イベルメクチン効果はあるのか?
興和の治験結果
興和が期間を費やして行っていたCOVID-19患者への治験結果が先日発表され、有意な効果はなし(確認できない)とされた事を受け、ネットではイベルメクチンは効果はないとの観測が広がりました。なぜか本薬剤に関する説明不能な反発ですとか、一部サイトにおける警告文などによる印象低下措置が取られており、否定的なトーンが過剰に熱を帯びたのですが、一部詳細を記事から参照することができました。
前半が興和の詳細説明、後半は記事を書いた長尾先生の所感(判断)となっています。
まず治験の説明については「割とふつう」という印象です。既視感のあるもので今まで治験に関する争点が解決されておらず、ここまでのまとめの一つで結果は感度が悪かったという内容だと思いました。
長尾先生の感想についてはなんとも言えない部分と共感する部分がありますが、指摘されている通り、投与開始が遅いとは思いました。
効果がないとする結果自体はそのように受け止めて差支えないものですが、過去解説させて頂いた服用方法からするとNGな用法であると思いました。新たに進展があるものではなかったのです。
もし、一点新事実があるとすればオミクロン変異には効果が低いのかもしれないという点です。これは頭に留めておく必要ありますが、先ほど書いたように決定的な内容がありませんでしたので、何とも言えないというのが素直な感想です。
イベルメクチンの記事を書いているので肩を持っているのではないかと思う方もいらっしゃるかもしれないので、私自身も期間を置いてこの記事を書いていますが、ニュースの見出しが与えるインパクトほどには進展のない内容の一つであった、という事はまず指摘しておきたいと思います。
三日以上経過してからの投与
COVID-19に対して、イベルメクチンは比較的軽症・または症状化する前の予防段階で効果を発揮する例が多いため、興和社長のコメント、長尾先生の見解とも「症状が進行していて投与のタイミングが遅い」「早期投与における効果は測定判断できなかった」との主旨の発言をされておりますが、こちらには全く同意です。
別の言い方をしますと、測定可能な効果は早期投与でしか数値化できないのではないかと思います。今回の治験でも症状の進行を食い止めている可能性はありますが、測定対象が改善したかどうかですので、悪化したか・重症化したか・最悪亡くなったかは分からないのではないかと思います(分かりません、もしくは数値化できるほど測定値がありません)。
また、イベルメクチンは後遺症治療にも使用され、個人差はあるものの味覚が戻ったなどの医療的な症状認定が微妙ながら、明確な自覚症状の改善がオミクロン期に於いても散見されますので、後遺症の経過観察も判定して欲しい内容であったかと思いますが、こちらも明確になりませんでした。
なお、海外でイベルメクチンが有効とされた治験は医療機関主導で実地で直ちに行われており、今回に比べると早期投与が実現できていると考えられます。
容量が少ない
最初にご注意ですが、効果を焦って本剤を高容量で服用する事は全くお勧めしません。推奨する服用方法は、抗生物質と同じで、少量ずつ持続的に長期間服用する事です。これ以外の服用方法を取りますと、肝臓腎臓への負担があり、生き延びたウィルスが変異する可能性があります。感染中に変異した場合は「効いているのに治らない」という状況になります。仮に12mgであれば3mgを一日空けて4回服用すれば8日間薬効が持続します。ウィルス治療は根絶を目標に根気よく行って頂きたいと思います。
以上のお断りをした上でなのですが、イベルメクチンの治験で測定できる効果を報告している場合、多くが今回の治験の服用量よりも高容量を使用しています。
そのため、測定はできなくとも潜在的な効果は存在するというのが今までの理解であって、今回もその範囲の測定しかできていないのです。
後発で変わり映えがしない
大変失礼ですが、興和さんの治験は北里大学と考え方が似ているように思います。開始時期がCOVID-19の感染拡大より2年経過、その間に報告された多くの治験結果を見ています。それら先行する報告には感染の波が増減、移行する際に、変異が移行するとか免疫獲得や感染者数の母数集団に影響が出るなどして正確な統計情報が取得できていないのではないかという疑義も持ち上がっておりました。
日本の研究が陥りやすい誤りの一つかと思いますが、コンディションが整ってからでないと測定しないという考え方が偏って強く感じます。要は責任論ありき(やる前から批判を気にして)で、確実性の担保がない状態では計測しない研究が医療に限らず多いのです。
こういった場合はまず測定し(non stableなデータ)、次に確実性を担保したデータを区別して採取します。分析はこの違いを頭に置いて比較しながら行うわけです。
