変化する社会の動きを教室に取り入れる!70以上の産官学と連携した「戸田市SEEPプロジェクト」
戸田市教育委員会教育政策室担当課長の田野と申します。
小学校教員として17年間勤務した後、指導主事、教頭等を経て、現職として3年目となります。
今回は、変化する社会の動きを教室に取り入れる!との考えの下、本市が実施している、70以上の産官学と連携した「戸田市SEEPプロジェクト」についてお話させていただきます!
1. 戸田市の教育改革のコンセプトは?
これからの社会は、Society5.0の到来などにより、AI、IoT、ロボット等の技術革新が加速度的に進展し、その社会変化は予測すら困難とも言われています。
本市では、こうした時代の主役である子供たちに「AI では代替できない力」と「AI を使いこなす力」を身に付けてほしいと考え、以下の図をコンセプトに産官学と積極的に連携した教育改革に取り組んでいます。
これらの力の育成に向けては、市内の限られたリソースや学校の力だけではなく、産官学との連携による知のリソースの活用を強力に進めることで、「社会に開かれた教育課程」の実現とともに学校のマインドセットを変えていけると考えています。
また、専門的知見や最先端の教育を導入するために、教育委員会や学校が、自らのビジョンと自律的な教育意思を持ち、学校を「Class Lab」、すなわち実証の場として提供することで、70以上の企業等と多様で双方向的な関係を構築しています。
2. SEEPプロジェクトって?
そうした連携を生かしながら、本市の教育改革の中でも重点的に推進している「戸田市SEEP プロジェクト」について簡単に紹介します。
「SEEP」 とは、Subject、EdTech、EBPM、PBL の頭文字を取ったもので、浸透するなどの意味があり、仏教用語や教育用語で使われるいわゆる「薫習(くんじゅう)」(※)の意味もあります。
(※)物に香りが染み込むように、あるものが習慣的に働きかけることにより、他のものに影響・作用を植え付けること。
【Subject:教科教育の充実】
エビデンスに基づき優れた教師の指導を可視化した「戸田市版アクティブ・ラーニング指導用ルーブリック」(※)を作成し、各教科等の授業の本質を捉えた授業改善を目指しています。
ルーブリックは全校の校内研究等で活用しています。
(※)ルーブリックは、こちらのURLからご覧いただけます!
https://www.city.toda.saitama.jp/uploaded/life/110683_222230_misc.pdf
【EdTech:ICTのマストアイテム化】
本市では授業におけるICT活用の指標として「戸田市版SAMRモデル」(※)を作成するとともに、2016年から学習者用端末と高速ネットワークの整備を進めてきており、「整備」から「活用」の段階に本格的に移ってきています。
具体的には、教師が主導する「指導と管理」の教具的活用から、学習者が主体となった「学びと愛用」による文具的活用への転換を目指しています。
ICTを活用した学びの変革とともに、データを活用した教育DXにも取り組んでいます。
(※)SAMRモデルは、こちらのURLからご覧いただけます!
https://www.city.toda.saitama.jp/uploaded/life/110683_222234_misc.pdf
【EBPM:客観的な根拠への船出】
全国や県の学力・学習状況調査と、国立情報学研究所のリーディングスキルテストの結果などの関係を独自に分析したり、非認知能力の調査研究を行ったりするなど、「教室や授業を科学する」ために、多くの研究者を含む産官学と連携した研究を進めています。
また、質的エビデンスも重視し、EBPM(Evidence Based Policy Making)からEIPP(Evidence Informed Policy and Practice)へをコンセプトに、2019年には「教育政策シンクタンク」を教育委員会内に設置しました。
以前の投稿で紹介したとおり、著名な有識者によるアドバイザリーボードも開催しています。
【PBL:探究的な学びの推進】
こども達が社会課題を自分事として捉え、具体的に解決する学びであるPBL(Project Based Learning)を推進しています。2016年からはプレゼンテーション大会(※)を開催し、成果発表とともに学びのアウトプットの質的向上を図っています。
さらに、STEAM(Science, Technology, Engineering, Art and Mathematics)教育の基盤づくりにも取り組んでいます。
(※)プレゼン大会の動画は、こちらからご覧いただけます!
