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機動戦士ガンダム 全話レビュー第10話「ガルマ散る」
あらすじ
占領地の市長エッシェンバッハの娘イセリナと恋仲になっていたガルマは、地元有力者を集めたパーティ会場のバルコニーで逢瀬の時を持ち、木馬を倒して戦果を挙げ、彼女をジオン本国へ連れていこうと約束する。その様子を見ていたシャアは、出撃したものの市街地に隠れて木馬が見つからず焦るガルマに助け舟を出す。ホワイトベースでは何とかガウの攻撃を退けて突破口を開こうとガンダムを囮にする作戦を立てた。
脚本/山本優 演出/藤原良二 絵コンテ/ 作画監督/安彦良和
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コメント
ホワイトベースが地上に降りて、はじめて大都市といえる市街地が舞台となる。設定では「ニューヤーク」という名前になっており、ニューヨークのことではないかとも言われている。しかし行程を追いかけてみればわかるが、ホワイトベースが降下したのは北米大陸のアリゾナ周辺だ。そこからグランドキャニオンを通過し、ラスベカス近郊のミード湖周辺に至る(第8話)。そのあと越えた山脈は、恐らくシエラネバダ山脈ではあるまいか。この山脈を越えれば西海岸だが、かつて西部開拓時代には、幌馬車隊の西海岸進出への大きな妨げとなっていた。山脈を越えていよいよ市街地へ入る。こうして見るとこれがニューヨークであるはずがなく、現在の都市にあてはめるならロサンゼルスであろう。ガルマの本拠地がニューヨークで、そこからホワイトベースの飛ぶロサンゼルスまで飛んできたのだ、と考えることもできるが、2都市は直線距離で4000km近くも離れており、木馬進入の知らせを受けて、すぐにその場に駆けつけることはできない。
こうして見ると「ガンダム」は現在の公式設定が緻密に網羅されたイメージとは裏腹に、細かい設定を詰めるよりもある種のノリや勢いで作り上げられた作品だと感じる。
マチルダ隊の補給を受けたホワイトベースはアメリカ西海岸から太平洋へ抜けるコースを取っていた。そこに立ちはだかるのが、カリフォルニアを本拠地とするガルマ大佐である。ホワイトベースは市街地に入り込み、地上スレスレのところを、崩落したビルに船体をぶつけながら飛行している。これまでの荒涼とした荒野とはうってかわって、高速道路の走る大都市である。しかし、爆撃のためだろう、建物は大半が崩壊しており人影はない。
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そんな光景から一転、豪奢な屋敷で開かれている華やかなパーティに場面は移る。今回の主役、ガルマ大佐とシャア少佐はここで酒宴に招かれている。主催者は前市長のエッシェンバッハ。ガルマは占領地の統治にも関わらざるを得ず、シャアに愚痴をこぼしている。しかしイセリナが会場に登場すると、態度が変わる。その様子を見て「前線でラブロマンスか、ガルマらしいよ、お坊ちゃん」とシャアは不敵に笑う。何かある、今回こそ何かある。そんな気配に目が離せない。だいたいタイトルからして「ガルマ散る」。ネタがバレバレではないか。コイツが絡んでいるに違いない、と私たちはまるで犯行現場を居合わせた目撃者のように、その一部始終を見ることになる。
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ホワイトベースでは、口うるさいリード中尉をマチルダ隊が引き取ってくれたため、ブライトが艦長席で息を吹き返している。突破口を開くため、アムロはブライトにガンダムを囮にすることを提案。結果的にはこの策が採用されるが、それはブライトが市街地で見つけた雨天野球場にホワイトベースを隠し、その前面に敵を引き寄せるという作戦を立てたからであった。
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その作戦は見事的中する、・・・敵であるシャアの手引きによって。
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ガルマを補佐するためザクで出撃したシャアはアムロとの対戦で、ガンダムが囮であることに気づき、ガルマにありのままを伝える。ガンダムを追っていけば、木馬がいる、と。素人軍団の木馬と、お坊ちゃん指揮官率いるガウ攻撃空母。「仇討ちをさせてもらう」と口にした時点で、シャアはガルマに勝ち目はないと見たのだろう。非情な彼の一面である。
ここは絵コンテが良くないのか、ガンダムの動き、ガウとホワイトベースの位置関係がよく分からないので一瞬ピンとこないのだが、ブライトが、ガウが囮にかかって木馬の前面に後部を向けて出てきたことを認め、総攻撃を命じてカウントダウンに入るところから、一気に過去10話で最高のクライマックスへと達する。
