風合いとして「ああ、長年苦労も多かっただろうが、同じ時間を過ごしてきたんだな」と感じます。
その姿に敬意を込めて「恋人灯台」ではなく「夫婦(めおと)灯台」と私は呼びたいと思います。特に初点灯記念日が近しい灯台であれば、尚のこと長年のツレのようです。
名前なんかも似通っていたりするとホッコリくるものですが、時々、何故か全く違う名前だったりするのは不思議です。
そんな夫婦灯台を訪れるのも、防波堤灯台巡りの楽しみです。
『灯台表』を見れば、大体の灯台の位置と名前、右舷標識か左舷標識かは分かるので、「あー、ここは夫婦灯台だな」ということは分かります。
あとは実際に訪問した時に「この夫婦をどこから眺めるのが一番美しいのかな」ということを考えながら灯台の周りを散策したりします。
当たり前ですが、片方の灯台の足下からでは相方の姿しか見えませんから、両方の灯台が収まるベストアングルを探したりするものです。
大抵が2基の真ん中から眺めるのが良いのでしょうけど、真横から眺めるのが良い場合もあったりするので結構奥深いです。
そんな風に長年のツレを想いながら灯台訪問するのも良いのではないでしょうか。
村上 記
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年々その数を減らしている灯台を護るため、灯台を訪れる魅力などをお伝えするプロジェクト。灯台マニアの方のみならず、灯台のある風景を通じて地域の魅力を再発掘したり、地元の原風景を護りたいと願う方々の想いを大事にしていきたいです。