機動戦士ガンダム 全話レビュー第18話「灼熱のアッザム・リーダー」
あらすじ
ホワイトベースを脱走したアムロは上空を巨大なモビルアーマーが飛行しているのを見る。その窓の奥には、マ・クベとジオン軍突撃機動軍司令官のキシリア・ザビ少将の姿があった。翌日、フラウは廃墟に隠れるアムロを見つけるが、彼は帰らず、そのままガンダムに乗って行ってしまう。その先でジオンの採掘基地を見つけると、これをオデッサ作戦で目標になっている鉱山と思いこみ、自分一人で攻撃を始める。
脚本/松崎健一 演出/貞光紳也 絵コンテ/ 作画監督/中村一夫
コメント
前回に引き続き、ガンダム換装訓練ではじまるオープニングだが、ナレーションは無情にも「ホワイトベースを脱走したアムロには、こんな訓練をすることもないのかも知れぬ」と言い切る。ザビ家の長女キリシア少将が中央アジアにいるマ・クベ大佐の元へ訪れたことが示され、「戦いはホワイトベースと関係なく進んでいた」と締めくくる。これが今のアムロの置かれた立場である。最新兵器を操っていようと、その功績が認められることは決してない。
「脱走者は死刑に決まってらあな」。アムロが帰って来たらどうするのか、という話題がブリッジで出たとき、カイはいう。正規軍ではない、という甘えが彼らにはあるが、一方でガンダムに乗って脱走したアムロには軍功において正規軍並みに認められたい、という矛盾した思いがあることがわかる、という話である。
脱走したアムロは一人、砂漠の中の廃墟の街で野宿する。その上空を巨大なモビルアーマーが上空を飛行していくのを目撃する。翌朝、フラウはアムロを何とか連れ戻そうと探しに来るが、アムロは「ホワイトベースのみんなはアムロの力を必要としているのよ」という言葉に説得されることなく、ジオンの通信を傍受して知った採掘基地を一人で攻撃する意志を固める。
攻撃をかけた鉱山基地には、ちょうどジオン本国からキシリア・ザビ少将が視察に来ていた。鉱物資源の確保が戦況を左右するだけでなく、戦後の(ジオン国内の)権力闘争で優位に建てるという計算があり、他の誰もが目に留めないような、軍事的には重要でない基地を訪れていたのだ。そんなこととは露知らず、アムロはガンダム1機で防御の薄い鉱山基地をやりたい放題攻撃する。
これをいい機会と捉えたキシリアはマ・クベ大佐とともに大型モビルアーマー「アッザム・リーダー」で出撃。ガンダムを鳥かごのような装置に囲い込んで灼熱地獄へ陥れるが、ガンダム脅威のメカニズムはそんな攻撃をものともせず、敗北を予期したキシリアは採掘基地を兵士もろとも爆破して逃げ去るのだった。
「もし、お前さんがあのモビルスーツのパイロットなら、信じられんがね、パイロットなら敵に甘すぎると命がいくらあっても足らんぜ」
爆破された基地から逃げ延びた負傷兵に水を飲ませたアムロは、こんな言葉をかけられる。自分が攻撃したのは100数カ所もある鉱山基地の一つに過ぎなかったと知ったあとのことだった。敵に甘すぎる、とはすなわち自分に対して甘すぎる、ということの裏返しかもしれない。少なくともアムロにとって、このとき戦争とは自分を認めさせるための、ある種のゲームであったのだ。
この一言! 「ガンダムでここを潰せば連邦軍の軍隊が動かなくってすむ。もうブライトさんにもミライさんにも口を出させるもんか」
「ジオンに寝返るって事はねえだろうな?」
「いやあ、あり得るぜ、ガンダム手みやげに持ってきゃ英雄扱いだ」
アムロ脱走の波紋は、ホワイトベース中に広がっていた。何しろアムロ一人ではなく、ガンダムまて持って行ってしまったからである。クルーたちの懸念はもっともなことであった。戦争中である。ガンダムが戦う相手にとってどんな価値を持っているかを客観的に見ることができるなら、敵に寝返るのは当然あり得る選択であろう。
しかし、アムロがガンダムに乗って脱走したのは、そういう理由からではなかった。ガンダムからアムロを降ろす、という決定を下したブライトに対する反抗なのだから、アムロだけがいなくなってもブライトたちは何も困らないではないか。しかしそれだけではない。そこにはアムロの抱える心の闇がある。ガンダムに乗って戦うことで、彼はこのホワイトベースの中に自身の存在感を示した。ガンダムこそがアムロのアイデンティティとなり、分ちがたく結びついてしまったのだ。
「ガンダムでここを潰せば連邦軍の軍隊が動かなくってすむ。もうブライトさんにもミライさんにも口を出させるもんか」
この言葉からわかるように、ガンダムに乗って特別な存在でいられることが彼のプライドである。ガンダムを降りて他のクルーと一緒に機銃を撃ったり左舷に弾幕を張ったりしていては、たちまち凡庸な一兵士となってしまう。そのことに、彼は耐えられないのだろう。ガンダムこそがアムロの存在価値を高めているのであり、ガンダムなしの彼は、空っぽで薄っぺらなただの少年にすぎない。
そうであっても、サイド7でジオンの襲撃を受けてから、ガンダムに乗って生き延びるため、そして仲間や他の避難民たちを守るために必死で戦ってきたアムロである。時には恐怖におびえ、出撃拒否をしたこともあった。そんな中でホワイトベースがなんとかここまで戦い抜いてこれたのは、アムロの活躍があったからに他ならない。しかし再会した母は、ジオン兵に銃口を向けるアムロを認めようとしなかった。そして上官であるブライトも、今彼がガンダムのパイロットから降ろそうとしている。自分を認めてほしい、「よくやった」と言ってほしいという彼の承認欲求が、アムロを敵基地の破壊へと突き動かしているのだ。このままなら、アムロは自身が「これなら認められるはずだ」という戦果を上げるまで、決してホワイトベースに戻ることはできないだろう。
しかし、やがて彼はこの放浪の中で、本当に一人の人間として認められ、信頼されるとはどういうことを知ることになる。ランバ・ラル、という男を通して。この独りよがりの少年には、人間性がぶつかりあう場としての戦場が、必要だったのだ。
今回の戦場と戦闘記録
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