3. 外部と連携することに抵抗はなかったの?
学校は、「教育村」「学校村」と揶揄されることもあるような、現状を維持し変化を嫌う、閉鎖的な風土がある傾向にあります。
私自身も、振り返ってみれば学級担任をしていた頃は、外部の人材が教室に入ってくることをあまり快く思っていなかったところがありました。
そうした中で、「隗より始めよ」の精神で教育委員会が積極的に外部の企業や人材と連携していき、学校現場に情報を提供し続けました。
もちろん、当初は「なぜ、外部と連携する必要があるのか?」「学校教育は、自分たちで十分できているのにこれ以上余計なことを増やすのか。」「学校や教員の多忙化がより進むのではないか。」など、様々な厳しい御意見をいただくこともありました。
しかしながら、教育長からも学校管理職に「児童生徒の出ていく社会を知ろうとしないのは極めて不誠実」と強い信念で語り続けていただいたこともあり、少しずつ変わってきました。
さらに、教育委員会からのトップダウンではなく、
・「教育委員会では、新たな学び等の原材料や人財を用意するので、料理は各学校で」
・「凡庸な90点の取組よりも、60点でも夢のある挑戦を」
といった学校の「自走」を支援する姿勢を、根気よく伝え続けていきました。
産官学との連携は、これまでの学校教育の否定ということではなく、社会の変化が激しく、予測困難な将来を生き抜く子供たちに対して、専門的知見や最先端の教育を導入するためには、学校現場だけでやりくりをする「自前主義」からの脱却が必要だということが伝わってくると、次々と学校から外部連携の希望が出てくるようになりました。
今では、学校独自に外部との連携を進めているところも出てきて、驚かされることが多々あります。
4. 産官学連携で学びはどう変わった?
本市で推進している戸田型PBL(Project-Based Learning:課題解決型学習)では、具体的な誰かの要望や自身の願望に基づき、何をしていくのか(課題)を決め、期限内にその目標の達成や理想の実現(解決)を目指す活動を通じて、「未来を切り拓く力」を身に付ける社会に開かれた探究的な学び(学習)と定義しています。
その中で、より質の高い学習を進めていくために「活動」や「学び」のホンモノ化にこだわっています。
こうしたホンモノ化した学習の鍵を握るのが、産官学の連携です。
これまでは、何でも学校でやろうとし、教師主導で準備した範囲での学びが多く見られました。
他方、これからの学校教育で重要なのは、脱・自前主義、脱・予定調和、脱・正解主義です。
そのため、産官学の連携により、例えば、フードロスについて考え、地域と連携して、実際に削減するためのレシピを商品化・販売したり、アプリを制作し、市内各商店と連携して運用したり、子供たちの課題意識と解決に向けたアイデアが現実の中で生かされるようになりました。
こうした活動は、子供たちだけでなく、先生方もワクワクして取り組んでいます。
5. 今後の展望は?
大切なのは、教師自らが社会に開かれた存在になることだと思います。
「自ら課題を見つけ解決していく」というのは、子供たちだけでなく、私たちのような教育現場の関係者にも求められています。
現場のかゆいところに手が届くような体制づくりは、教育行政の役割であると考えています。
戸田市教育委員会では、あくまでも各学校が「自走」するためのサポートとして、ICTに詳しい行政の担当者とその指導実践に優れた指導主事、さらに民間企業等の力を活用し、常に最適なハード整備や、活用方法の支援ができるようにしています。
学校単独、教育委員会単独でよい取組をしていても、理論と実践を融合し、共有できる力がなければ、せっかくのよいデータや様々な経験の蓄積が広がっていきません。
教師と児童生徒の間はもちろん、教師と教育委員会の間にも信頼関係を築くことが重要だと考えています。
現在、このSEEPプロジェクトをさらに深化させるために、学校主体での「夢のある学校改革」の提案等に対して、寄附を集めるクラウドファンディングを実施予定です。
後日このnoteで紹介させていただきますので、是非拡散や御支援をいただけますと幸いです!
今後とも、戸田市教育委員会の教育改革への御指導、御支援をよろしくお願いいたします。
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