「地球(テラ)へ…」全話レビュー(13)星に潜むもの
あらすじ
キースはマツカを連れて、老朽艦でジルベスター星系へ向かっていた。ナスカでは新たな子どもが生まれ、請われたフィシスは赤ん坊に名前をつける。ジルベスター星系第7惑星に近づくと妨害がひどくなり、キースは単身で破棄された植民基地を探索するため地上へ降下する。
Aパート:フィシスの予言、ナスカの大地、近づくキース、未熟なクルーの内紛
Bパート:キースVSジョミー、逃げ帰る部下たち、フィシスの動揺、グレイブの陰謀
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タロットカードを手繰っていたフィシスは、ナスカに残酷な風が吹く、という予言をする。ナスカのあるジルベスター星系には、キース・アニアンが指揮する船が近づいていた。しかしブリッジのクルーたちはワープ酔いに苦しんでいる。グレイブ・マードック艦隊司令が彼につけたのは、まだ経験の浅い未熟な兵士ばかりだったのだ。
暗い未来を暗示するカードに身震いしているフィシスのもとを、ジョミーが訪れると、フィシスはジョミーに、ナスカに連れて行ってくれませんかと声をかけた。
与えられた老朽艦では、あと3回はワープしなければならない、と艦長室でぼやくキース。グレイブは私を殺そうとしているのか、と深刻である。それに対して、マツカは「そんなことはないと思います」と応答。それを聞いたキースは、「私を殺そうとしたおまえの言葉だ。信じよう」と前向きになった。マツカは殺意を覚えたようだが、キースは、やりたければいつでも、と妙に鷹揚である。決してやられはしない、という自信の裏返しということだろう。
ナスカに降り立ったフィシスは、求めに応じてハロルドの子どもにツェーレンと名付ける。そしてカリナにも励ましの言葉をかけるが、なぜか彼女の表情は曇るのだった。
ジョミーはフィシスに、見せたいものがある、といい、100年以上前、この地に入植した家族の肖像がを見せる。そして、この星を僕たちの星として、いつかテラと、人類と対等の席に着くんだ、と決意を語った。ジョミーは乾ききったこの星の大地に、豊かになる力があると信じていた。しかしそのとき、フィシスは不吉な風を感じていた。
いよいよ、サムの船の事故調査のため、ナスカに向かうキースと、ナスカを拠点に人類と対等な地位を築こうと決意を固めたジョミーとが、この地で遭遇することになる。その不吉な予兆をフィシスの予知能力を通して感じさせる構成で、否が応でもワクワク感が増してくる。原作では、ナスカに向かう船を操縦していたのは、やさぐれたへっぽこ操縦士ら3人だったが、人類統合軍・国家騎士団という大きな組織が描かれている本作では、かつての先輩で艦隊司令のグレイブ・マードックの嫌がらせで、老朽艦と未熟な新兵をあてがわれたという設定である。いずれにせよ、他のクルーが信用ならないなか、奇妙な緊迫感をはらんだマツカとキースとの関係も、気になってくるところである。
キースの船は、ジルベスター星系の第7惑星「ジルベスター7」の衛星軌道に入りつつあった。キースは、破棄された植民基地を重点的にスキャンするよう命じる。
対するシャングリラは、何者かにスキャンされていることに気づき始めていた。だが、ステルスデバイスに守られているから大丈夫、と彼らは考えていた。 基地があるはずの場所に見つからない、と焦るブリッジで、キースは自分の目で確かめるべく、船を降下させるよう命令する。だが、惑星への効果訓練は受けていない、と操縦士が怖気付いたため、やむなくキースは自分一人で降下することとし、上陸艇を発進させた。
その動きはすかさずミュウ側に察知され、ジョミーに伝えられる。
この感じ…
まさか…
この星に下ろしちゃいけない、と飛び出していくジョミー。キースの上陸艇は操縦不能に陥り、キースはマツカに、遠隔操作ができるかとたずねる。しかしまもなく電信は途切れ、上陸艇の機影もロストしてしまう。
