「宇宙戦士バルディオス」全話レビュー (12)世界連盟から来た男
あらすじ
ジェミーの誕生日を祝うブルーフィクサー。しかし世界連盟は失敗続きの月影長官を叱責し、補佐役ハーマンを送り込む。彼の目的は月影長官が適格かどうか調査することだった。ハーマンに命じられ雷太とマリンは偵察に出る。
Aパート:ジェミーの誕生会、世界連盟からの通達、ハーマン着任、敵機出現
Bパート:ハーマン激賞、オリバーと雷太出動拒否、説得と出動、月影の処遇
コメント
冒頭からピンチのバルディオス。あと一息というところで敵を取り逃がしてしまう。原因はエンジンの故障だった。基地に帰還すると、月影長官はエンジン部分の点検を命じる。うなだれる隊員らを彼は「気にするな」と慰め、別室へ案内する。そこには料理が準備されていた。今日はジェミーの誕生日だったのだ。青春の日々、戦いに明け暮れる彼らを長官はねぎらった。
しかし、席に着いたところで月影に呼び出しがかかる。
月影長官には世界連盟代表のモーガンから連絡が入っていた。最近のブルーフィクサーの失敗が眼に余るというのだ。敵を取り逃がしても責任を追求しようとしない、温情主義の月影の姿勢を「生ぬるい」と受け取り、ブルーフィクサー基地を任せることの是非が問われるまでになっていたのだ。そこで世界連盟からエリート将校ハーマンを補佐役に派遣することになった。ハーマンの報告次第では、月影を長官の座から降ろすこともあり得るという。
前話はアルデバロン軍の綱紀粛正がテーマだった。総指揮官アフロディアが、戦績を上げるべく「鉄の戒律」を定め、自らその足元を掬われてしまったが、今回は地球側の綱紀粛正がテーマとなる。地球側が失敗続きとなったのは、アルデバロンの「鉄の戒律」の成果なのかもしれないが、これまで、ある意味マリンの活躍に頼り切っていたことで、全体に気の緩みが出てきたのかもしれない。
というのが、ストーリー上の解釈になるが、月影が「温情主義」かどうかといわれると疑問である。むしろ、「日和見主義」「場当たり的」といった方がいいのではないだろうか。それほど隊員らから信頼されていただろうか?とも思うが(国王暗殺を志願したジェミーから連絡が途絶えると「やっぱり女には無理だったか」などと口走ってマリンを呆れさせているし)、実は結構毎回お騒がせなキャラである。今回は、そんな月影長官をメインに据えた話が展開される。
誕生会の席に戻ってこない長官を呼びに行ったジェミーは、長官と世界連盟代表との間で買わされた話を耳にしてしまう。会食のあとジェミーの部屋に集まった3人に、官女は月影が世界連盟から受けた命令について話した。月影長官を信頼する彼らは、派遣される将校、ハーマンの前で失敗はできない、とオリバーらは決意を固める。
翌朝、ハーマンが着任する。彼の前に出た隊員らは、いきなり「君たちは整列も敬礼もできんのか」と叱責される。そしてマリンに対して「きみか、異星人は」と言い放ち、私は月影長官とは違う、たとえ名目は補佐であろうとビシビシやるからそう思え、と釘を刺すのだった。
次にハーマンはクインシュタイン博士のもとを訪れ、忌憚なき意見を聞きたいという。そして「月影長官をどう思うか?」と尋ねる。それに対して博士は「立派な方です」と一言だけ答えた。ハーマンは、「この秘密基地の長官にふさわしい人物かどうかを聞きたい」と重ねるが、博士は「その質問に答える必要はありません」という。
「それを調べるために、あなたはいらっしゃったのではないのですか」
ここで、クインシュタイン博士が明言しなかったことで、これまた長官とは確固とした信頼関係を築いているとは言い難い彼女が本当のところはどう思っているのか、伏せられるために、このあと彼女が長官に向ける視線の意味を思案して、ちょっとやきもきするところもあるのだった。
次にハーマンは、不平不満で盛り上がる隊員らの前に現れ、オリバーに基地の周囲50周、ジェミーに宇宙飛行の特訓、マリンと雷太に偵察飛行を命じる。そして偵察飛行に出たマリンと雷太の前に、敵機が出現。月影は、このままではマリンと雷太が危ない、すぐにオリバーを、とハーマンに促すが、オリバーはまだ基地を50周していない、とにべもない。これくらいの戦闘でくたばるようではブルーフィクサーは務まらない、と言い放つのだった。
