3200GT試乗記(456GTとの比較)
先月3200GTと456GTを乗り比べました。ともに6MTの個体です。天気は晴れ、タイヤは3200GTがミシュランのPS4S、456GTがピレリのPゼロアシンメトリコでした。
上りと下りが合わさったようなワインディングのコースをそれなりのペースで往復しました。往路に関しては他車に追いついたりしながら片道10分強走行して、動画上での時間差が30秒くらいだったので、ほぼ同じペースと考えて良いかと思います。復路は456GTは話に夢中でそこまで飛ばさずで、3200GTはかなりペースアップしましたが、456GTに関しては他の場所でペースを上げて走ったことがあるので、それを思い出しながら書きました。
まず一番の感想として、乗り慣れた456GTの安定感と比べて、3200GTの恐怖感が強烈でした。恐怖感の最大の要因は接地感の薄さだと思います。PS4SはPSS比でかなりグリップが上がっているようです。PSSは親のD3が履いているので、タイヤそのもののグリップ感は知っており、PSSですらPゼロと比べて圧倒的にグリップが上なのは分かっているのですが、それを上回るPS4Sをもってしても、3200GTはある程度のペースになると常にどこかに飛んでいきそうな感触がします。
この接地感の薄さの原因を考えると、大きく二つあると思います。そのうちの一つがトルクの出方です。アクセルを踏むと、エンジンの回転数の上がり方ではなく、トルクの上がり方に関してのレスポンスの良さに驚きます。3.2LV8ツインターボと、頭では分かっていても、かなり独特なトルクカーブを持つエンジンのようで、なかなか感覚としては理解が追いつきません。そして、グラフに書いたトルクカーブのような、全域のトルク特性を把握する以前に、低回転からのトルクの立ち上がり方驚かされます。
以前にも同じ個体を高速道路で試乗させていただいたのですが、高速道路では、基本的にアクセル開度が半分以上にならないので分からなかった特性です。
音も野太く、レーシングカーみたいで、比べてしまうと456GTは回転の上がり方が穏やかな上に、音も良い音として作られた感じがしてしまい、3200GTの方が、とにかくパワーが出るように作ったエンジンと、結果としてそれに付いてきた自然な音、という感じがしました。
今回の試乗は6MTの個体でしたが、4ATで全体的にギア比がハイギアになると、この過剰なまでのトルク感がいなされてちょうどいいかもしれません。
特に2000-3000rpm付近はアクセル開度に対するトルクの立ち上がりが敏感なので、覚悟を決めてペースをさらに少し上げ、3000-4000rpmより上の回転数を維持するようにすると、コーナーの立ち上がりでアクセルを開けた時のトルクの増え方がマイルドになり、車体が安定しやすくなるように感じました。
とはいえ、456GTのように、コーナーの立ち上がりで安心してアクセルをどんどんと開けられるほどではありませんでしたが…
私は持論として、ランオフエリアの広くないリスクのある場所を走る場合、コーナーの突っ込みは限界の50%以下のようなイメージで慎重に行く必要があるが、立ち上がりはグリップを探りながら、大丈夫と感じれば積極的にアクセルを開け、限界近くまで攻め込んでいっても良いと思っていました。しかしこれは自分の周りにシャシーがエンジンに優っているクルマしかなかったからそう思っていただけだということが分かりました。3200GTは明らかにエンジンがシャシーに優っていて、立ち上がりでラフにアクセルを開けたらどこに飛んでいくか分からないと言ったら感触がありました。(試していないので真偽は不明ですが…)
立ち上がりで飛んでいきそうに感じるのは、エンジンのトルク特性以外に、足回りの設計にも起因していると思います。これが接地感の薄さの二つ目の原因だと思います。基本構成としてはダブルウィッシュボーンに電子制御ダンパーの組み合わせなので456GTと大差ないように予想していましたが、全く違いました。運転した感触として、アーム長(主にロアアーム?)が短いことに起因して、タイヤの路面の追従性や接地面の変化のようなものが、456GTに比べると、3200GTは劣っているんじゃないか?という印象を抱きました。例えばデルタは前後ストラットですが、ロアアームがかなり長く取られているため、タイヤが路面を捉える感覚が非常に強いです。ちょうど、デルタとロアアームが短い、前後ストラットのトヨタ車(AE111レビンやST200系カレン)を乗り比べた時の違いと、456GTと3200GTの違いが似ているように感じました。(両トヨタ車はそこまでエンジンパワーが無いので怖いとは思いませんでしたし、4WDとFFの違いもあるので、間違っているかもしれませんが…)
