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「宇宙戦士バルディオス」全話レビュー(9)めぐり逢い。そして…

あらすじ

 レニア国で発見されたウランに勝る鉱物資源ガウラーXに目をつけたアルデバロンはバード国王に採掘を命じる。それを阻止しようと国王に面会を求めたジェミーは、そこで意外な出生の秘密を知る。

Aパート:ガウラーX奪取計画、隊員派遣、ジェミー出生の秘密、国王の計画
Bパート:若かりしバードの思い出、輸送船到着、土星前線基地へ、潜んでいたマリン

コメント

 北アフリカのレニア鉱山で、ウラニウムをはるかにしのぐ高性能鉱石ガウラーXが発見された。アフロディアは、これに目をつけ、鉱山を奪う計画を企図。レニア国へと侵攻する。国王のバードはアルデバロンにあっさりと降伏し、戦う気満々だったブルーフィクサー隊員らは憤りを隠せずにいた。

「こうなったら力づくで鉱山を奪い返そうぜ」というオリバーに対して、しかし月影長官はストップをかける。その前に、バード国王を説得すべきというのだ。降伏したレニア国の軍隊が、敵であるアルデバロンの護衛兵として、鉱山を守っているため、今攻撃を仕掛ければ地球人同士が戦うことになりかねない、というのがその理由だった。マリンらは、国王説得のためレニア国へ派遣される。

 レニア国に潜入した隊員らは警備兵らの目を避けながら王宮を目指すが、その途中、ジェミーは「ママがよく歌っていた歌」を耳にし戸惑う。そこを警備兵に見つかってしまい、そのまま国王の前へと連行されていった。彼らは国王を説得するが、「ブルーフィクサーがこの国を守れるという保証はどこにもない。それに我々はすでに全面降伏に応じたのだ。1時間以内にこの国を立ち去るのだ。アルデバロンにおまえたちのことがわかれば、おまえたちを殺さねばならん」と、国王はにべもなく断ってしまう。

 ここで一歩前に出て熱心に語りかけるのがジェミーだ。ここまでの流れからわかるように、第9話はジェミーの過去エピソードがクローズアップされる回である。勘のいい人なら、バード国王との間に何かつながりが?と思いつつ、興味を引かれて見ることになるだろう。説得するジェミーの顔がアップになることで、暗にほのめかす作画に惹きつけられてゆく。

 国王が立ち去ったあと、呆然として王座をながめていたジェミーだが、階段の踊り場の壁に飾ってあった女性の肖像画を見て衝撃を受ける。そのときやってきた執事が語ったところによると、彼女はルイーザ、若い頃国王が心から愛した女性だという。一緒にいたマリンは、その言葉を聞いたジェミーの様子の変化に気づいていた。

 国王を説得できないまま帰還したマリンらの世界連盟からの命令が届いていた。バード国王が説得に応じない以上、国王を暗殺するしかないという。驚いたジェミーは思わず背を向けて司令室を出てゆき、あとを追ったマリンに「何も聞かないで」とだけ答えたが、もうこの時点で何か訳ありなことは視聴者にはバレバレである。

 思いつめた様子のジェミーは、月影長官に一人で国王暗殺に行かせてください、と申し出る。驚く月影だったが、クインシュタイン博士は何かを悟ったかのように、そっと拳銃を差し出すのだった。ここでは第7話で語られたクインシュタインの過去エピソードが効いており、続けて見ていると「ふむふむ」と納得したような気分になるのであった。

 果たしてジェミー一人で大丈夫?とは思うが案の定、レニア国の王宮はザル警備で、ジェミーは難なくバード国王の寝室に入り込む。すぐに異変に気付いた国王は飛び起きるが、ジェミーを見てもさして驚いた様子もなく「君は、私を暗殺しにきたのかね?」と妙に落ち着いている。そこへ彼女は手にしていたものを国王に見せた。それは、パパの形見といって、亡くなったママがくれたものだという。その形見とは、レニア国の国章だったのだ。


 ジェミーの個人エピソード、ということもさることながら、実に力の入った作劇で、作者の「パパ」ことバード国王への強い思い入れを感じずにはいられない。このあと国王は娘であるジェミーに、母ルイーザとの出会い(「ローマの休日」の男女が逆転したようなお話)を語って聞かせるのだが、ここで視聴者は気づくのだ、この国王が暗殺しなければならないような悪人ではなく、わざとアルデバロン側についたと見せかけて、国から産出する鉱石を用いて地球を救おうとしている救世主のような人物だということに。

