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短歌写真部「白」
10/20
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白飯を汁で穢した罪を責め
巣に引き篭もる二歳児の意地
しろめしを
しるでけがした
つみをせめ
すにひきこもる
にさいじのいじ
子供が怒る、すぐ怒る
怒ったらそれをはっきりと態度でしめす
素晴らしい、羨ましい
可愛い、でも大変
大人のスケジュールに付き合わせて申し訳ないと思ってます、ごめんね
怒るツボはよくわからない
でも、彼女なりに何か基準と理由はあるようだ
大人にはまったく理不尽に思えるけど
我が家に来てすぐのころは、外界の刺激に反応するだけだったのに、今では好みや嫌いや苛立ちはあるようだ。
その成長が嬉しい
怒りや苛立ちのエネルギーは大きい
自分はこれを理性でコントロールできているのだろうか?
すごいな自分
10/21
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うつむいた視界に映る上靴の
母が洗った白に救われ
うつむいた
しかいにうつる
うわぐつの
ははがあらった
しろにすくわれ
白を白のまま保つのは努力がいる
自分のために誰かがその努力をしてくれている
中学生、職員室、詰問を受ける放課後
周りの大人たちが、皆、自分を責めているように感じられてうつむく
視界にはいった上靴が白い
靴を洗ってくれた母を思う
自分には味方がいる
家事は家族を救う
NHK短歌2月号に写真短歌部として掲載していただきました。
10/22
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穿たれた穴より湧きて夜を浸す
白き光を月と呼ぶなり
うがたれた
あなよりわきて
よをひたす
しろきひかりを
つきとよぶなり
兄「屋根に登って何しとるんじゃ?」
弟「星を棒で取ろうと思って」
兄「ばか、アレは雨の降る穴だ」
空にあいた穴から白い光が湧いてくる
寝ている間に大地に溜まり浸し
冷たい朝が来る
ひときわ大きな穴からコンコンと流れ込み
夜の水深が深くなっていく
10/23
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ペタペタと板の廊下の冷たさに
下ろす吾子泣く露白き朝
ぺたぺたと
いたのろうかの
つめたさに
おろすあこなく
つゆしろきあさ
朝の保育園、子供たちが泣いてる
時々鳴き声の大合唱が聞こえる日がある
今朝はなんでだろなぁと思ってたら
子供の靴を脱がして、廊下にあげた瞬間にうちの子も泣いた
まだなんでこの大合唱なのかピンと来ない
子供の着替えを整理していると次の子が来る
また泣いた
ようやくわかった
廊下が冷たいんだ
そういえば今朝はこれまでになく冷え込んだな
その後も次々と子供達は廊下で泣き
親はなんだろう?って顔をする
泣き声のフーガが響く朝
季節の移り変わりが愛おしい
10/24
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長ネギがクタリうなだれ邪魔にされ
白根伸びろと仕事してます
ながねぎが
くたりうなだれ
じゃまにされ
しろねのびろと
しごとしてます
スーパーの駐車場
エコバッグに長ネギが突き刺してある
振り回されて、ぶつかって、見るからに邪魔そうだ
その邪魔な長さ、私が仕事として苦労して伸ばしている部分なんです
普段の生活で、邪魔だなぁと思う仕事がある
道路工事
エレベーターのメンテナンス
説明確認署名
会議
必要なことで、そこを仕事にしている人がいて、私が知らないだけだったりするんだろうなぁ
10/25
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うちよせる雲の白波音もなく
我もさらって行けよ遠くに
うちよせる
くものしらなみ
おともなく
われもさらって
いけよとおくに
雲は音一つなく
ダイナミックに動き変化し流れて行く
畑で下を見て作業していると、その変化に気がつかない、思っている以上に早く流れる
西の空からあふれて押し寄せて
東の空に吸い込まれて行く
私の想像も一緒に流される
10/26
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鍋うまし肩までつかる大根に
たまごちくわが「湯加減いかが?」
なべうまし
かたまでつかる
だいこんに
たまごちくわが
ゆかげんいかが?
