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「宇宙戦士バルディオス」全話レビュー(6)灼熱の決死圏

あらすじ

 環太平洋に工業地帯が集中していることに着目したアルデバロンは、地底のマグマによる破壊を目論み、富士山が噴火する。阻止のため出動したオリバーは敵の地底メカに捉えられ洗脳されようとしていた。

Aパート:環太平洋火山帯で自然災害発生、ブルーフィクサー出動、オリバー拉致
Bパート:世界連盟の命令、エーゼット爆弾発射、マリンの作戦と決意、月影の救出命令

コメント

 地球侵攻を企てるアルデバロンは、太平洋沿岸に工業地帯が集中していること、環太平洋火山帯が取り巻いていることに注目し、デルス隊長が、この火山帯を刺激するという作戦を提案。アフロディアから実行を一任され、謎メカをペルー地下50万メートルに向けて発進させる。

 今回もスピーディーな展開、悪の組織の作戦はアバンタイトルであっという間に片付けられ、ペルーの地下15万メートルに達した敵メカが「地熱変換装置」を作動させると、即座に富士山が噴火してしまう。これにより関東平野に大地震が発生。クインシュタイン博士はこれが自然災害ではないことを見抜き、ブルーフィクサーが出動する。

 ペルーの現地上空で、キャタレンジャーが地熱サーチャーにより地熱反応をキャッチし、雷太が先導して目標地点へ進入。彼らはインカ帝国遺跡の地下、15万メートルで地熱反応を確認するのだが、そのときオリバーが、ガットラーメカの通風孔を発見。そこから出現したコウモリ型メカに攻撃され、マリンを庇ったオリバーが負傷してしまう。しかし「パルサバーンはお前にしか動かせない、パルサバーンが動かなければ、地球は負ける」という理由から、彼は自ら囮となって敵を引きつけ、マリンと雷太を逃れさせた。その結果、オリバーは敵に連れ去られてしまう。

 一刻も早くオリバーを救出しようと、マリンと雷太は反撃を急ぐが、そこに月影長官から「攻撃を中止しろ、これは命令だ、今すぐ帰還しろ」という指令が入ってくる。こうして今回も、前回に引き続き、敵と味方の二正面で戦わなばならない、という展開へ突入してゆく。

 捕虜になったオリバーは、アルデバロンの隊長デルスと対面。彼に「マリンを殺してもらいたい」と依頼し、オリバーが拒絶すると「洗脳」という手段を用いることを宣言する。一方、帰還したマリンらはその理由について「メカが15万メートルの地熱には数分しか耐えられない」と聞かされた。なすすべもない彼らに、世界連盟代表から「秘密兵器エーゼットを使用せよ」との指令が下る。それは、オリバーを見殺しにすることを意味していた。待ってくれ、と頼む長官に「これは世界連盟の最高幹部会で決定したことだ。反対は許さない。ただちにエーゼットを発射せよ」と代表は繰り返し、クインシュタイン博士は無情にも、発射ボタンを押してしまう。

 秘密兵器エーゼットにより発生したマグマの逆流が、ペルー地下に到達するまで、2時間。オリバーを見捨てることに納得できないマリンはオリバーの部屋で「あるもの」を見つけ、救出の決意を固めるのだった。

 いきなり訪れたメインキャラのピンチだが、これまで「父の仇を討ちたいというマリンの憎しみの感情」を利用してきた長官と博士が、今回は秘密兵器の登場で、その必要がなくなったために、ポチッとボタンを押して戦いを終わらせてしまうところに、まず驚く。だからこそ、マリンの持つ別の側面が輝く、というのが今回のテーマであろう。敵メカを秘密兵器がやっつけてくれるなら、マリンを利用する必要はないのである。だからこそ、エンディングテーマの歌詞にあるように、「それでも行くのか、マリン」という問いかけがここで生きてくる。

 今回は捕虜になったオリバーに代わってジェミーがバルディプライズに搭乗し、バルディオスに合体している。合体シークエンスにしっかり尺を取ったあと、敵メカは秒殺され、クライマックスはオリバーの救出劇。だが、そこに、突如明らかになった微妙な三角関係が絡み、もやもやとした後味を残すラストとなった。

