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桃太郎伝説ファイル3 【白4企画】『桃太郎』

あ、はい、私がそうです、ええ、鬼ヶ島に行った犬ですね。
え? そりゃ、偽犬もたくさん出ましたよ、当時の人気に乗っかってね、俺が鬼ヶ島行った犬だって、そりゃもうわんさか。でも、間違いなく、私が本物です。
証拠? いやぁ、そう言われましてもね、何せずいぶん前の話でしょう、吉備団子なんてとっくに食べ終わってるし。
当時はなんだか熱に浮かされてボーッとしてたんですよ、ええ、名乗りませんでした。
そうだ吉備団子!あんた、あんなもんで鬼ヶ島に連れて行かれた私の話を聞いてくださいよ、それが本物の証ってやつじゃないですか。

あれはねぇ、私が道ばたで、文字通り犬死にしそうなときですよ。
全く不運なもんで、前代未聞の大不況の上、大干ばつがあったでしょう? 犬にやる飯代を使うぐらいなら、その犬を食っちまえって、飼い主の桃恵さんが親父さんに言われてねぇ。
いや、桃恵さんもずいぶんと頑張ってくれたんですよ。だけど、やっぱり自分たちの食い扶持の方がそりゃ大事だ。ワンワン泣きながら「育てられなくてごめんねぇ」って泣いてくれてね。元気かなぁ、今頃、子供の一人も産んでるんですかねぇ。
愛情深い人だったからね、きっと、私のことをずいぶん気にかけてたと思うんですよ、私のことなんてさっさと忘れて、子供にでも愛情を注いでいるといいなと思います。

あ、そうそう、吉備団子の話ね。
桃恵さんの家から出ていって、あ、もちろん自分で家を出たんですよ、それが男ってもんでしょう! 好きな女を苦しめるぐらいなら、自分から身を引くってのが……あ、そう?
じゃあ話を戻すけどさ、あんたもせっかちだね。
でね、それから空腹で空腹で、スーパーのゴミ箱なんて漁ったりしてなんとか生きてたんですけどね、そしたら「ドロボー!」って怒鳴り声。
もう、私が言われたと思ってね、焦って逃げ出そうとしたら、その私を追い越す人がいるじゃない。
それが、あの婆さん。そうそう、噂の出所の、あの婆さんですよ。
もう、すごい健脚なの。私より足が早いんだからびっくりよ。二人しておんなじ方向に一目散。後ろから「ドロボー!桃ドロボー!」ってね。
私は、桃を盗んだ覚えはないけど、必死に婆さんの後を追いましたよ。

あ、そうですよ?
え、川で拾った? 
いや、普通に考えて、桃が川から流れてくるっておかしいでしょう? 川なんて全部干上がってたんだから。
婆さんがね、スーパーで桃を万引きしたのが真相。
まぁでもしょうがないと思いますよ、だって本当に大不況の大干ばつ、生きるための食糧を買うのもギリギリな人ばかりだったでしょう。桃なんてとんでもない贅沢品。
だけど、あんた、爺さんが、死に際に桃が食べたいって、そう言ったらしいんですわ。
爺さん? あ、全然元気だったんだけどね。元気すぎて食い扶持が減らないから、桃食って死んでくれって家族に言われたんですって。
ええ、爺さん婆さんには孫までいましたよ。
これがまた冷たい家族みたいでねぇ。爺さんと婆さんに食わす分を惜しんじゃってさ。
だから、婆さんは、爺さんと最後に桃食って死のうとしたってわけ。

そうそう、それで私は婆さんの後を追ってね、婆さんちまで一緒に走ったの。
桃を抱えて婆さんは必死だったから、私のことに気づいてなかったみたいだけど、家についてから「あんたの分の桃はないんだけどねぇ」って私を見て笑ってくれたんですよ。
まあ、私も死ぬ一歩手前だったんでね、事情を話して、一緒に死のうって思いまして。
そんで桃を切ってもらったんですよ。
そしたら、桃があんた、腐ってるわけ。何がドロボーだよ。こんな腐ったもん売るつもりだったのかよって、みんながっかり。
その上婆さんが、店に文句言ってくるって言うんですよ、万引きしたくせに。
おっかしくてねぇ、そこでみんなでゲラゲラ笑いましたよ。もう、あまりにも物事が上手くいかないと、やっぱり最後は笑っちゃうもんなんですね、もうお腹抱えてねぇ。
そしたら「楽しそうですね」って。
誰だと思います? スーパーの店員! なんと、家まで追いかけて来てたの!
まぁ、近所のスーパーだもんで、婆さんがどこの誰かバレてたんでしょうね、婆さんも、そのへん何も考えてなかったろうし。

で、そのスーパーの店員こそが、桃太郎さんですよ。
「話は聞かせていただきました」って。
どっから聞いてたのよあんたってね。全く、桃から生まれるより都合のいい話なんだから、私も仰天。
まぁでも、本人が聞いたってんだから聞いたんでしょうよ。
今から死のうとしてたこと、桃が最後の晩餐だったこと、その桃が腐ってたこと。
そしたら桃太郎さんは悔しそうに言いました。
「この干ばつの原因は株式会社鬼ヶ島による、気象変動装置が原因です」