畑の大根がまるでお風呂に入っているように見えたので、そのまま歌ってみた。
鍋の旨い季節になった。
嬉しい
10/27
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言い訳の飛んだ展開吹き出して
赦すできれば続編も待つ
いいわけの
とんだてんかい
ふきだして
ゆるすできれば
ぞくへんもまつ
謝罪は赦して欲しいとの表明で、赦してもいいかなと思う事と言い訳の中身はあまり関係がない。
私にとっては、論理的に正しいから許すわけでも、本当のことだから許すわけでもない。
時間が経ったから、人に話してスッキリしたから、同じ失敗を自分もしたから、怒る事に疲れたから、こいつじゃしょうがないからとか。
なんとなく赦す事に納得できたら赦す。
納得できてないのに、状況的に赦さなきゃいけない状況はつらい。
だったらとんでもない方が聞いてて楽しい。
笑ったら負け。
赦すための白々しい儀式を面白く。
10/28
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いざ行かん残る白線読み解きて
踊れ芝生と風を追い越せ
いざゆかん
のこるはくせん
よみときて
おどれしばふと
かぜをおいこせ
公園に残された白線は、子供にかかれば宝の地図になるらしい。
キャプテンになった子供の後を指示に従って歩く。
芝は海
ススキは魔女の白髪で、
散らばる石は人喰いザメだ。
父の冒険はここまでだ。
容赦無く置いていってくれ。
10/29
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チャンプルをザルの上待つ木綿見て
足りぬいちごと子供の期待
ちゃんぷるを
ざるのうえまつ
もめんみて
たりぬいちごと
こどものきたい
キッチンのカウンターにある白いかたまりに
学校から帰ってきた子供が駆け寄る
その正体が豆腐とわかると明らかに落胆して去っていく
イチゴか?サンタか?
華やかさか?甘さか?
勝手に期待して、勝手に落胆して
まったく!
10/30
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微睡のミルク色した時雨朝
ドドン鳴る傘スズナリの赤
まどろみの
みるくいろした
しぐれあさ
どどんなるかさ
すずなりのあか
目が覚めたのか、まだ夢の中なのか
空どころか空気さえ白く濁った朝
突如、傘を叩く音に目が覚める思いをする
叩いたバチの色も目も覚めるような赤
10/31
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歯科医師の白衣挟んで10㎝
鳴る腹の音に笑いこらえて
しかいしの
はくいはさんで
じゅっせんち
なるはらのねに
わらいこらえて
笑ってはいけない時ほど、笑いへの衝動は強い
高度な文脈とか関係ない、生理現象はズルい
11/1
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子は二つ 父は四十五
対等にお一人様になる特売日
こはふたつ
ちちはしじゅうご
たいとうに
おひとりさまに
なるとくばいび
震災以降食材のストックは増えた。
でも、それを超えて妻は砂糖を貯める。
お一人様一つの品を遠くまで家族で買いに行って、マックで外食をするくらいだからお金の問題ではない。
安く買って、貯める。そこに理由はない。
私もそこに反論も意見も関心もない。
妻の前に幼児も夫も平等である。
11/2
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目にうまし柿食わんとて書き言葉
柿の空白不在の小鳥
めにうまし
かきくわんとて
かきことば
かきのくうはく
ふざいのことり
この不自然な柿はどうやって出来たんだろう?
食べた小鳥を想うと決して楽な姿勢ではない。
この柿のうまさは十分に味わった。
11/3
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大地踏みネギと雲とのトンネルを
青空目指し後ろ見ず行く
だいちふみ
ねぎとくもとの
とんねるを
あおぞらめざし
うしろみずいく
土と空の恵みで父が育てたネギ
それらのトンネルをなんの疑いもなく進む
その気になれば、ネギなんて踏み倒して横に行けるけどまっすぐ行く
そこに疑いは無い
11/4
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来た道の航跡眺め前進む
先は見えない変わるさっきを
きたみちの
こうせきながめ
まえすすむ
さきわみえない
かわるさっきを
湖に浮かべたボートをこぐように、人は後ろ向きに未来へ入っていく。目に映るのは過去の風景ばかり、明日の景色は誰も知らない
ー ポール・ヴァレリー
子供の頃は前しか見てなかったのに、今は自分がやった事の影響ばかり気にしてる。
というか、自分がした事で変わっていく景色を眺めるのが楽しくて仕方ない。
草取りをし肥料を撒いた畑で変わるネギの緑
