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強い痛み強い光

私は痛みに強いらしい。

20年ほど前の話だが、足首の骨をどうやら粉々にした。
レントゲン写真を見ながら
「あー、見事なまでに粉々だわー!」
と、妙に嬉しそうに言う先生を凝視。
マッドサイエンティストならぬ、マッドドクターを彷彿とさせている。

その先生が「いけね、笑ってる場合じゃなくてね」
みたいな前置きをしたので
「やっぱり笑ってたんかい!」とツッコミたかったが、それどころではない、脳天を刺激する痛み。
まず、靴を脱ぐのにも靴下を脱ぐのにも、「グゥゥゥオア……!」と、喉の奥から聞いたことのない呻き声が出た。
出来ることなら、ハサミで切ってしまって欲しい、とにかく私の足首に触れてくれるな、触れるなら、まず気絶させてからにしてくれ!
喉の奥に住み着いた、未確認生物がグルグルと低い唸り声をあげている。
そんな危機的状況であるにも関わらず、先生が続ける。

「脱臼もしてるのね。これ、今すぐ戻さなきゃいけない」
言葉を理解するより早く、先生が後ろにいる看護師に頷いた。
音もなく、もう一人看護師が現れる。一体どこから?
診察室がただならぬ緊張感を漂わせている。
完全に人体実験が始まる前段階のやつだ、知らんけど。多分私は殺される。
そう直感した。
私の両隣に立った看護師は、無言で私の肩を力強く抑える。

「じゃ、一気に行くよ!!」
言うや、先生は、私の粉砕した足をガシッと鷲掴みにした後、存分に引っ張り、ネジりあげ、「あ、足も押さえて、もうちょい引っ張る」とか言っている。

とんでもねーことだった。
とんでもねーことだった。(2回言う)

「よし入った!!」と言う先生の声が聞こえた頃には、私はあまりの痛みに脳貧血を起こし、両目が全く見えない状態になっていた。
「大丈夫ですか!?」と看護師さんが言う。
意識もはっきりしている。
しかし、どんなに目を見開いても視力が戻ってこない。
「あの、今私、多分びっくりしすぎて目が見えてません」
「そうですか、少しそのままじっとしていてくださいね」
実際に白眼を剥いていたのだろう。車椅子の上で、私は息も絶え絶えだった。
目を白黒させるとはこう言うことなの…?と思いほか冷静に思っていたら、先生が
「思ったほど痛がりませんでしたねー」と、気持ち残念そうに言った。
マッドドクター!


その数年後の出産。
ずんどこ早まる陣痛に「あの、なんか生まれそうなのでもう行ってもいいですか?」と病院に連絡を入れるも
「初産だから、まだまだよー」と笑われた。
そうか、まだまだなのか、と自分に言い聞かせたが、やけに感覚が短い。
これは直感だが、もう生まれるぞ、ここで出てしまうぞ?と思った。
「あの、やっぱり、生まれる気がします…!」
再度病院に連絡すると「じゃあまあ来てもいいけど、分娩室にはすぐ入れないですよ」と冷たい返事。

しかし、実際に病院について触診するなり「あら、もう6センチ!これ、あと2時間かからないわ!」と助産師さんが言った。
看護師さんが「えー!?空いてないんですよ分娩室!」とか言いながら、バタバタと診察室を出ていく。
「ね、生まれるって言ったでしょ…?」
母になる自分の直感に従って良かったと安堵するも、分娩室がなかなか空かない。助産師さんが焦り出す。
分娩室に入れた頃には、どうやら子宮口は全開であった。
「はい、いきんで!!」とすぐさま言われて、「ヒッヒッフーはいつやんの!?」と思った。出産って、あそこがピークちゃうんか。

それから助産師さんが叫ぶ。
「はい!出てきたよ!」
グハァ!やったー!と思った束の間だった。
「…あら…、肩が引っかかってるわ…」
低い声で、助産師さんが先生に言っている。
こちとら必死に痛みと闘っている最中なので、いいから出してくれぇ!と勝手にもう一度いきんだら
「今いきまないで!!!」と止められた。
出てるのに、もう出てるのに、イキンデハナラヌとは。
お前はゲロを止められるタイプなのか!?(赤子とゲロを一緒にすんな)
無情すぎて助産師さんを睨みつけてしまったのに、彼女はお構いなしでこう言い放った。
「一回戻して、回転させながら出します!!」

一回戻す!?!?

