見出し画像

「宇宙戦士バルディオス」全話レビュー(7)愛の墓標

あらすじ

 クインシュタイン博士が学生時代、恋人ネルドとともに発明した真空爆弾。その威力があまりにも絶大なため使用禁止となるが、諦めきれないネルドは研究を続け、それがアルデバロンの手に渡ってしまう。

Aパート:原因不明の爆発事件、クインシュタイン博士の過去と躊躇、マリンら出撃
Bパート:敵要塞出現、やってきたクインシュタイン、バリア内突入、ネルドとの対決

 アバンタイトルで謎の女が登場。吹雪の中の一軒家で呑んだくれる男、ドクター・ネルドの「あなたの研究の成果を買おう」と呼びかける。そして、事件が起こる。実にわかりやすい導入である。

 セントラルパークを皮切りに、原因不明の爆発が世界各地で次々に発生。地球上の10箇所以上の都市が被害を受ける。月影長官は、この爆発事件について「これは現代の科学ではとても納得できない現象」だと断定。そんな中、クインシュタイン博士のもとに調査資料が届き、長官と隊員らが博士の部屋に集まる。そこで、爆発の原因は「ロストスペースボム」だと明らかになるが、いつもと違ってクインシュタイン博士は隊員らに説明するでもなく、離れた席で思い悩んでいる様子であった。

 実はクインシュタイン博士こそ、「ロストスペースボム」の開発者だったのだ。彼女は、空間を波動させる光線を送ることで爆発が起こること、それゆえ光線の発信地を突き止めれば、爆発は止められると明言し、彼女の過去を明かすのだった。

 7年前、サンブリッジ大学の研究室で真空力学の世界的権威ランベルト教授のもと、ネルドとともに助手をしていたクインシュタイン。二人は結婚を約束する仲だった。教授より先にロストスペースボムのもととなる真空ボックスの開発に成功した二人は、それを誕生パーティでプレゼントする。しかしその栄光の日々は長くは続かなかった。原水爆以上に悪用される危険があるため、真空爆弾の研究、製造が禁止されてしまう。世界連邦科学者会議の決定である。

 教授は反論し、油田火災消火、津波の鎮圧、そして台風の拡散とロストスペースボムの開発は数多くの平和的な利用価値があると訴える。しかし聞き入れられることなくロストスペースボム研究は禁止となり、教授は失意のうちに命を落とす。ネルドはその墓前で復讐を誓い、クインシュタインの前から姿を消したのだった。
 クインシュタイン博士の調査では、ロストスペースボムの爆発を引き起こす波動光線の発信地はシルベリア北部だという。月影長官はただちに、雷太とオリバーの偵察を命じた。

 さて、冒頭のシーンから推察される通り、クインシュタインの元カレ、ネルドはアフロディアの勧誘でアルデバロン軍の協力者となっていた。アフロディアは第3話でガットラーらに説明した通り「地球の重要ポイントを狙い撃ちします。マリンが来なければ、別のポイントを攻撃します」という作戦を忠実に実行しているのである。なので案の定、偵察に出て来たブルー・フィククサーを見てほくそ笑み、「ちょっと脅かしてやろう」とサディスト気分でウキウキである。

 シルベリアの雪原で謎の巨大構造物に遭遇した雷太とオリバーは慌てて引き返し長官に報告。すぐにバルディオスを出動させましょう、と訴える。それを聞き、特に検討もせずに「出動だ」と言い放つ月影長官は相変わらずだが、そこにクインシュタインが待ったをかけた。その様子は、しかしいつもと違って躊躇を感じさせるものだった。恋人だっったネルドとの対決を恐れているのだろうか…。  しかし、そんな「大人の事情」にまで配慮できるはずもないマリンらは、「ロストスペースボム」なんて怖くない! と、飛び出していくのであった。

