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極楽荘立退き物語(その6)

206号室、そこに住んでるのはダンブルドア先生から魔法と知性と気力と前歯を抜いたような老人だった(常にボロを着て、ルンペン同様だったのでルンさんと呼ぶ)

極楽荘最高齢の80オーバー、私が1番好きだった住人でもある。

この人w

ルンさんは寡黙でシャイ、シケモクをふかし、畳や布団には何箇所も焦げ跡があった。シンプルに危ない。足が悪かった。昔は市場で働いていたそうだが、足を怪我して働けなくなったという。驚くことに年金生活者で、至急される毎月5万円の年金で、毎月少しの赤字を出しながら、本当に慎ましく暮らしていた。

ルンさんは最初はこちらの問いかけに何も答えなかったが、通う内に少しづつ話しをしてくれるようになった。寝る時は分厚い靴下を履く、それでもねずみに足を齧られ、靴下には穴があいていた。ねずみに齧られたことがあるかい?寝てても痛くて飛び上がるぜ、ルンさんは恥ずかしそうに笑った。

引越しについては願ったり叶ったりだが、何しろ予算が少なかったので、引越し先選びが難航した。そしてルンさんは寡黙でシャイだが、引越し先に対するこだわりがとても強かった。

ちょっと狭いなぁ、ここはジメジメするなぁ、暗いなぁ、銭湯が遠いなぁ、家賃は3.5万が限界だなぁ、もっと良いのないのかなぁ‥‥

このクソジジイが!と内心思ったが、ルンさんはどこか憎めないキャラだったし、終の住処となる場所なので、納得して暮らして欲しかった。

やっとの思いで条件に合ったアパートを見つけたが、そこからがまた大変だった。

ルンさんは高齢だ、そして見た目はホームレス、脚を引きずっている。不動産屋も明らかに貸したくないという顔つきだった。私が緊急連絡先になるので無問題!管理も兼ねる不動産屋を1時間かけて説得した。大丈夫!この人はこう見えて元気です!まだまだ生きます!と。

ASANOさん!呼んだらすぐ来て下さいよ!

私 お任せあれ!

ルンさんは携帯を持ってなかったので一緒に買いに行った「俺さ、携帯前から欲しかったんだ」ルンさんはとても喜んでくれた、操作方法も一通り教えたが、かける相手がいるのかは聞けなかった。短縮1には私の番号を登録した。

私は立退きをする際、すべての作業を出来る限り自分でやる、交渉、引越し先の手配はもちろん、役所周り、引越しもハイエースを借りて自分と兄と手が足りなければ友達を呼ぶ、極力外注はしない、それはその作業の中で賃借人との信頼関係を育む為であり、彼らに感謝を植え付ける為であり、進捗を徹底して管理する為であり、第三者との余計なトラブルを避ける為だ。

ルンさんはシャイだが、感謝の気持ちをいつも示してくれた。

今のところ、管理会社からの連絡はない。

極楽荘立退完了まで残り2/6人

次回(その7)「アル中の口癖は俺は馬鹿だからわからねぇ」に続く


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