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退屈な10億年 【イヤフォン・ライオットを考える】

イヤフォン・ライオット

奴らは言う Just a moment
うちらにとっちゃ10億年
待てるわけないだろ

私立恵比寿中学『イヤフォン・ライオット』より


「10億年」の意味を考えます。

2021年リリース、ちょうどコロナ禍ど真ん中に作られたこの楽曲は、大人がいう「たった数年」は子供にとっては貴重な数年間で、それが失われることの重大さを表現していると考えられています。考えてみれば私も高校入学が2019年だったと思うので高校時代の大半をパンデミックとともに過ごしました。

「大人たちが『家から出るな』って言った1年間は、うちらにとっちゃ10億年くらい長いんだよ!!!!」という。


ただ、10億年は盛りすぎじゃないですか?誰も経験してないですよね、そんな期間。ホモ・サピエンスの誕生が30万年くらい前ですよ?


だから「10億年」にはなにか別の意味があると考えています。
そして、私にはリリース当初からずっと推し続けている説があります。
「退屈な10億年」です。

いまから18億年前から8億年前までの10億年間、環境変動や生物の進化はなく、酸素濃度がとても低かったことから昆虫等の生物や大きな植物、山さえ存在せず海に浮かぶ微生物だけが静かに生きていた時代がありました。

なぜ始まったのかすら解明されていませんが、その期間は"Boring Billion(退屈な10億年)"と呼ばれています。

ちなみに、22億年前と7億年前には全球凍結イベントが発生。それに伴って酸素濃度が急上昇するという大きな出来事があったことで退屈な10億年の「なにもなさ」が強調されてしまいました。


私も詳しいわけではないので論文の知識をつなぎ合わせて解説します。正確ではない可能性がありますのであしからず。

22億年前に全球凍結が発生したと述べました。発生原因は二酸化炭素などの温室効果ガスの濃度低下。逆に、凍結が終焉するのは火山活動の活発化による二酸化炭素の大量放出です。
さて、全球凍結が終わり、二酸化炭素が大量に放出されたことにより、地球の平均気温は60℃を超えたといわれています。すると大陸の地表面が風化侵食され、そこに含まれていた栄養が海に大量供給、シアノバクテリア(藻)が大繁殖することになります。

大量に生まれたシアノバクテリアはどう地球に影響するでしょうか。そう、光合成により酸素を生み出します。それによって酸素濃度が急上昇しました。

現在と同程度までに上昇した酸素濃度ですが、火山活動によって少しずつ下がっていき、100分の1ほどに下がると安定します(酸素オーバーシュート)。

しかし、「退屈な10億年」の間はそれどころではありませんでした。なにしろ、大気中には低濃度ながら酸素は少しだけあったものの、海の中は無酸素といわれています。

あれだけ酸素を生み出したシアノバクテリアはどうして消えたのか。

答えは、海洋中の栄養不足です。

当時の海洋は、生物活動にとって極めて重要な栄養素であるリン酸塩の濃度が、現在のわずか数%程度と著しく枯渇しており(図3)、その結果、海洋表層における生物生産(光合成活動)も同程度に著しく抑制されていたことが明らかとなりました。さらに、地質学的時間スケールでのO2生成も現在の25%程度しかなかったものと見積もられました(図4、5)。このことは、当時の地球環境が貧酸素条件にあった理由は、海洋が貧栄養環境で生物生産が抑制されていたことが主な原因であったことを示しています。すなわち、“退屈な10億年”は、飢えによる酸欠の時代であったといえるのです

https://www.toho-u.ac.jp/press/2018_index/20181005-919.html

全球凍結後にあれだけ海に供給されていた栄養が、10億年の期間中にはなかったんですね。ちなみに、栄養が供給されなくなった理由は地殻が薄くなったことが挙げられています。地殻が薄くなり、地表面の侵食が減り、栄養が海に流れなくなりました。

酸素の生成循環は以下の通りです。

地表面の侵食→海への栄養供給→藻の発生→光合成による酸素濃度上昇→生物の繁殖、多様化→有機物の埋没(高い山の発生)→地表面の侵食

このループです。しかし、地殻が薄くなり、地表面が侵食されたことで、

地表面が侵食されない→海の栄養がない→酸素濃度が上昇しない→生物が生まれない→山ができない

という、ループが抑制されたことによる一種の負のループが発生します。


くだらんループを抜け出そう

私立恵比寿中学『イヤフォン・ライオット』


こういうことです。


さて、「くだらんループ」を終わらせるには光合成で酸素を増やすことが不可欠です。光合成には何が必要でしょうか。水、二酸化炭素、光です。

バクテリアは海に浮かんでいるので、水はいくらでもあります。二酸化炭素も不足していなかったでしょう。残るは、光。


ここを照らせよ太陽

私立恵比寿中学『イヤフォン・ライオット』


ここにつながります。


まあ、別に光は不足してなかったと思いますけどね。問題は栄養の枯渇による藻たちの母数の不足でしょうから。

そして、そんな数少ないバクテリアたちも苦しみながら生活していました。

10億年もの間、生命をつないできたバクテリアの方々。前述しましたが、ホモ・サピエンスの誕生が30万年前です。そんな浅い歴史の我々が、「退屈な10億年」などという一言で表していることを、長い間我慢し続けたバクテリアさんや地球さんはどう思うでしょうか。

奴らは言うJust a moment
うちらにとっちゃ10億年
待てるわけないだろ

私立恵比寿中学『イヤフォン・ライオット』

「奴ら」は我々。「うちら」は地球か、バクテリア。

なんか、近くないですか??


考えてみれば、「まじこんなんじゃやだ一生つまらん」も「退屈な10億年」に掛かっている気がしますね。


とはいえ、あくまでこの楽曲のテーマは最初に紹介した若者と大人の感覚のギャップだと思います。あくまで二次創作的な観点で読んでいただけたら嬉しいです。


https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/gbi.12317

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