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「宇宙戦士バルディオス」全話レビュー (11)情無用の戒律

あらすじ

 一向に戦果が上がらないことに苛立つアフロディアは鉄の戒律を科す。そのやり方に疑問を持った前指揮官のジャーマンはガットラー総統に進言し、バルディオス討伐のため、地球側が亜空間探知アンテナを建設中のアリゾナへ向かう。

Aパート:非情の戒律、長官の励まし、ジャーマン失敗、戒律による裁き
Bパート:ブービートラップ、敵メカ登場、ソナー破壊、それぞれの指揮官

コメント

 いまだ、何ら戦功を立てられずにいるアフロディアは、軍の引き締めを図るため、非情の戒律を布告する。それは、次のようなものだった。

ひとつ、勝手な行動は死刑
ふたつ、敵に背を向けた者は死刑、
みっつ、敵に情けをかけた者、かけられた者は死刑、
よっつ、戦隊を乱すものは死刑・・・

 アフロディアの「鉄の戒律」である。察しのよい人は、もうこれだけで笑いが込み上げてくるのではないだろうか。自分の作った戒律に、自分も縛られる、となると…
 と考えた者がアルデバロンの中にもいたようだ。アフロディアから指揮官の地位を奪われた、ジャーマンである。彼はガットラー総統に謁見し、「あれはいきすぎだ、総統がなぜ女に指揮を任せたのか理解できない」と申し立て、バルディオスを倒して見せると明言する。それを聞き入れたガットラーは、彼にアリゾナ行きを命じた。地球側が建造している亜空間探知用巨大アンテナを破壊せよ、というのだ。

 意気軒昂に出ていくジャーマンだが、アフロディアはガットラーに異議を申し立てる。しかしガットラーは「鉄の戒律を破る者がいなければ戒律のこわさを示すことができない、あの男は指揮官の器ではない」と、この指令に裏があることをほのめかすのだった。

 一方地球側では、アリゾナのグランドキャニオンの谷底に、巨大な亜空間ソナーのアンテナが建造されており、これがあれば地球は勝てる、とブルーフィクサーの隊員たちの士気が上がっていた。そんな彼らに「無駄だ」と水を差すのがマリンである。しかし、ここでマリンの存在価値を認め始めていた月影長官が「無駄とわかっていてもできるだけのことはしなければならない」と彼らを諭した。クインシュタイン博士も「その無駄を無駄にしないために、ブルーフィクサーがあるのではないですか」と同調し、隊員らは納得する。

 が、マリンは一人部屋を出て行き、思い詰めた様子だった。彼は地球より科学の進んだ異星人だけに、いまの地球の科学力を客観的に評価してしまうのである。そんな自分自身の「冷たさ」を、彼は顧みていたのだ。
 そんな彼に対し、月影長官は「人間には自分を冷静に見る目がない、それと同じように地球人は地球の科学力を信じているのかもしれん」と話しかけ、彼に「だからこそ、君の冷静な目が我々には必要なんだよ」と励ますのだった。

 ひさびさに、両陣営の動きが対比的に描かれる今回、「鉄の戒律」で失敗には死、という恐怖で部隊を縛るアルデバロンに対して、無駄と思えることでも無駄にはしない、と隊員たちを鼓舞するブルーフィクサー、という構図が面白い。これに応えて、アルデバロンの攻撃から亜空間ソナーを守り抜くのか…、という「筋」を思い描いていくわけだが、本作は、そうした期待を超えてくるところに面白さがあるのだ。

 出撃したバルディオスは、亜空間ソナーの建造現場へ飛び込んでいく。驚く現場作業員の前で亜空間へと突入。一方、ジャーマン側は部下が「バルディオスが待ち伏せているのでは?」と進言するものの、激怒の末突撃を敢行し、あえなく敗走することとなった。ジャーマンはアフロディアの定めた鉄の戒律「敵に背を向けた者は死刑!」の掟に触れ、さらに、もう一度チャンスを、とガットラーに懇願するも、「勝手な行動は死刑、おまえは指揮官アフロディアに断りもなく行動した」という理不尽な理由で、見せしめのため処刑される。

「これで鉄の戒律は浸透する、アフロディア、わしにとって信じられるのはお前だけだ」というガットラーに対し、アフロディアは、新型メカ、ベムラーでバルディオスを倒してみせる、と息巻くのだった。

 前半では見事にジャーマンをトラップにかけ、鉄の戒律で葬り去ったガットラー。後半ではいよいよ、アフロディア自身が出撃し、今度はマリンをトラップにかける。そしてあっけなく、亜空間ソナーは新型メカ「ベムラー」によって破壊されてしまう。
 怒りに燃えたマリンは、バルディオスであっという間にベムラーを袈裟斬りにすると、単身、パルサ・バーンでアフロディアの乗る船を追撃するのだった。透明円盤でマリンを迎撃するアフロディアだったが、形成逆転の末マリンに追い詰められてしまう。