具体的な寸法や配置に起因して、クルマが理論的にどう動き、その結果どういう感触になるはずだというところは、勉強不足で私にはよく分からないので割愛します。
あと足回りに関して、スプリングの固さの面では大差は無いように感じました。ダンパーは456GTの方が抜け気味なので、明らかに3200GTの方が良かったです。ちょっと大きな段差だと456GTの方はなかなか収束しませんでした。
電子制御ダンパーは456GTは3段階、3200GTは2段階の調整です。恐怖が大きすぎて、ダンパーのモードの違いを試すというところまで気が回らず、3200GTはどちらか片方(オーナーが最初に設定していた方=後でスポーツモードだったと確認しました。)しか試しませんでした。456GTに関しては抜けてきているのもあって、ワインディングロードではハードが一番マシでした。一方でおっさんクルマの乗り味が好きなので、街中ではソフトにしていることが多いです。
456GTは、新車時のレビュー動画を見ても、ワインディングではハードにしないとまともに走らないと言われているので、ショックをOHしたところで、ダンパーの設定に関しては3200GTの方が良いかもしれません。
あとは、3200GTはロールが少なく、荷重移動しにくいことも接地感に悪影響を与えていた気がするので、アンチロールバーが強すぎるのかもしれません。一方の456GTはデルタやテージスとも似ていて、ロールして食わせると言った感じで、これは456GTを気に入っているところの一つです。
後日教えていただいた話として、3200GTはフロントストラット/リアセミトレのクアトロポルテ4から流用したフロアに、新設計のサブフレームでダブルウィッシュボーン化しているということで、こういった経緯からアーム長が理想通りには取れなかったのかな?と思いました。実際、フロントのロアアーム長をクアトロポルテ4と比べると、少し短いようです。こうなると、似たようなエンジンを積んだクアトロポルテ4のエボV8が3200GTと同じくらい怖いのか、アーム長の長さに起因してもっとマイルドなのか気になります。
街中限定で両方乗ったことある人の話だと、やはりクアトロポルテ4の方が安心感があるそうです。ただし、これはV6かもしれないので、あまりアテにはなりません。
接地感の話のまとめとしては、456GTはタイヤのポテンシャルを使い切れているうえに、タイヤが限界を迎えた時の滑り出しの感触がわかりやすく、さらに滑った後も自由自在にコントロールできる感じがする(実際にそこまでやったことはない)優等生に対して、3200GTはイマイチタイヤをうまく設置させられておらず、そこに狂ったトルク特性のエンジンが合わさることで、コーナーの立ち上がりでどこかに飛んでいきそうな感触を伝えてくる、やばいやつでした。
長くなりましたが、接地感以外に感じたことも書きます。
まずは、電子制御スロットルについて。変わったトルクの出方に関して、電子制御スロットルの設定が悪いせいだとは感じませんでした。というのも、電子制御スロットルの味付けで、アクセル開度の少ない領域でのトルク要求を増やしているとすれば、アクセル開度をさらに開けていったときにもっとマイルドになりそうな気がしますが、そこからさらに踏み込んでも同じようにトルクが増えていく感じがしたので、アクセル開度は素直にスロットル開度に反映されていて、あの変わったトルクの立ち上がりはエンジン側に起因しているような気がしました。(あくまで感触の話ですが…)
アクセルに関して少し気になったのは、シフトダウンのためのブリッピングでアクセルを煽った時に、思い通りに回転が上がらないと感じたシーンが何度かあったことです。これが電子制御スロットルの味付けに起因するものなのかは不明です。(単純に私の操作が悪かった可能性もあります。)ギアが入って加速する場合の回転の上がり方が激しいので、少し踏めば回転が上がるというに感じていて、無意識のうちにアクセルを踏む量を減らしていた可能性もあります。停車時に空ぶかししてみて試してみればよかったです。