こうしないと重要かつ決定的な初期データの取りこぼしが発生します。
測定が安定しない時期にしか取得できないデータがある事が一つ、時間経過すると他の因子が影響してくる事が一つです。
このような点にまで踏み込んだ研究ではなかったのではないかと思います。観察範囲を広げるためのアイディアですとか、工夫は必要だったかもしれませんが、そういったオリジナル性はなく、従来的な治験を踏襲したので因子による効果が測定できなかったのかもしれません。
効果測定の感度が低い治験をなぞってしまった可能性があります。
主観による推察
ここには少し自分の考えを書いてみたいと思います。
まず、なぜ進行すると効果が出にくいのかですが、感染の主体が血管や他の組織表面から細胞内に移行している事が一つの原因かもしれません。
イベルメクチンは受容体の働きをコントロールしてウィルスの細胞への侵入を防ぎますが、細胞内へ侵入したウィルス(異物)を攻撃する方法はCl-イオンを取り込み抗生物質のように働く方法です。しかし細胞内(特に筋肉細胞には多いかもしれません)にはCa2+イオンがあり、Cl-と結合してしまいます。細胞内のCaイオン濃度が低下するとウィルスRNAを覆っているカプシドの分解を促進してしまいますので、結果的に攻撃方法が感染速度を上げてしまう可能性があります。複数同時侵入された場合などはメリットとデメリットが拮抗してくるかもしれません。増殖速度が異常に速いウィルスという事もありますから、化学療法全般にどこまで効果があるのかも疑問(結果的に効果のある薬は少ないか副作用が大きい)です。
重症化や後遺症(接種による後遺症含む)への効果はTLR7の免疫賦活剤として働く事です。ウィルス性肺炎になった人の体ではTLR7の変異が多数見つかる事から、ウィルスと最前線で戦っている免疫となります。
TLR7は適度にコントロールされていなければなれませんが、相反する働きを持っています。
A.接種や感染の際にスパイクたんぱく質等を増産し、増殖速度を上げる
B.不足するとウィルス性肺炎の際に自己免疫疾患を進行させてしまう
量が適切にコントロールされていた方が良いのですが、感染期には少ない方がよく、重症化期には肺や内臓では増えた方が良い事になります。このうち、イベルメクチンの使用は重症化期間に有効と考えられます(ただし高容量点滴でないと効果が見込めないという報告はあります。しかし細菌性肺炎への移行は区別してステロイドや別の抗生剤を使うべきです)。本来は肺細胞への浸透性が高い薬剤になります。
感染期の防御はバランスが大変難しいので、やはり細胞内に侵入する前(感染初期)に防御した方が良いように思えます。
特に血管内皮受容体が損傷を受けると
・繊維芽細胞の多発とマクロファージ過剰応答によるウィルス性肺炎の劇症化
・内臓の血管炎
・繊維芽細胞の多発による心筋炎
・一次血栓の多発
〇血球の増減に伴う体調不良
〇血小板低下で内臓等で内出血しやすくなる
〇白血球増加による自己免疫疾患(皮膚下、肺、臓器など)
〇血栓移動による脳梗塞または心停止などの循環器系障害
その他に直接的な理由は分かりませんがリンパ球減少による抵抗力の低下による不調も初期に発生すると考えられます(感染が判明した時点では低下しています)。
こういった多発性の深刻なリスクを抱え込む事になりますので、仮に測定が明確でなくとも予防・軽症化効果の見込める抗ウィルス薬は服用しておいた方が安心で、免疫賦活剤としてTLR7のコントロールを行うイベルメクチンは有効なのではないかと思います。
これらのリスクは時間差ありますが、内出血による障害は比較的早期、内臓の炎症は(感染の場合は)ある程度進行してからと期間に幅があります。こちらを合わせて考えてもイベルメクチンの服用期間は長めにした方が良いかと思います。
また、後遺症の影響を考えた際にも、実は他に後遺症に改善効果が認められる薬剤はあまりなく、漢方薬による緩和治療を繰り返しながら治癒するケースが多いのではないかと思います。
まとめ
イベルメクチンの効果が出ない治験報告は数は少ないがある
それらの特徴は投与が遅く容量が小さい
オミクロン変異が感染におけるイベルメクチンへの何らかの薬剤耐性を持つ可能性はあるが、オミクロン変異の後遺症には有効とする例もある
イベルメクチンによる軽症改善効果は測定できるほど大きくないと思われるがそれ以外の予防効果の有無などは現在分からない
以上です。ありがとうございました。
追伸
なお、関連の話題です。
今回の治験でイベルメクチンの早期治療薬としての販売は中止となりましたが、別件で10倍活性型のイベルメクチンの研究がMeiji Seika ファルマと北里の間で2029年まで行われています。計画変更は今のところ聞いておりません。
サポート頂けると嬉しいです。