キャラクター紹介

デルス隊長

 アフロディアに、環太平洋火山帯のマグマを利用して重工業地帯を壊滅させる作戦を提案、実行する。その際、捕虜にしたオリバーにマリン殺害を命じるが、「彼らは必ずオリバーを助けに来るはず」という妙な信頼感があるあたり、実は敵のほうが人情に厚いのかもしれない。

メカ紹介

モグサー

 ペルーの地下15万メートルまで到達する能力を持つ高性能メカ。「地熱変換装置」によって地底のマグマを刺激し、人工的に火山を噴火させることができる。内部には乗組員の居住スペースもあり、拉致されたオリバーに用いる洗脳装置も備えられていた。

秘密兵器エーゼット

 反磁力爆弾と呼ばれるもので、富士山の地底15万メートルで爆発させて、地底のマグマを逆流させ、地熱の変動を安定させるために発射された。クインシュタイン博士によると、反磁力によるマグマの逆流に耐えられるメカはない、という。

今回のスポットライト:世界連盟 VS マリン

俺はいく。
亜空間を通れば、15万メートルの地熱に関係なく地下へ行ける。
そして現実空間で、バルディオスが地熱に耐えられる
数分間を使って勝負をつける!

 敵に捉えられ、地下15万メートルに潜るメカに乗せられたオリバーを救出したい。敵メカを、秘密兵器によるマグマの逆流で殲滅できるとわかったマリンらの思いは一つだった。しかし世界連盟代表は、秘密兵器の発射を待ってくれ、という長官の願いを一蹴してこう言う。

長官、時は一刻を争っている。15万メートルの地下に囚われた一人の地球人を救うことより、今失われつつある数百万の地球人の命が大切!

 奇しくも第5話で、命令違反を犯した技師アランの処分をめぐって、「一人の人間を平気で殺しておいて、大勢の人間をおれに救えっていうのか!」とクインシュタイン博士に怒りをぶつけたばかりのマリンである。アランを救えなかった負い目が、彼らにさらに大きくのしかかっている、といってもいいだろう。しかし無情にもクインシュタイン博士は秘密兵器の発射ボタンを押し、マリンらはオリバーを偲んでその部屋を訪れる。

 そのとき、マリンが目を留めたのが、オリバーが読んでいたという聖書である。ページを開くとパラリと写真が落ちて、オリバーが密かにジェミーに思いを寄せているのがわかるのだが、ここに聖書が出てくるところに、私としては「なるほど」と腑に落ちるところがあった。

 というのも「一人を犠牲にして、大勢を救う」という、前回、今回と続いてぶつけられるこのテーマこそ、聖書の教えるイエス・キリストの救いの物語だからだ。
「キリストの愛の教えを書いた本よ」というジェミーの説明を聞いて、マリンはふと思い立ったように言う。「俺はいく。亜空間を通れば、15万メートルの地熱に関係なく地下へ行ける。そして現実空間で、バルディオスが地熱に耐えられる数分間を使って勝負をつける!」と。亜空間を通る、という発想は、まさに彼が異星人だからこそ出てきたものであろう。しかし、大勢をおいても、一人を助けに行く、という決意はどこからきたのか。
 彼はそのとき、こんな、イエス・キリストの言葉を目にしたのかもしれない。

 あなたがたのうちに、百匹の羊を持っている者がいたとする。その一匹がいなくなったら、九十九匹を野原に残しておいて、いなくなった一匹を見つけるまでは捜し歩かないであろうか。そして見つけたら、喜んでそれを自分の肩に乗せ、 家に帰ってきて友人や隣り人を呼び集め、『わたしと一緒に喜んでください。いなくなった羊を見つけましたから』と言うであろう。
 よく聞きなさい。それと同じように、罪人がひとりでも悔い改めるなら、悔改めを必要としない九十九人の正しい人のためにもまさる大きいよろこびが、天にあるであろう。

新約聖書 ルカの福音書15:4~7

 やがてマリンは、地球を救う救世主となっていくのだろうか。それにしても、ブルーフィクサーの後ろ盾となるはずの世界連盟の薄情さが、気になるところである。

評点 

★★★★
 前回からの流れから「憎しみ」より大きなテーマが見えてきた話。

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