ど、ど、どこに何を戻すのですかっっ!!??
と確認する前に、陣痛の痛みを遥かに超える痛みが私を襲う。
助産師さんが、力尽くで私の赤子を産道に押し戻していた。

とんでもねーことだった。
とんでもねーことだった。(再び)

一度戻され回転を加えられ、そこから無理くり出された娘は、なんと4000gを軽く超えていた。コイツを一度戻した…だと…!?

出産の痛みより、出てきた娘の巨大さに慄いている私に助産師さんは後日こう語った。
「あなたね、初産で4000g超えをスムーズに出産しすぎるわ。二人目を妊娠したら、トイレで出ちゃう可能性があるから、よくよく気をつけなさい。あと、私が思うに、あなた、人より痛みに強すぎる体質ね。そういう人は、命の危機の時を見過ごすから気をつけなさい

痛みに強い。
私は、痛みにとても強い。
いや。違う。多分痛みには敏感だし、やべーやべー死ぬ、死んでまう!なんてちょいちょい思っている。
ただ、人と比べて、この痛みがどれくらいのものなのかを考えてしまって、大騒ぎが出来ないタイプなのだ。
この程度で騒いで、恥ずかしくないかしら?みんな超えられる痛みなのかしら?
この痛みは100なの?実は60だったりしない??
「グゥゥゥゥオア…ッ!!」未確認生物だけが、喉の奥でのたうち回る。

で、急に話題を替えますが。

この度、ありがたいことに。心のそこからありがたいことに、創作大賞中間発表者に名前を見つけることが出来ました。しかも2部門。
そこだけ強く光っているように見えて、私だけが見える幻じゃないかと。
驚きすぎで、脳が処理できず、ボーッとしているうちに日々が過ぎてました。
仕事でひとつミスをしました(コラ)。
おめでとうございますの文字を見るごとに、ああ、本当なんだと思いました。
Xの賑わいを自分のこととするのに、随分時間がかかりました。

去年、創作大賞でどこにも何も引っかからず、割と、いや結構落ち込みまして。
でも、そのショックをどれぐらい騒いでいいかわかりませんでした。
落ち込むほど頑張った? 100落ち込める? 実は60ぐらいなんじゃない?
いや。
本当は、すんごく痛かった。痛くてたまらなかった。

つい先日の文フリ大阪で、反省文書いて、冷静に自分の分析をして。
これからも気合い入れて、楽しんでいこう!と気持ちを新たにしてまして。
「さて、そろそろ中間発表。とんでもねえパンチがもう一発来るんだよ…」
と、私は、来たる痛みに備えてたんです。
とんでもねー痛みが来る。また来る。
それでも、私は絶対歯を食いしばろう…!!

……。
…………え。
ウソまじで……?

わーい!とか、やったー!の前に、痛みが来なくてホッとしている自分がいました。
あ、痛くないふりをしなくていいんだ。
初めて、ホッとしたんです。
ホッとしたと同時に、まだちょっとだけドキドキが続くんだという事実に慄きました。
目標が中間通過だった自分のお尻をぺんぺんしたい。
痛みを恐れて目を瞑っていちゃいけません。
強い痛みも、強い光もこれからの私の糧にしなくちゃいけない。

まずは、心から。
応援してくださった方々に感謝!
本当にありがとうございます。
自信を無くすとすぐ力をくれる皆様のおかげで、大きく前進出来ました。
これからも、楽しく書いていきたいと思います。
これからも、どうぞよろしくお願いします!


とき子

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