 しかし、マリンは「その傷では、俺と対等には戦えまい」と、敵将を殺すことなく引き上げてゆくのだった。

 終幕では、それぞれの陣営が帰還したマリン、アフロディアを迎え入れる様子が描かれる。敵将を逃したことに怒りを隠せない雷太はマリンを殴りつけるが、月影長官は「みんな、よくやった」とねぎらいの言葉をかけ、雷太には、おまえだったら、敵とはいえ負傷した女性を撃てるのか、と諌めた。そして「君たちにとって大切なのは、次の戦いへのチームワークだ」と、これまでとは打って変わって、失敗からも学ぼうとするポジティブシンキングな指揮官の一面を見せる。

 一方、自ら「鉄の戒律」を破ったことを自覚するアフロディアは、「見事亜空間ソナーを破壊した」とご満悦のガットラーの前で、敵に情けをかけられたことを告げられなかった。
 はたして、アフロディアの脚の傷を見て「どうした、名誉の負傷か」とつぶやいた総統は、そのことに気づいていたのだろうか?

 それにしても、この「鉄の戒律」はユニークである。アイデアの元となるのは、やはり映画「十戒」でよく知られる、旧約聖書の十戒(10の戒律)であろう。シナイ山でモーセが神から授かった、とされる戒律で、これを守るなら、奴隷状態だったエジプトを出て流浪の民となっていたイスラエルの民は「約束の地」に入れる、とされていた。だがモーセ自身、神の命令に背く行いをしたことが問われ、彼自身は「約束の地」に入ることができなかった。
 では、「鉄の戒律」を布告された、S-1星の民は、どうなるのだろうか。そしてそれを布告した、アフロディアの運命は…、と考えると、続きが気になって仕方なくなるのであった。

キャラクター紹介

ジャーマン

 ガットラーが、女性であるアフロディアを最高戦闘指揮官に任命したことにより、その地位から外されたと思しき軍人。復権を図ろうと、自ら申し出てバルディオスと対決するが、あっけなく破れ、戒律により死刑となる。

メカ紹介

ベムラー

 本作の敵メカには珍しいタイプの人型ロボット。アフロディアの指揮の下、あっという間に亜空間ソナーを破壊するが、バルディオスにはなすすべもなく敗れ去る。実は毎回敗走しているアフロディア、自分を客観視できないばかりに自らの首を締める羽目になった。

今回のスポットライト:マリンの見た風景

 第11話は「鉄の戒律」を定めたアルデバロンと、異星人マリンを受け入れつつ敵に対抗しようとするブルーフィクサー、それぞれの陣営と指揮官の有り様が対比的に描かれて、非常に見所のあるエピソードとなっている。
 そんな中、戒律を利用してジャーマンを陥れるガットラーの「支配力」、そしてマリンとアフロディアとが直接対決する、という展開にワクワクのだが、ここには、そうしたストーリー展開のさらに上をゆく、作者の仕掛けた「トラップ」があることに注目したいと思う。

 無事ジャーマンの部隊を退けたブルーフィクサーだが、これに気をよくして「S-1星恐れるに足りず」と油断しまくりの雷太に対し、「油断は禁物」とマリンが釘をさしたため、またしてもチーム内の空気は刺々しくなった。いたたまれず、一人グランドキャニオンの上の荒涼とした大地の上に佇むマリンだが、そのとき、ふと既視感を感じる。

どうしてこの景色を覚えているんだ、
そうだ、S-1星にもあった、こんな景色が。
似ている・・・

 地球に来た当初は、S-1星が環境汚染のため失った青い海と青い空に感動し、この自然を守りたいという思いに動かされてきたマリンだが、今度は、その風景がS-1星と似ていることに、驚きを覚えるのである。

 何気ない、この戦いと戦いとの合間の一場面こそ、作者が私たちに仕掛けたトラップであったことに気づくのには、本作の終盤まで待たなければならないのだが、「戒律」がモーセの「十戒」にヒントを得ているのだとしたら、モーセがイスラエル民族を率いてエジプトから目指す「約束の地」もまた、かつて、イスラエルがまだ小さな部族だったときに暮らしていた土地であり、未知・未開の地ではなかった。他の諸民族が、その地を統治していたのだ。その構図が、本作の「原型」になっているとしたら・・・?
 
 そこまで織り込んで、この一場面を挿入したのだとしたら、その構想力は見事の一言。

評点

★★★★★
 両陣営の心理を描きつつ謎のタネをまく傑作回。マリンとアフロディアの直接対決もいい。

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