どうやらね、日本の気候やら雨量やらをコントロールする技術が鬼ヶ島にはあったらしいんですよ。
聞いたところ、日本の四季まで崩れてるのは、その鬼ヶ島のせいって。で、鬼ヶ島の中だけは、農業も酪農もベストの状態になってるってんですから、そりゃもう丸儲けってわけ。
「スーパーで調べた結果、販売元は全て株式会社鬼ヶ島であることがわかりました」
桃太郎さんは、爺さんと婆さんに、そりゃもう丁寧に説明してましたね。

……いやいやいや、本当ですって!!
ほら、だからあの当時、鬼ヶ島の装置を壊しに行った私たちが英雄になったんですよ。
え、装置なんてなかった?
あったりまえですよ、おんなじ物作られたらたまらないですからね、雉沼さんと猿渡さんが完全に装置を破壊して証拠も消しましたよ。
あの二人も、吉備団子で桃太郎さんが引っ張ってきたらしいの。
あの二人、本職知ってます? 消防士と弁護士? ああ、嘘ですよ、逆です、放火魔と詐欺師。
正確には、依頼されて動く組織に属してるとかで、単独犯とか愉快犯とかではないらしいんですけどね、完全に裏の人間です。
あ、人間ですよもちろん!
どこで動物って噂になっちゃったかって、そりゃ、私が犬だからじゃないですか?
なんてったってすぐ逮捕されちまうような人たちですからね。雉さん猿さんの方が都合が良いってもんでしょ。
消防士の雉! 弁護士の猿!
もう絶対キャラが立つじゃないですか、これが情報操作ってヤツですよね。
あ、私? 私は「人たらしの犬」でしたね。いや確かにね、◯◯士ってかっこいいから付けてほしいとは言ったんですけどね、人たらしは士業じゃねぇだろって! 

桃太郎さん? あの人はスーパーの店員って言ってましたけど、まぁまず只者ではないですよ、だってなんか変な装置をよく使ってましたもん、メガネみたいなヤツとか。
「見た目はスーパー店員、中身は極悪非道、真実はいつも闇へ!」
ってね、決まり文句がそれですよ? カタギじゃないでしょう?

ああ、そうそう、それで、爺さんと婆さんちに来た桃太郎さんが言うわけですよ。
「この犬譲ってくれたら桃ドロボーの件は問いません」
私ね、別に爺さん婆さんの飼い犬でもないわけですし、あげるも何もないのに、二人が秒で「いいですよ、あげます」ってんだから、全く世知辛い。一緒に死のうとして笑いあった仲じゃないですか。
まぁね、結局生きてるし、私の食い扶持がまた増えたら、息子夫婦にもどやされるわけでしょう? 仕方ありませんよ、私がくれてやられても文句は言えません。
それより、桃太郎さんがなんで私を欲しがったのか、それもよくわかりません。

で、桃太郎さんは黄色い団子をくれたんですよ、そうそう、吉備団子。
ちっさいヤツ。一口ペロリ。そしたら
「食べましたね? それでは、たった今から、主従関係が成立です」って言うもんですから恐ろしいですよ。だって、こーーーんなちっさい団子ですよ! どうせなら、腹一杯食わしてから言って欲しいセリフですよ。

ええ、それから夢中で働きました。
まずね、野良犬のふりして、いやまぁ、野良犬だったから楽勝なんですけど、鬼ヶ島に潜入するんですよ。カメラなんか付けて。
ええ、鬼ヶ島の牛なんて、丸々太ってんですよ! びっくりしましたよねぇ、その頃は牛はおろか、人間様もみんな痩せ細っているような不況ですからね。
稲穂もたわわに実って、あれですよ、頭を垂れる稲穂かな? とか言うんでしょ? まぁとにかく、緑豊かでみんな幸せそうなわけですよ。
犬も丸々してましたねぇ、私みたいなガリガリの犬なんてかえって目立ちそうなもんですよ。

そしたら、あんた、鬼ヶ島の人間ってのがまたいい人ばっかりで!
ガリガリの私を見て、ご飯もくれるし、家の中入れてくれるし、風呂に入れて、新しい服もくれて、しまいには名前まで付けてくれるんですよ! まぁ、桃恵さんにもらった名前が、私の生涯の名前って決めてるんでね。新しい名前を名乗るつもりはなかったんですけど。
ええ、もちろん、もう帰りたくねぇなって思いましたよ!
桃太郎さん、吉備団子しかくれないし。
でも、今思えば、その吉備団子に何か入ってたんですかねぇ……あれ食べるとなんだか頭がボーッとして……ああ、この辺の話は忘れてくださいよ、桃太郎さんは今や英雄ですからね。オフレコってヤツにして、ああ! ダメダメ! 絶対私が言ったなんて書かないで下さいよ! だったらもう話しませんよ!
ええ、ええ、はい。そうしてください。

