「宇宙戦士バルディオス」全話レビュー (16)悪夢からの脱出
あらすじ
生き延びるため人を殺した罪悪感から悪夢に苛むマリン。そのせいで戦うことができなくなる。一方アブロディアは失敗続きでガッとラー相当から叱責される。マリンを回復させるためクインシュタイン博士は危険な賭けに出る。
Aパート:マリンの悪夢、ジェミーとの会話、敵襲での恐怖、ガットラーの叱責
Bパート:脳波探査装置、オリバーとの会話、敵襲の中での解放、バルディオス合体
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「なぜ殺した」「おまえは人殺しだ」という悪夢に苛まれるマリン。目を覚ますと、アフロディアの弟を殺してしまった場面がまざまざと思い出され、彼は人を殺めてしまった自分の両手を見つめる。
早朝から起き出して、朝焼けの空を見つめるマリンにジェミーは声をかける。会話の中で、二人はそれぞれに死んだ父、母の夢を見ていたこと、それも悲しい夢だったことがわかる。「私、ママを見殺しにしてしまったの」と、夢の話をしながら涙ぐむジェミー。マリンも自分の見た夢を話し始めるが、途中で強い感情が湧き上がり、話すことができなくなってしまった。
大西洋上に現れた敵に対処するため、バルディオスチームは出動するが、マリンの様子がおかしいから、という理由でバルディプライズにはジェミーも搭乗することに。まもなくオリバーも、確かにマリンにいつもの覇気がないことに気が付いた。
アルデバロンの透明円盤に囲い込まれ、集中攻撃を受けてもマリンは反撃することができず、コクピットで固まってしまう。彼は「人殺し」と責められる悪夢を思い出し、手を動かすことができなくなっていたのだ。
マリンを診察したクインシュタイン博士は「神経症のようです」と診断する。鎮静剤で眠らせただが、回復の見込みは今のところない、という。治癒のため一つだけ考えられる方法を試すことを、クインシュタインは決断する。
一方、アルデバロンの亜空間要塞で帰還したアフロディアを出迎えたガットラーは「また失敗か」と失望の声をあげる。
「近頃のおまえの作戦には、ひところの鋭さがなくなった。なぜだ。マリンへの憎しみが薄れたのか」と、ガットラーは鋭いところを指摘してきた。そして、彼女を最高戦闘指揮官に任命した理由を、再び彼女の思い出させた。
眠りに落ちたマリンは、再び夢の中にいた。鎖で手足を固定された彼の前に、白いドレスの美女が現れる。そして、手が動かない、ともがくマリンに「諦めちゃだめ、自分の力で鎖を解き放つのよ」と語りかけるのだった。「あなた一人の命ではないのよ、わかるわね」という言葉に、マリンの表情は明るくなる。
それこそ、クインシュタイン博士が話した「たった一つの方法」の成果であった。深層意識の中に一つ、カギを与えておいた、と彼女は月影に説明する。マリンは治ったんじゃないんですか?と驚くジェミーに、博士は「治る可能性が与えられたんです」と答えた。
悪夢に苛まれるマリンが戦えなくなってしまう、というプロットは、実に興味深いものである。マリンは科学者である父が弾圧の末殺され、自らも命を狙われたために人を殺めてしまう。その罪悪感がトラウマとなり、彼に悪夢を見させているのである。
実は導入部から、私はマリンに悪夢を見せているのは敵であるアフロディア側の新兵器?と想像しながら見ていたのだが、どうもそうした軽いものではなく、本当に、マリンがその心の傷により苦しんでいることと、そこから何らかのきっかけで解放される、というのが今回、制作者が描きたかったエピソードだったようである。
しかし、その試みは正直なところ、あまりうまくいったようには思えなかった。その理由については後述するとして、もう一つ、今回のエピソードには本作ラストへ至る伏線が盛り込まれているところも、注目点である。
鎮静剤で眠っていたマリンは目覚めると、ジェミーからの励ましを受けるが、マリンはなぜかオリバーの部屋へいき、、突然「ジェミーのことが好きなんだろう?」と問いかける。そして、聖書の一部を語りはじめた。
なまけ者よ、いつまで寝ているのか。いつ目をさまして起きるのか。しばらく眠り、しばらくまどろみ、手をこまねいて、またしばらく休む。
(箴言6:9-10)
なぜこの箇所なのか、話の前後の流れからあまりピンとくるものがないが、ここで聖書が持ち出されたのは、Sー1星はどんな星なのか、その正体は?という謎を改めて提示するためだったのだろう。
オリバーは「Sー1星には宗教はなかったのか?」と問いかけ、「はじめに神は、天と地とを創造された・・・」と、再び語り始める。すると振り向いたマリンは「創世記だ」と答え、学校で習ったことがある、確か、6日で天地を創造するんだ、と驚きの声をあげる。そこでオリバーは「どうやら、俺たちの神は同じらしいな」と気づくのだ。
だが、敵襲により、その会話は中断されてしまう。オリバーの語った「創世記」をマリンも知っていた、ということの意味を、私たちが知ることができるのは、物語の終盤を待たねばならない。
今回の謎用語:脳波探査装置
クインシュタイン博士が、トラウマから手が動かなくなってしまったマリンを救うため起動させた装置。彼女によれば、この脳波探査装置は、人間の意識を探り出し、それに間接的な影響を与えることができるという。
頭にかぶせた、ケーブルつきのお椀のようなものを通して、マリンの意識の中にクインシュタインの意識が入り込む?というものなのだろうか。博士という肩書きひとつで、マシンの改造から精神医療まで手がけてしまうクインシュタイン、おそるべし…
今回のスポットライト:深層心理に与えられたカギ
脳波探査装置を通して、クインシュタイン博士はマリンの深層意識の中に一つ、カギを与えておいた、と説明した。それによって「治る可能性が与えられた」というのだが、わかるようなわからないような、ふわっとした話になっている。
そのカギとは何だろうか。クインシュタインがマリンの深層意識にアプローチしていたとき、マリンは夢の中で、女神のような姿のクインシュタインを見、「あなた一人の命ではないのよ、わかるわね」という言葉で、その表情が明るくなった。
そして、のちに戦闘となり、再び恐怖にとらわれてが動かなくなったとき、マリンの意識の中で、彼を縛っていた心の鎖がちぎれたのは、「あなた一人の命ではないのよ、わかるわね」という言葉を思い出したときだった。ということは、そのカギというのは「あなた一人の命ではない」という言葉にまちがいないだろう。
だが、この話がどうもピリッとしないのは、あまりにもあっさりと、この言葉でマリンの呪縛が解けてしまうということもあるが、「あなた一人の命ではない」というとき、一体マリンが誰のことを思ったのか、ジェミーなのかクインシュタインなのか、あるいはともに戦ってきたチームのことを思ったのか、カギの言葉を受け取ったときマリンの心で弾けた思いは何だったのかが見えないからではないだろうか。
その前段階として、オリバーの部屋を訪れたマリンが「ジェミーのことが好きなんだろう?」と問いかける場面があったのかもしれないが、それもかなり唐突で、あととの繋がりもよくわからない。マリンのトラウマ、心の傷をテーマにしながら、マリンの心を十分に描ききれなかったところに、物足りなさを残す結果となった。
評点
★★
テーマはユニークだが全体の構成がちぐはぐで、マリンの心を描ききれなかった。