一緒に行った映画のパンフレットを読み返す息子
水槽を変えて太る金魚
変わっていくさっきが私の未来だ
11/5
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AIも洗濯物は畳めない
絵描き歌詠み
母を讃えよ
えいあいも
せんたくものは
たためない
えかきうたよみ
ははをたたえよ
クリエイティブだって思っていたアレやコレは、思ったより早くAIができるようになった
あんまりクリエイティブだと思わなかった家事は、なかなかAIがするのは難しいらしい
AIができることは創造的じゃない、とは言わないけど、家事って思っていたよりも創造的なのは間違い無いと思う
11/6
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きたる白 さりゆく赤の交差点
秋離れ行き冬迫り来る
きたるしろ
さりゆくあかの
こうさてん
あきはなれゆき
ふゆせまりくる
ヘッドライト・テールライト
旅はまだ終わらない
ー 中島みゆき
車中のラジオから流れる中島みゆきの歌を聴いて、来る白と去る赤の連想ゲームになった。
白いスカイツリーと赤い東京タワー
白い波と赤い夕陽
白い冬と赤い秋
11/7
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白い息直に交換する朝
小さな答え小さく問えば
しろいいき
じかにこうかん
するあした
ちいさなこたえ
ちいさくとえば
大きな声と話をすると、自分の声も大きくなる。
小さな声と話をすると、自分の声も小さくなる。
声の大きさは自然とそろう。
小さな答えを聞こうと思ったら、小さく問わないといけない。
顔を近づけて、白い吐息が直接届くような距離で。
11/8
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白黒の古い写真に俺がいて
今朝の鏡に父が微笑む
しろくろの
ふるいしゃしんに
おれがいて
けさのかがみに
ちちがほほえむ
親孝行の褒美を尋ねられ、幼い頃に亡くした父との面会を求める村人。
困る役人は箱に入れた鏡を送る。
鏡が一般的でない時代のこと、初めて見る鏡の中に、村人は確かに父を見る。
ふとした瞬間に祖母も祖父も母も父も兄も姉も自分の中に見つける事がある。
そして、子の中に自分を見つける事がある。
ということは、子の中にみんないる。
11/9
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母怒鳴り壁を殴ったあの日から
白いパンツを履かなくなった
ははどなり
かべをなぐった
あのひから
しろいぱんつを
はかなくなった
食事から洗濯、下着の買い物までしてもらって、反抗も何もあったもんじゃない。
と、その頃の俺は考えた。
親になった私は考える。
私が子供のためにしている事が、子供の首輪になるのは嫌だなと、そんな事は気にせずにバンバン反抗して欲しい。
怒ったり、喧嘩したりはするかもしれないけど。
11/10
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夜に浮きて海漂わず澪標
秋て長むる月は猶予
世に憂きて倦みただ酔わず身を尽くし
飽きて眺むる月は十六夜
よにうきて
うみただよわず
みおつくし
あきてながむる
つきはいざよい
サンキュータツオさん出演のポッドキャスト「ゆかいな知性」を聴いて、漢字は必要だ!と、鼻息荒く漢字のあて方で意味が変わる短歌を作ってみた。
複数の意味を成り立たせることだけを考えたので、中身は正直ない。
けれど、がんばって意味を見つけようとすると、なんとなく意味が出てくるロールシャッハテストみたいな短歌になった。
書いた自分でも読むたびに意味は変わる。
変な短歌ができた。
11/11
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朝ぼらけ嘘と真のにじむ霧
水面のつがい互い前見て
あさぼらけ
うそとまことの
にじむきり
みなものつがい
たがいまえみて
濃い霧で隣で泳ぐパートナーの姿も見えない。
それどころか、水面に映る自分の姿もあやしい。
それでも掻いた水の動きで存在はわかる。
パートナーも自分の動きに反応して動くので、自分の存在も確認できる。
本当のもなんて、あるかどうかはわからない。
でも、何かをした結果や変化は確かにあって、伝わってくるそれを頼りに、あわいの水面を生きる。
11/12
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これなぁに?
想う間は悩めない
答え出るまで幸せ時間
これなぁに
おもうあいだは
なやめない
こたえでるまで
しあわせじかん
農薬の種類に、病気が入る穴を先回りして別の無害な菌で埋めてしまうことで、病気を予防するというタイプのものがある。
世の中、考えてもあまり幸せになれないタイプの悩みってある。
先回りして、面白い問いや無害な思考で埋めておいたらそう言う悩みを少しは予防できないかな?