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その策に乗ってガルマを陥れる。
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「謀ったな、シャア!」とガルマが悟ってから、ホワイトベースに特攻をしかけて地上に激突、爆発炎上するまではわずか1、2分だと思うが、そこにガルマという男の背負っていたものの重さや、穏やかで疑うことを知らない性格の裏にある激情が噴出しする。その表情の変化を描き出した作画の良さ、ガルマを演じる森功至の熱演が相まって、感情を揺さぶられる一場面となっている。
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その後の余韻の中で、ブライトがアムロに呼びかけ、アムロが答えるときの一瞬の「間」が、ある意味今回の主題ではなかったか。ブライトは「アムロ、よくやったぞ。突破作戦はうまくいった。これより脱出する。帰還しろ」と呼びかけるが、アムロは答えない。彼はそのときようやく気付いたかのように、ただ呆然とが瓦礫と化した街を見ていた。初めてブライトがかけた「承認」の言葉が耳に入らないほどに、彼は衝撃を受けていたのだ。誰がこの街をこんなふうにしてしまったのか。アムロは初めて、そのことに思い至ったに違いない。確かに「巨大な敵」はいる。
ちょっと突っ込み:ホワイトベースの大きさだと…?
今回のエピソードに登場する、雨天野球場はヒューストンにあるアストロドームという世界初の屋根付き球場がモデルだそうである。日本に初のドーム球場ができるのは、放映から9年後のことであった。しかしモデルとなったドームは屋根の高さが約63m、野球場は両翼が100から120メートルなので、もしホワイトベースが全長200メートル程度あるとしたら、とうてい入らないだろう。この辺りの設定も、詰めが甘いといわざるを得ない。(参考:http://ameblo.jp/mori-arch-econo/entry-10644950512.html)
もっとも、本作の場合こうした設定は後からできたものが多い。制作スタッフには、ミライが車庫入れするように操縦できるくらいで戦艦大和のように巨大な船ではないという感覚があったのかもしれない。
この一言! 「君はいい友人であったが、君の父上がいけないのだよ」
ホワイトベースを追撃して地球に降りてから、怪しげな動きを見せていたシャア。ホワイトベースの決死の囮作戦を好機と見て、ついにガルマを歯牙にかける。背後からのホワイトベースの一斉攻撃で窮地に陥ったガルマに言い放ったのが、この一言。
「君はいい友人であったが、君の父上がいけないのだよ」
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実はこれを聞いても、シャアがガルマを陥れる理由はよく分からない。問題は、どうやらガルマ本人ではなく彼の父親にあることらしい、ということが分かるだけだ。では、シャアとジオン公国の公王との間には一体何があったのか。ここでは何も分からない。ますます、シャア自身への謎が深まるばかりである。
しかし、これは不思議な構図である。シャアはガルマを戦死に追い込むことで、彼の父を苦しめたいようなのだが、実際にガルマを討ったのはアムロやブライトらホワイトベースの面々である。しかも彼らは、目前に迫り来るガウ攻撃空母に、ジオン公国の貴公子ともいうべきガルマが乗っているとは、知るはずもない。犯行現場を目撃するかのように、と先に書いたのはこのことだ。このシャアの台詞によって、私たちはガルマでもなくシャアでもない、もっと大きな敵が背後にいるということを、はじめて実感することになるのだ。
ガルマの戦死は本国に伝えられ、私たちは始めてシャアの言う「君の父上」、ジオン公国の公王デギン・ザビの姿を見る。愛息の死に「使者の前でその杖を落とした」という永井一郎のナレーション。そこに見るのは、権力の座にありながら息子の死をどうすることもできなかった、弱々しい初老の男の姿である。これが、あの「巨大な敵」なのだろうか。
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今回の戦場と戦闘記録
<今回の戦場>
北米大陸 ロサンゼルス近郊
<戦闘記録>
■地球連邦軍:市街地でガウ攻撃空母と交戦。ガンダム囮作戦で撃破。
■ジオン公国軍:ホワイトベース撃破を狙うがシャアの策謀で自滅。ガルマ大戦死。
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