 ロストスペースボムは、強力なバリアをも作り出すことができる。マリンの作戦は、バルディオスに合体し亜空間を通ってバリア内部に入り込むことだった。一方アフロディアは、ロストスペースボムの装置があまりに複雑すぎて、ネルド以外には扱えないことを懸念していた。つまりネルドを葬りされば、ロストスペースボムは事実上無用の長物となる、というのである。

 いざバリア内へ突入!というそのとき、クインシュタイン博士がヘリコプターでシルベリアまでやって来る。一体彼女は何をマリンに伝えようとするのか・・・

 前回に引き続き、亜空間航行で敵陣に突っ込む「だけ」のバルディオス、本当の対決はメカ対決ではなく、人と人との対決にある。長々といつもの合体シークエンスを見せたあと、一瞬で対決が肉弾戦へ移るさまに、本作の揺るがないスタンスと潔さを見る。クインシュタインのコスプレなど、サービス精神なのかオマージュなのかよくわからないが、それも一つの見所だろう。
 というわけで、今回も見せ場を作るクインシュタイン博士にスポットを当てよう。

キャラクター紹介

ドクター・ネルド

 サンブリッジ大学研究室で真空力学の世界的権威ランベルト教授のもとで、クインシュタインとともに助手を務めていた7年前、ロストスペースボムのもととなる真空ボックスを開発。クインシュタインとは結婚の約束をしていたが、世界連盟科学者会議の決定により姿を消し、地の果てて一人、ひそかに開発を続けていた。

メカ紹介

ロストスペースボム

 ある種の方法で一定空間を真空にし、圧力変化によって爆発を誘導するという兵器。空間を波動させる光線を送り込むことで可能になる。その破壊力が危険視され研究開発が禁止されたが、ひそかに開発を続けていたネルドに、アフロディアが手を回したことでアルデバロンの武器となった。

今回のスポットライト:ネルド VS クインシュタイン

待ってください。長官、何の準備もなしに攻撃するのは、敵の思う壺です。
こちらももう少し調査して、対策を立ててからの方が・・・

 いつもは冷静で強気なクインシュタインが、いざ出動というとき、隊員らを引き止めようとするのは「何か策があるからだ」と思うのが普通になりつつあるが、今回は妙にためらいがちな様子であるところが、話のツボではなかろうか。
 その手に、若かりし頃のネルドと撮ったツーショットの写真を握りしめている様子から、実はまだ彼を愛していて、この対決に躊躇しているのでは?という「大人の事情」を匂わせるところが、実に巧妙である。

 そんな彼女が、マリンらを追ってシルベリア平原に現れたのだから、「これは?!」といやでも気持ちが盛り上がる。なぜ、彼女が「銀河鉄道999」のメーテルのコスプレのごとき衣装をまとっているのかはよくわからないが、過去の自分と訣別するための、彼女なりの旅装束だったのだろう(ということにしておこう)。

 出撃前に彼女が躊躇し「待ってください」と言った理由が、ここで明かされる。マリンが、亜空間を通ってバリア内へ進入するだろうと見越した博士は、人一人分のバリアを発生させる小型装置を急遽開発していたのだ。彼女もまた、複雑すぎるロストスペースボムは、ネルドなしには操作不能であることを見抜いていた。そして、そのネルドを殺すという使命をマリンに託したのである。

 ロストスペースボムの威力を跳ね返す、バリアに覆われたマリンに驚愕するネルドだが、目の前にかつての恋人であり共同開発者であったクインシュタインが現れたとき、すべてを悟る。クインシュタインが「待ってほしかった」その時間は、彼への思いを断ち切るだけでなく、ネルドという研究者を「超える」ために必要な時間でもあったのだ。

評点

★★★★
冷徹な科学者クインシュタインの、人間的な一面を描いた秀作。ちぎった写真に昭和を感じる。

いいなと思ったら応援しよう!

映画・アニメをレビューしている、飛田カオルのnote
最後までお読みくださり、ありがとうございます。 ぜひ、スキやシェアで応援いただければ幸いです。 よろしければ、サポートをお願いします。 いただいたサポートは、noteでの活動のために使わせていただきます。 よろしくお願いいたします。