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古ぼけた家
ひさびさに親に電話をしてみたところ、ゆうに半日は潰れそうな用事を言いつけられた。
古くから懇意にしていた家にいまも暮らす人物が、周囲とつきあいを断って家をゴミ屋敷にしつつあるという。かつてを知る人から相談を受けたが自分は高齢のため「誰か代わりにいけないかと思っていたところだった」と押しつけられた。しかも早いほうがいいから今日にしろと。
電車と徒歩で片道40分以上かかるその場所に、移動中である。
現在その家に暮らす女性については、あまり覚えていない。親が懇意にしていた先代住人の親戚で、60くらいの年齢かと思うが、顔を見てもおたがいに認識できないだろう。
周囲と没交渉で、明け方に家の外に向かって大声を出すなどの苦情があり、ゴミ屋敷の手前だそうだ。そんな人のところに出かけても話題はないし、外観だけ確かめて留守だったと言ってしまおうかと、到着前からひそかに作戦を練っていた。
最寄り駅に降り立った。高校生のころ、親に代わって何度か手土産を持ってきたはずの界隈だったが、様変わりしていてよくわからない。
どうにか近くまで歩くと、古ぼけた家があった。ここだろうかと思ったとき、意外なことに家の前にいた小柄な老女が声をかけてきた。「○○さんでしょう?」と、こちらの苗字まで言う。
意外な展開に戸惑っていると、親が電話をしたそうだ。
「20年ぶりくらいにお声を聞いて驚きました。このあたりがどう変わったかを見にいかせるので、ここにも寄るかもしれませんというお話でしたので、表をずっと見ていたんですよ」
そういう話にしておくなら移動中にメールで伝えてくれたらいいのにと思ったが、親は長文メールは打てないので仕方がない。
古ぼけた家だが、ゴミ屋敷の手前というほどのことはない。いったいどういう連絡の行き違いなのか。外観や大きさは以前と異なる気がしたが、薄れた記憶のせいだろう。
旧交を温め合うような間柄では、もともとなかった。相手もまた家の中に誘う様子もないので、かえってありがたいまま、5分ほどぎこちない立ち話をしてその場を辞した。
帰りの駅まで歩きながら親に電話をした。ゴミ屋敷ではなかったと告げると、おかしなことを言う。
先方には電話をしようとしたが、つながらなかった。だから見にいってくれと言ったのだ。家を間違えたのだろう——
思わずその家の方角をふり返ったが、もうどこだったのかもはっきりしなかった。
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