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「宇宙戦士バルディオス」全話レビュー (14)さらば 愛しき妹よ

あらすじ

 ブルーフィクサーは世界連盟本部で開かれる会議期間中、重要資料を守るという任務にに就く。本部でオリバーは妹エミリーと再会し隊員たちに紹介されるが、そこに現れた彼女の婚約者のロイは彼らと打ち解けようとしなかった。

Aパート:極秘任務、世界連盟本部到着、妹との再会、ロイとの馴れ初め、不審なロイ
Bパート:エミリーへの依頼、マリンの調査報告、ロイ脱走、砂漠に現れたアフロディア

コメント

 戦況は膠着状態となり、長期戦の様相を見せはじめた。そのため、三日後に世界連盟で軍備再編成を検討する重要な会議は開かれることになる。その資料を守るため、ブルーフィクサー隊は会議期間中連盟本美へ派遣されることとなった。
 それを聞いて妙にテンションが高くなったのがオリバーである。彼の様子の変化にマリンと雷太は思わず顔を見合わせるほどだった。実は連盟本部の付属病院に、妹のエミリーが勤務しているのだ。 

 世界連盟本部に到着したマリン、オリバー、雷太、ジェミーの4人は代表のモーガンと面会。彼らの前で極秘資料を壁のロッカーのようなところに入れると、モーガンはロッカーの鍵2つのうち1つを自分が預かり、1つを隊員に手渡した。彼らは相談し、オリバーが鍵を預かることになる。

 そこへやってきたのが妹で看護婦のエミリー。再会を喜び合ううち、オリバーの懐から預かった鍵が落ちてしまう。それを拾ったのはエミリーのフィアンセのロイという男だった。
 妹にフィアンセがいると知って驚くオリバーだったが、二人に同僚を紹介し一同は和気藹々とした雰囲気になる。しかしロイという男はまったく笑顔を見せることなく、「ぼく、仕事がありますので」といってその場を立ち去ってしまうのだった。

 前回の雷太に続いて、今回はオリバーの個人エピソード、妹のエミリーが登場する。極秘資料の鍵を預かり守る、という任務のために世界連盟本部に呼び寄せられたオリバーと再会するが、妹には彼の知らない恋人、ロイがいてびっくり! この男が思いっきり挙動不審で「なにかある?」と思わせる展開である。そして早速、その日の夜に事態は動き出す。

 その夜、待機しているオリバーの元へ、エミリーが差し入れを持ってやってくる。そして、ロイとの出会いについて打ち明けた。ロイはパイロットだったが火星基地への物資輸送中に敵の攻撃に遭い、仲間が全滅するなか瀕死の重傷で救出されたという。看護婦として彼の看護にあたったエミリーは、やがて彼と付き合うようになる。

「ロイはとってもいい人よ、だからお兄さんにだけは、ロイのこと好きになってほしいの。祝福してもらいたいの」というエミリーの言葉に、オリバーは「うん、わかってるよ」とうなずいた。しかし、彼が、オリバーがブルーフィクサーの任務で本部へ来るということを聞いてとても興味を持った、と話すと、オリバーは不審を感じた。その話を何者かが立ち聞きしていた。それは、妹のフィアンセ、ロイだった。

 ロイは「眠れないので散歩しようと思って来たら、君の声がしたので」と、立ち聞きをした理由を話す。オリバーはせっかくなので3人で話をしようと持ちかけるが、「疲れたのでもう寝ます」とロイは断り、エミリーとともに立ち去ってしまった。
 呆然と立ち尽くすオリバーのもとに、交代でマリンがやってくる。オリバーから、ロイの行動が不審であることを聞いたマリンは、身辺調査を引き受けた。

 一方、世界連盟本部を出て夜道を歩きながら、ロイはエミリーに「おれの頼みを聞いてくれないか」と話を持ちかけた。その頼みとは、「君の兄さんが持っている鍵がほしい」ということだった。その資料を誰よりも欲していたのは、地球に対して苦戦を強いられているアルデバロン軍の最高銭湯指揮官、アフロディアだった。マリンの調査で、ロイが火星基地の攻撃で負傷した際、一時アルデバロンの捕虜になっていたことが明らかになる。そのときスパイを持ちかけられたのだろう、というのがマリンの推測だった。そして二人は、情報漏洩を阻止するために動き出すのだが・・・