なんとか敵を撃退し基地に戻ったマリンと雷太、ごくろうさん、と出迎えたハーマンを無視し、ジェミー、オリバーも加わって長官のもとへ直談判に行った。彼らはまさに、世界連盟とハーマンの仕掛けた「ワナ」にはまってしまっていることに気づいたのだ。それは、組織というものが常に陥ってしまいがちな「ワナ」であった。
ハーマンという第三者を通して、もう一度自分たちの使命へと立ち帰らせる、というのが今回。ブルーフィクサー内の人間関係を中心に描く視点は面白いが、そもそも月影長官ってそんなに信頼厚かったっけ?と、これまでの話の展開を振り返ると少々疑問なところもあり、いまひとつ入り込めない話になっていた。もう少し、ブルーフィクサー内での不協和音的な感じがあってもよかったのではないか。
というところで、今回は、大人になってこそわかる、彼ら隊員の感じたジレンマ、そして組織のワナについて取り上げよう。
キャラクター紹介
ハーマン
世界連盟から、月影長官の業績評価のために送り込まれたエリート将校。アルデバロン軍撃退失敗を続けるブルーフィクサーの綱紀粛正のため、ことさら月影長官やマリン、オリバー、雷太らに冷たく当たる。
メカ紹介
ベムロイド
本編では「ベム型ロボ」と紹介されているが、何がベム型なのかはよくわからない。亀型の機体に2本の竜の形の首が突き出たメカで、透明円盤多数を従えて登場。当初バルディオスは苦戦を強いられるが、使命に目覚めた隊員らの奮闘で敗退する。
今回のスポットライト:組織のワナ
ハーマンの意図が、月影長官の更迭にあることを知ったブルーフィクサーの面々は、月影長官の地位を守るため必死で戦う。失敗続きという「汚名挽回」のためだったのだが、月影長官の補佐にハーマンが就いているという状況では、その業績は月影ではなくハーマンのものとなる。結果、「戦えば戦うほど、月影の立場が危うくなる」ことに、雷太らは気づいてしまったのだ。
そんなことから、雷太とオリバーは「出撃拒否」という行動に出る。いわば、サボタージュである。「おれたちががんばればがんばるだけ、月影長官が追い詰められることになるんだ」というのが、彼らの言い分である。
ここに、組織の陥りがちなワナがあったのだ。月影長官にしてみれば、バルディオス合体の要となるパルサ・バーンを操縦できるのはマリンだけ、他の隊員も補欠要員がいるわけではないとなれば、どうしても、隊員の生命第一の戦い方を指示せざるを得ない。それが温情主義につながっているわけで、逆に隊員らも、大義を見失い温情に甘えるようになってしまうのはやむを得ないだろう。そして世界連盟代表のモーガンは、それを見抜いていたということになる。
そんな彼らの目を覚ましたのは、出撃を拒否する雷太とオリバーに対してマリンが放った一言だった。
俺は長官のために戦っているんじゃない
そこへ現れた月影長官は、珍しく激昂し、雷太を平手打ちにしてこう言うのだった。
マリンの言う通りだ。君たちは地球のために戦っているんだ。私のためにではない。君たちが私のために出動を拒否したら、私は君たちを軽蔑する! いや、私はすぐにでもこの基地を辞める!
終わりの見えない戦いの中、大義を見失い、ただ長官のために戦っていればいいのだ、という組織のワナにつかまってしまった二人を原点に立ち帰らせる。そんなユニークなエピソードであった。
一つモヤモヤする点を挙げるとすれば、では果たして月影長官はここまで、それほど隊員らからの信頼を勝ち取れるほどの、優秀な指揮官だったのだろうか。むしろマリンやジェミーら、隊員らに「育てられている」気もするのだが、そんなことも含めて、成果主義で心蝕まれるような経験をしないとちょっとピンとこないような、大人の苦味のある一話であった。
評点
★★★ 視点はユニークだが人間関係の描き方がやや単調。
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