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この世界の温度

ギュッギュッギュッ…
美知子は、雪の上を歩くのが好き。
ギュッギュッギュッ…
月夜に照らされる白い足跡。

豪雪地帯のこの村に、お嫁に来た初めての夜は満月だった。
月明かりに照らされて、驚くほど明るく光る雪景色。
「少し歩きましょうか」
そう言われて、夜の散歩に繰り出した。
ギュッギュッギュッ…
辺り一面真っ白な世界に、聞こえるのは2人の足音と、かすかな呼吸音。

「美知子さん、誤って田畑に落ちると、雪に埋もれて出られなくなりますからね、よく気をつけて、夜は1人で歩いてはいけません」

月夜の雪景色の美しさに、つい山の上や森の方に目をやり、それから夜空を見上げたりしながら歩いていたら、おかしそうに注意をされた。

暗闇に、ボウッと照らされる世界と、それから私たち。
まるで世界に2人にだけ体温が与えられているよう。

美知子は、凍えるような空気を思い切り吸い込んで言った。
「じゃあ、これからも、こんな月夜の晩は、一緒に歩いてくれますか?私、この世界がとても好き」

もちろんですよと答えてくれたその声は、今ここにあるこの世界の中で、1番温かいもののようだった。
美知子は、白い息をホゥっと吐きながら、
「約束ですよ、寒いからといってサボらないで下さいね」そう言ってふふふっと笑った。

ギュッギュッギュッ…
美知子の足音がシンとした夜道に響く。
満月の明かりが、まるで昼間のように美知子を照らす。
「今日はとても素敵な散歩日和」
美知子は、ひとりつぶやきながら、白い道を歩く。
すると、道の端に何かが一瞬動いた気がした。
「あら、キツネ?それともうさぎ?」
興味を惹かれて、歩き慣れた道を、少しだけ踏み外す。

ボス…ッ

…あら私としたことが。あんなに注意されたのに、叱られちゃうわ。
美知子はクスクス笑いながら足を引き抜こうとしたけれど、新雪はとても柔らかく、体を支えようとしても腕が埋もれてしまう。
「あら困った。出られないかもしれないわ」
美知子は、のんびりそう言うと、そのまま力を抜いてゴロンと空を見上げた。

月の明かりが、真っ直ぐ美知子を照らす。
このままここで、体温を失ってもいいかもしれない。
この景色を見ながらあの世へ行けるなんて、もしかするとすごく幸せかもしれないわ。

* * *

「あれ、ばぁちゃんはー?」
「あ、また散歩に出ちゃったんじゃない?あれほど、夜に出歩かないでって言ってるのに」
「でも今日はキレイな満月だから、淋しいのよ、おじいちゃんいなくなって。私探してくる!」

美咲はぴょんと雪道を駆け出した。
少し走ると、道の端に、おばあちゃんのピンクのジャンパーが見えた。
「やだ、おばあちゃん!埋もれちゃったの?」

「あらみぃちゃん。今ちょうどお迎え来ないかなって思っていたのよ」

「やめてよ、のんびりそういうこと言うの!」

この世界には、あなたと同じ温もりがあって、まだそちらに行けないわ。

月明かりに差し伸べられた手を握りながら、美知子はふふっと夜空に笑う。


(1196文字)


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冬ピリカグランプリに応募します。
危なかった、文字数…
つい余分なことを書きたい性分が出てしまう私。
2021、最後に頭を使った感じ、とても楽しかったです!

さぁ、あとは、食う寝るサボるを、義実家で、いかに上手くやるかに頭を使います!笑

皆さま、良いお年をお迎えください。
また来年も、どうぞよろしくお願いします!

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