 ジェミーとその父の再会を描いた第9話「めぐり逢い、そして…」とよく似た構図で、今回も「寝返った」と思わせる人物ロイが登場する。この、ロイという挙動不審な男の心がよく分からないだけに、サスペンスで最後まで引きつけさせるが、見終わったあと、モヤモヤとしたものが心に残り、消化不良を感じるエピソードとなっている。
 その原因の一つは、なんといっても作画のまずさで、登場人物の心理描写が重要な回であるにもかかわらず、心中を感じさせるような表情が描けておらず、会話中心の作話でカット割りも実に単調。作画がもう少し良ければ、多少はモヤモヤも軽減したことだろう。

 それよりももっと大きな要因は、このエピソードの中心人物であるロイが、ほとんど話すこともないために、どんな人間で何を考えているのか、さっぱりわからないからで、わからないからこそサスペンス味があるといえばそうなのだが、それだけで引っ張っていくには無理のある話ではなかったかと思う。

 今回のスポットライトでは、そんなところにフォーカスしてみよう。

キャラクター紹介

エミリー

 オリバーの妹。世界連盟本部の付属病院で看護婦をしている。火星基地への物資輸送中に敵襲を受け瀕死の重傷を負ったロイを看護するうち、彼と惹かれ合うようになり、退院後交際期間を経て結婚の約束をしていた。ちなみに、兄を「オリバー」と呼んでいるが、オリバーのフルネームは「ジャック・オリバー」なので、なぜジャックと呼ばないのか不思議である。

ロイ・ヒューストン

 世界連盟所属のパイロットで、エミリーの婚約者。火星基地へ物資を運ぶ輸送船のパイロットを務めていたが、アルデバロンの攻撃を受け仲間は全滅、自身も瀕死の重傷を負う。エミリーの看護で回復し、彼女と結婚の約束をするが、兄オリバーにはなぜか心を閉ざしていた。

今回のスポットライト:裏切りの理由

 世界連盟の軍備に関する極秘資料の収められたロッカーの鍵を守る、という今回の任務。世界連盟本部でオリバーが再会した妹エミリーの恋人、ロイがこの鍵を狙う。エミリーに、兄オリバーの持っている鍵がほしいと語る前、彼はオリバーらに打ち解けようとしない心情を語っていた。
 彼はエミリーの兄オリバーを「エリート中のエリート」といい、自分と比べて落ち込んでいるようだった。彼もまた、一流のパイロットになるべく懸命に勉強したのだが、適性検査で落とされてしまった、というのだ。その理由は「感情が激しやすい」ということだった。そして言うのだ。「おれなどには荷物運搬のパイロットがお似合いだというわけさ」

 こうして自己卑下するロイが、功を立ててブルーフィクサーのできないことをやり遂げたい、というのが、彼の裏切りの理由なのだろう。

 しかし、バルディオスの合体とバトルという、ロボットアニメの重要シークエンスを全面カットしているにもかかわらず、このエピソードの中では、ロイという人物像の描写が圧倒的に足りないために、彼が「感情が激しやすい」と言ったところで、「え?そういう人やったん?」とポカーンとしてしまう。
 そもそも、火星基地の輸送船のパイロットだった彼が、傷が癒えたいまもなぜ世界連盟本部でブラブラしているのか、とか、無口で無表情なこの男のどこにエミリーは惹かれたのか、とか、そういうことが描かれていないので、ロイという人間や、彼を好きになり裏切り行為に加担するエミリーに気持ちが乗っていかないのだ。

なぜこんなことをした、味方を裏切ったふりをして、
敵の司令官を生け捕りにすれば、出世するとでも思ったのか!

 と、最後にオリバーは、ロイの思いを代弁するが、それを言葉でなく、このエピソード全体で物語ることができなかった、というところに、物足りなさを感じた。

 それにしても、砂漠の中を去っていったあの二人は、このあとどうやって生きていくのだろうか?

評点

★★
 ロイとエミリーのキャラに気持ちが乗らない脚本、作画も崩壊気味で残念な出来。

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