Selectionと戦った10,000時間:【その1】AmazonにおけるSelectionとは?
サマリー
ベゾスが紙ナプキンに描いたFlywheelでも中心に据えられるSelection。AmazonにおいてSelectionはPricingやDelivery Experienceと並び、One of oldest fundamentalsとして世界中で最重要指標となる。今回は、消費財事業でSelection拡大戦略をリードした数年間からの学びについての導入のお話。
はじめに
セレクションに関して書き始めると、恐らく一つの記事にまとめるのは難しいと思うので、数回の連載にしようと思う。
幸い数年間の格闘の末たどり着いたSelectionの考え方自体も、いくつかのPhaseにわけられるのでちょうど良い。
今回のお話はその導入として、そもそもAmazonのSelectionってなに?ということに関して。
Selectionとの出会い
Amazonにいた時の半分はSelection大臣を拝命していた。Selectionに関わる一切の質問や意思決定をリードする役割だ。
正直3年間は寝ても覚めてもSelectionのことを考えていて、少なく見積もっても総思考時間10,000時間を超えるんじゃないかと思う。
おそらく日本中でも、もしかすると世界中でも、消費財のECにおけるSelectionに関し、これだけ頭を悩ました人っていないんじゃないかと思う程Selectionについて考えていた。
でも入社した当時は、Selectionって一体何をすればいいのか全然わからなかった。
とりあえずコンサルから事業会社に転職したいという思いでエージェントに勧められ、社内コンサル的な部署ということで選考を進めたProduct Manager of Selection。
JDも簡単に言うと「Selectionを増やすために戦略を練って、部門と協力してより良い顧客体験を実現する」といった感じ。
当時のボスも「俺も初めて開けるポジションだからよくわからなくてさ。一緒に面白いことやっていこうよ。」と言うノリであった。
周りの人にAmazonのSelectionってどんなことやってると思う?と聞くと、大抵は「バイヤーが抜群のセンスで流行の最先端の商品をとってきて、ネットでバズらせて、大儲けする。的な?」と返ってきた。
正直その頃の自分の理解もそれくらいで、そんな自分が当時年間数千億円の売上のDivisionの、しかも消費財とはいえまったく趣向が異なる7事業部(ドラッグストア、ビュティー、ラグジュアリービューティー、グロッサリー、ワイン、ベビー、ペット)のSelectionの責任者になったもんだから、本当に頭を抱えていた。
AmazonにおけるSelectionの指標
そもそも、僕が入社した2017年頃は事業部の中にSelection専任のPMは存在しなかった。ベンダーマネジャーと言う対ベンダーで交渉している人が、業務の片手間に担当していたのだ。
Amazonでは全ての活動にMetrics(指標)と呼ばれる数値が設定されていて、それを0.01%のレベルで毎週毎週レビューし、Gap fill action(目標に対してBehindだった場合の改善action)が求められる。(この内容だけでNoteが何冊かかけるので、詳細はまた他の機会に)
SelectionもそれらMetricsの一つで、とりわけ重要な指標の一つとして管理されている。
これはベゾスがナプキンの裏に書き落としたFlywheelの中心にSelectionが据えられていることからも、重要さが想像できると思う。
Amazon.com strives to be Earth’s most customer-centric company where people can find and discover virtually anything they want to buy online. By giving customers more of what they want – low prices, vast selection, and convenience – Amazon.com continues to grow and evolve as a world-class e-commerce platform.
Selectionの成長をどのように測っていたかというと、お客様が買うことができる商品数を”Buyable Selection”と呼び、毎年年初に今年は何%上げるというTargetを立てる。
その他にも、
・Buyable with Instock(在庫がある状態のSelection)
・Buyable with Glance View(カスタマーにチェックされたSelection)
・Buyable with Fast Track(3時間以内に出荷可能なSelection)
・Selection with a Sales(売れた実績のあるSelection)
などがあるが、これはのちの連載で触れようと思う。
このBuyable Selectionを成長させるには、主にBuyerがSelectionを獲得するに尽きる。
AmazonでのSelection戦略
AmazonでのSelection戦略は、一言で言うと:
「どのカテゴリーで、どのようにSelectionを増やしていき、どのような売り場をカスタマーに提供するのか」を定義する
に集約できると思う。
この一見当たり前に思えるこの一言を言語化するのは本当に大変だった。
考えてみてほしい、”どのカテゴリー”で”どうやって伸ばすのか”なんて、日々の消費財であるドラッグストアやグロッサリー vs. 嗜好品であるビューティーやワインではカスタマーのニーズが全く異なる。
”どう増やすのか”と言うのも、新規のブランドをとってきたり、獲得済みのブランドでも未獲得のSKUを獲得するのではアプローチが異なる。
そもそも、”増やす対象がどれだけあるのか”をどうやって網羅的に把握するのか。どこまで増やす伸び代があるのか、何がまだ取れていないのか。そんなことは皆感覚でしか解っていない。
そして、”どのような売り場にするのか”と言うのも、例えカスタマーに聞いたとしても「品揃えが多い店がいい」くらいの回答しか返ってこない。完全な解は存在せず、サイト全体の売上げだけが戦略の正当性を証明してくれる。
これらを構造化し、数値化し、仕組み化し、カスタマーのためにより意味のあるSelectionを増やしながら、カリカリにロジックを詰め、Japanの社長やSenior Managementに対して戦略の正当性と進捗を説明していく、これがSelection大臣のお仕事だった。
おわりに
今回はSelectionに関する連載の導入として、そもそもどのような経緯でSelectionの担当となり、AmazonのSelectionがどのような指標で成長度合いを測られていて、一言で言うSelection戦略とは何か、と言うAmazonにおけるSelectionのお仕事について話した。
ここからは具体的なもう少し具体的なSelection戦略策定のためのアプローチについて説明しようと思う。