慣れれば気にならなくなると思います。
アクセルの話に少しかかわる話として、ドライビングポジションについても触れます。456GTはホールド性が少ないシート設計なので、体勢の楽なソファに腰かけている感じになり、ペースを上げたときに少し踏ん張る必要があるかもしれません。一方で3200GTは比較的ホールド性が強く、飛ばした場合に焦点を当てると、3200GTの方が優秀に感じました。長距離を移動するためのGTとしてみれば456GTの方が理にかなっているかもしれませんが。
配置に関して書くと、3200GTは運転席に座った状態で若干窮屈に感じます。ドアやセンターコンソール側からの張り出しが多いことが原因の気がします。また、座面の低さに対してダッシュボードが高く、前方の視界が若干悪いのも気になりました。ペダル配置も456GTの方が自然だと思いました。456GTは車幅が広く、センターコンソールも広いので、車両感覚がつかみにくいように思えますが、実際には久しぶりに座ってもすぐにしっくりきて、車両感覚もつかみやすいです。それに対して、3200GTは走り始めて少しするまではなじまない感じがしました(BMW系で良く感じる)。ただし456GTはクラッチが重すぎるという重大な欠点があります。
あとスペック上での大きな違いの一つとして、車重があります。456GTに関しては、ブレーキのタッチがいかにもイタリア車といった感じで、踏力に対する制動力の立ち上がりがマイルドなので、下り坂で1.8tという車重を意識させられますが、それ以外は十分なパワーと足回りの良さから、あまり車重が重いということは意識しません。下り坂以外では1.6tくらいの感覚で走れます。
3200GTは1.6tくらいで、普通に走っている限りは、特に違和感なく、1.6tくらいの感じで走れます。ただし、立ち上がりでアクセルを踏んだ時だけは1.0tを切っているクルマのような軽さがありました。
分かりにくいですが、8割くらいの領域では車重に起因する両車の違いはあまり感じませんが、残り2割の領域ではかなり差を感じました。
今回の比較試乗では、感覚的な話が非常に多くなってしまったので、ランオフエリアの広いクローズドコースでこの2台を限界アタックした場合に、ラップタイムの面でどちらがどのくらい速いのか気になりました。
それから、もう一つ試乗会のようなものを開催して感じたこととして、クルマの良し悪しを測りたいのであれば、どんなドライバーひたむきに運転技術を日進月歩で磨くべきだと思いました。
精神論にも聞こえるかもしれませんが、自分の運転がそこそこだと思った時点で終わりだと思います。
F1ドライバーと比べたら?WRCドライバーと比べたら?大型バス、トラックの運転手と比べたら?、まだまだ自分の運転が未熟だということを肝に銘じて、ちょっとしたことでも良いので、日々運転技術を向上させる必要があると思います。
様々な条件でクルマの動きを試さない限り、そのクルマを100%に近く理解することは難しいと思います。リスクを少なく、様々な動きを試すためには、運転技術の向上は不可欠だと思いました。
例えばワインディングロードでの運動性のを評価する場合、大前提として車速に関係なく、適切な姿勢でコーナーに入り、適切なラインで旋回して適切なポイントから立ち上がり加速を始めた場合にクルマがどう動くかどうか?が最も大切な評価点であるはずで、その状態にクルマを持っていくことができなければ、適切な評価を下すことができないと思います。それができないなら、単純に電子制御で誤魔化しているだけの車種も良く思えてしまうはずです。
まずは経験値を積むことが大事で、あとは正解を知ることも大事です。独学でも、誰かに教わってもいいし、理詰めで考えていっても、体育会的なノリのトレーニングを受けるのでも良いので、運転技術の向上は不可欠だと思いました。
また同じような話で、自分のクルマは可能な限り新車時のコンディションに近く保つべきだということも強く感じました。
これもそのクルマを100%近く理解するためには必要なことです。コンディションが悪化した状態のクルマを試乗して、新車時の状態を推測しても、どうしても完璧に知ることはできません。今回、私の456GTはダンパーのOHをはじめ、色々と修理し切れていない部分があったので反省しました。