 すべてを悟った国王は、「撃ちたければ撃ちたまえ、しかしその前に見せておきたいものがある」と、ジェミーにレニア国軍の制服を着せて鉱山へと連れていく。そこには精製されガラスケースに収められたガウラーXがあった。基台には起爆装置がついており、スイッチを押すと約3分後に大爆発を起こす仕組みになっていた。その威力で、おそらく地球の大半は吹っ飛ぶだろうという。それを亜空間で行えば、地球に被害を与えず敵を倒すことができる、というのが彼の思惑だった。そこへ踏み込み、がウラーXを催促にきたのがアフロディアである。起爆装置がみつからないかと大汗をかきながら応答する国王は、ガウラーX爆弾とともに随行すると申し出るのだった。

 それだからこそ、ガウラーXを亜空間へ運び込む輸送船が着いたとき、そこには運命的にめぐりあった父と娘の悲しい別れが待っているのだが、その先の展開はここでは伏せておくことにしよう。ただ一つ言えることは、一人のひとが地球に住む多くの人のために命を捨てる、という行為に隠された思いをこそ、作者は描きたかったのだろう。そしてその思いが、彼女を追ってきたマリンを動かしたのである。

 ところで、ネタバレになるのかもしれないが、この話を見て私が一番驚いたのは、ジェミーの出生の秘密でも、バード国王の捨て身の作戦でもなく・・・ 「あれ? バルディオスは??」・・・そう、ついに最後まで、主役ロボットが出てこないまま話が終わった、という事実であった。

キャラクター紹介

バード国王

 北アフリカのレニア国の国王。若かりし頃、ルネサンス芸術に傾倒していた彼はローマに留学し、そこで教会の壁画の修復をしていたルイーザと出会い、恋に落ちる。しかし父が凶弾に倒れたという知らせを受け、彼女と別れて王位を継承、侵攻してきたアルデバロンに降伏して国を守ろうとしていた。

ルイーザ

 ローマで教会の壁画の修復の仕事をしていた女性で、留学中のバードと恋に落ちる。しかしローマでの楽しい毎日は、彼の父が暗殺されたことで終わりを告げる。テロの横行する国に連れていけない、と別れを告げたバードの前で、レニア国の歌を口ずさむと彼女は姿を消したのだった。

今回の謎アイテム:ガウラーX

 レニア鉱山で発見された、ウラニウムをはるかにしのぐ高性能鉱石。バード国王の説明によれば、放射能含有量、爆発力、ともにウランをはるかにしのぐのだという。精製すると爆発するらしいのだが、ウランは、えーと、確かに核爆弾に使われているんだけど、核分裂を起こして爆発するのであって、ウラン鉱石そのものが爆発するわけじゃないから、爆発力がウランをしのぐ、とかいうのはどうなんだろう? しかしこういうアイテムがさらっと出てくるあたり、まさに核兵器開発競争が激化の一途をだとっていた冷戦時代のアニメだなと感じる。

今回のポンコツ指揮官:月影長官

 あっさりとアルデバロンに降伏し、ガウラーXをアフロディアに献上してしまっているレニア国のバード国王。「こうなったら力づくで鉱山を奪い返そうぜ」といきり立つオリバーに待ったをかけ、国王説得へ舵を切るあたり、いつになく冷静でちょっとは指揮官としてまともになったか、と思ったのもつかの間。バード国王暗殺の任務を任せたジェミーからの連絡が途絶えると、漏らすのがこの一言である。

やはり女では暗殺は無理だったか

 いやいや、暗殺ってそんな行き当たりばったり、一か八かみたいな感じで実行してしまっていいのだろうか。「やはり」というからには、ある程度予測はしていたということで、それは指揮官としてどうなの、と思うと同時に、上司として「無理だったか」で済ませてしまうところに妙な冷たさを感じる。そんな長官の一言を聞いて、マリンが一人ひそかに司令官室を出て行ったのは「やっぱりこの人に任せていてはダメだ、あっさりジェミーを見捨てかねない」と思ったからに違いない。

評点

★★★★
 主役ロボットを排除してまで描きたかった、という思いのこもったプロット。

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