11/13
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追いかけて逃げて走って転がって
雪のキャンバス
足跡の筆
おいかけて
にげてはしって
ころがって
ゆきのきゃんばす
あしあとのふで
雪で真っ白くなった校庭で子供たちが遊んだ後の足跡が、まるで絵画のように見える事があった。
子供達は足跡を残そうなんて思っていないし、こう動こうなんて考えていない。好きに遊んだだけ。
歴史を眺めると、その場の反応や対応、失敗が、あとから俯瞰で見るとまるで意図や意味があった一枚の絵を描いているように見える事がある。
それは誤解だと思う。
それはもちろん、私のこれまでの人生も同じ。
私の足跡はどんな形で残っているのか?
この学校の卒業生たちはどんな足跡を残しているのか?
通った小学校が廃校になると聞いて、正月に帰省した際、早朝いってみたら、意外とたくさんの仲間たちがいた。
11/14
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君と僕
「大人」と「子供」切り刻み
「親子」で包む
言葉のぎょうざ
きみとぼく
おとなとこども
きりきざみ
おやこでつつむ
ことばのぎょうざ
「わかる」は「わける」だ。
世界を切り分けて、言葉のラベルをつけることでだんだん「わかる」領域が増えていく。
ただ、分け方は無限にある。
分ける言葉を変えると、みじん切りになったものを別の小袋に分けられたりする。
結局、わけてはいるんだけど、くっつけているようにも見える。
料理で食材は形をなくし、食事へと、さらに私の体へと変わっていく。
11/15
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飲み込んだ空に落ちゆく
一粒の涙とどまる
雪に隠れて
のみこんだ
そらにおちゆく
ひとつぶの
なみだとどまる
ゆきにかくれて
熱気球は逆さになった水滴の形をしている。
しかし、真っ直ぐに落ちていかない。
たえるように、こらえるように、
留まる努力をしている。
落ちるのを我慢した涙は、その後どうなるんだろう?
11/16
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硬い服剥きてあらわの柔肌を
好みに染めて食べ頃を待つ
かたいふく
むきてあらわの
やわはだを
このみにそめて
たべごろをまつ
家事にエロスを感じることがある。
密かな楽しみである。
ペットボトルのラベルを剥がす。
吊るした洗濯物が頬を撫でる。
下拵えをして食べ頃を待つ。
11/17
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風雪に消えて読めない看板と
敬語の母の頭
真白で
ふうせつに
きえてよめない
かんばんと
けいごのははの
あたまましろで
赤い字の消えた看板
たいせつなものが何だか思い出せない
ー 豆打だんす
大切なものから先に消えてしまうこともよくあることだ。
母にとって、私はもう息子に見えない。
他者に話しかけるように敬語で話す。
いや、それすらもうなくなった。
今は幼児のように話す。
よくあること、どこにでもあることだ。
11/18
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ただ進むガードレールに射出され
帰り思ってため息吐きて
ただすすむ
がーどれーるに
しゃしゅつされ
かえりおもって
ためいきつきて
自分がピンボールの玉のようだと思う事がある。
打ち出され、自分の意思ではなくバンパーにぶつかってはじかれ、成り行きで飛び回る。
それはそれで気楽な部分もある。
ただ、自分は最後に帰らなきゃいけない。
それだけは自分の意思で、自分の力で、それを思うとため息が出る。
まぁ、帰ってもまた射出されるんだけどね。
11/19
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人生の夏を過ごした日々のはて
時雨に濡れてこれも紫陽花
じんせいの
なつをすごした
ひびのはて
しぐらにぬれて
これもあじさい
谷川俊太郎さんの訃報が届く。
本当に多彩な詩を読ませてもらった。
これからも楽しませてもらう。
紫陽花は梅雨の色変わりが印象的だけれど、時雨に濡れる姿も紫陽花だ。
木は来年も花を咲かせる。
テーマ「白」で一日一首、不思議と家族が多く出てきた。
白は行き着く先、風化し終えたゴールのイメージもあれば、まだ何も手がついていないスタートのイメージもあった。
悪いイメージはあまりなかった。
悲しいさみしいイメージは結構あった。
最後の紫陽花は終着で、それでいて賑やかで、悪くない最後だった。
初めて雑誌に採用された。
それが目的だったわけではないけれど、ものすごく嬉しい。
評価される、多くの人の目に触れるというのは嬉しいものだったのか。