焦ったブリッジの新米クルーたちは、ハイパーウェイブ通信でソレイドに指示を仰ごうとする。だが通信は通じなかった。事故が多発している星域に恐れをなしたクルーらは、ソレイドに引き返そうと言い出すが、マツカはキースを待つべきだと言い返し、押し問答となる。そのとき別の新兵がマツカを背後から撃ち、彼らは「ジルベスター7」からキースを置いて離れていってしまうのだった。
嵐の前の静けさ、といった12話までとは一転、話が急展開していく13話。ナスカを拠点にしたミュウ側に、内なる対立があることはここまでで描かれてきたが、キースを取り巻く周辺にも不協和音があることで、いよいよ迫るジョミー対キースの戦いを、よりスリリングなものにしている。ただ、原作では、キースが結局単独でナスカへ降下することになるのは、度重なる事故のウワサとナスカ周辺で宇宙船の乗組員らにミュウ側が仕掛けたサイオン攻撃に恐れをなした、という理由からだが、本作では、キースのステーション時代の先輩、グレイブ・マードックの嫌がらせ、というところに少々疑問を感じる。どうも、彼はキースをナスカに単身送り込んで、ミュウの手で殺害させようと目論んでいるようだが、なぜそれほど彼を憎まなければならないのか、まったく背景が描かれず、かえって不自然な作り手の作為を感じる。
というのは、ここにグレイブ・マードックというオリジナルキャラクターを深入りさせたことで、かえって、なぜマツカが必死でキースを救出しに行こうとするのか、という心の動きが見えづらくなってしまったからだ。
もう一人、キーとなる人物がフィシスである。
見える、あの人の心が見える…
ジョミーとキース、本作の二人の主人公が相対するそのとき、二人の背後にいるフィシスとマツカという、それぞれの集団や組織の中の「異質な」存在が、キースを軸に交錯してゆく。自分と同じ能力を持つ仲間がいることを知らず、捉えられたキースを助けるべく孤独な戦いを始めるマツカ。仲間の只中にあって、他の者が持たない記憶を、敵であるメンバーズ・エリートの男の意識下に見てしまうフィシス。機械仕掛けのような鋼の心を持った男を相手に、ジョミーは、これからどんな戦いを繰り広げてゆくのだろうか。「敵は人類ではなく、システム」と言い切ったジョミーだったが、目の前にいるこの男、キースは人類であると同時に、システムそのものなのだ。
原作改変で生じた疑問点
本作には、原作から扱いが大きく変わったキャラ(スウェナ)、原作にはないオリジナルキャラ(グレイブら)が登場する。その描かれ方だが、スウェナは12話で見たように、シロエからキースへ宛てたメッセージを預かる、という重要な役割を担い、キースの今後を左右する鍵を握るようになっている。
そして13話で気になったのが、グレイブ・マードックである。どうやらグレイブと女性の副官は、ただならぬ関係にあるようだが、この世界、結婚はしても自然分娩はしない、すべてがマザー・コンピュータに管理された世界において、人々にとっての恋愛にはどんな意味があるのだろうか。もっというと、この世界の人々は結婚という制度外でセックスすることってあるんだろうか、それは彼らにとってどういう意味を持つのだろうか、などと、原作漫画を読んでいた中学生の頃には思いもよらなかった疑問が頭を過ぎった。
ジョミーが、自然分娩で子孫を残そうというビジョンを話したとき、長老の一人が「それは禁止されている」と反応したことを思い起こすと、マザーの管理によらずに子孫を残すことにつながるセックスという行為もまた、忌避されるべきことであって、あえてそういう関係を匂わすグレイブ、そしてテラのシステムそのものともいえるキースを殺そうとするグレイブ、彼は本作の作者が送り込んだ、新手の反逆者ではないのか? とさえ思ってしまった。
ジャーナリストになったスウェナ同様、原作にないキャラがどうも大きな鍵を握りそうな雰囲気に、やや嫌な感じもするが、今後の展開はその辺りにも注目したい。
評点
★★★★
緊迫感と新たな謎がストーリーを盛り上げる。作画が平板なのがつくづく残念。