で、なんでしたっけ?
そうそう、鬼ヶ島の人間ってのは、いい環境に住んでいるからでしょうね、とにかく悪い人が全然いないんです。おっとりしてるというか、穏やかというか。
そもそも、鬼ヶ島に住んでいる人のほとんどは、まさか気候を変動させて成り立っているところに住んでるって知らなかったんじゃないですかねぇ?
島の外は、食うにも困ってる者がわんさかいるなんて全然。
だってあんた、鬼ヶ島には、スーパーどころか、テレビもラジオもなかったですよ。
気象を変動させるだけの技術があるのに不思議なもんです。

そういえば、あの、ほら、ノアの方舟計画がどうのこうの…って、前に随分とニュースでやってたでしょう? 楽園を作り直すための計画で、侵略が失敗したんだか成功したんだか。私はね、あれがどうも引っかかってるんですよね、鬼ヶ島と関係してたんじゃないかって。
いや、私犬なんでね、そのへんのところは詳しくないんですけど。
なんか、あのうやむやにされた感じがねぇ、桃太郎伝説と似てません?

え、もういい?
なんでよ、あんた、こっからが桃太郎さんの活躍でしょうが!
ちょっと、私が吉備団子で頭がボーッとしてたってことは書かないでくださいよ!

え、桃恵さん? あれあんた、なんで桃恵さんの写真持ってるの? 
え!? 違うよ、桃太郎さんは男ですよ、桃ちがい桃ちがい!
桃恵さんとは生き別れたまんまですって。
隠してる? なんでよ、私が一番桃恵さんに会いたいって言うのに。
とにかく、桃太郎さんは男。確かに中性的だったし、変装もよくしてたけど。偽名かどうかは知らないけど、男でしたよ、間違いないですよ、だって私犬でしょう? さすがに嗅ぎ分けられますって。
え、知りませんよ、桃太郎さんが今どこにいるかなんて。もちろん写真もないですよ、ええ、雉沼さんも猿渡さんも、どこにいるんだか、伝説ばっかり残ってますけどねぇ。 

なんかそういや、ちょっと前も桃太郎さん探してた人がいたなぁ。
…あれ? あんた、鬼ヶ島の人じゃない…? 違う…?
私犬なんで、結構匂いとか覚えてるんですけどねぇ…?
あの、ほら、ピーマンとか作ってた? 違う? ああ…そうですか。

いや、でも、鬼ヶ島の人って言ったらあれですよね、自分たちだけ豊かに暮らしてたって一人残らず糾弾されて、その後どうなったんでしたっけ?
あれも酷い話ですよ、だって、鬼ヶ島の人たちは何も知らなかったと思うんですよね、さっきも言ったけど。
まぁ、私犬なんで、よくわからないんですけどね。
全く犬で良かったですよ。詳しくなんて知ったら、頭がこんがらがっちまう。
だって、桃太郎さんって伝説の英雄ってことになってるけどねぇ、私に言わせたら……いや、なんでもないですよ。あの人はこの世界を救ったってわけですからね。

ところで、桃恵さんの写真、どこで手に入れたんです?
私にその写真、くれませんかね?
え、もう必要のない写真なんですか? やった! じゃ、遠慮なく。


※ ※ ※ ※ ※

桃太郎伝説当事者ファイル3
遠野 源太(21)
自称、犬
当時8歳
薬物による記憶障害あり。現在治療中。徐々に当時の記憶が戻っている?
引き続き、桃太郎伝説の当事者を捜査。
なお、遠野桃恵(52)当時39歳は伝説と無関係の可能性が高い。



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【白4企画】『桃太郎』に参加します!

ええと、ちなみに、桃太郎伝説当事者ファイル1と2は、お爺さんとお婆さんですね、多分、知らんけど。

楽しくうんうん唸って書きました。気象変動装置ってなんなのよ!とか思いつつ、そういうのを疑いたくなる暑さです。
自称犬、当時8歳って書いたら、ちょっと体温下がりました。

企画が出てからというもの、頭の中は、「良い桃太郎」「普通の桃太郎」「悪い桃太郎」でいっぱいでした。
夏休み、実家帰省中、猛暑、頭の中はまとまらず、スイカ食べてもメロン食べても脳内は桃。(茨城メロン最高)
どれか一人でも桃太郎を出さないと、桃に頭が乗っ取られそう!
ズルりと出てきた桃太郎は、これは……私にも答えがわかりません。

それにしても、桃太郎!
わかりやすい話な分、ちょっとでも人のを読んでしまったら引っ張られそうですよね。
桃太郎にはいろんな解釈もあるから、なんだかこう、膨らむような、それでいてどこかで聞いたことがあるような感じになるのがまた難しい…書いててこれもどこかで聞いたことある気がしてきて、むむむ…!

この、一斉に24日提出っていうのが、すっごい企画だなぁと、ワクワクドキドキでした。
これから、皆さんの桃太郎を読むのが楽しみです。

白鉛筆さん、面白い企画をありがとうございました!!
参加できてとても楽しかったです!
(というのを、22日現在書いていて、24日は、運命的に岡山県にいます!)



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