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12.蝉の幼虫

ジージリリ、ジージリリ
7月末ともなると僕の実家の周りは蝉の鳴き声で埋め尽くされる

今日も相変わらず、僕は課題に追われていて、少し苛立っている
蝉の鳴き声もあるから尚更だ

スマホの時計を見るともう18時
日が落ち始めて少し気温が下がってきたので、気分転換に近くの自販機まで散歩に行くことにした

ガチャコン

ポケットに入れた100円玉でいつものミルクティー缶を買って、ゆっくり帰る

帰り道、すぐに家に帰るのも嫌だったのでちょっと道草を食って、近くの公園に立ち寄ることにした

それにしても今日も蝉がよく鳴いている

あいつらは求愛のために鳴いているという話を聞いた事があるが、果たして蝉一匹の声にそんなに違いがあるものなのだろうか
こんなに同時に鳴いたら、何が何だかわからないのではないだろうか

そんな事を考えながら、公園の周りをジリジリと歩く

すると、足元にちっこい虫が歩いてくるのが目に入った

(お!蝉の幼虫だ。珍しいこともあるもんだ!)

思わず足が止まり、手に乗っけて観察してみる

蝉の寿命は7間というが、実はあいつらは幼虫の状態で何年も土の中にいて、夏になると満を持して地上へ飛び出してくるらしい。けれど、地上に飛び出るとすぐ幼虫から成虫へと変態するので、蝉の幼虫はいわゆる「蝉の抜け殻」として発見されるのが常なのだ。(僕は自由研究で蝉の研究をするくらい蝉の話が好きだ)

やっぱり幼虫の蝉は、鍵爪がしっかりしている
スピードを緩める事なく、トコトコと僕の腕を駆け上ってくる

イタタタ、幼虫が僕の二の腕あたりに到達した時点で僕は幼虫を観察するのが嫌になってきた

(そろそろ自然に戻してやろう)

近くにあった頃合の良いゴツゴツした木の幹に、そっと乗っけてやった

幼虫は相変わらずトコトコ、歩くスピードを緩める事なく、木の幹を登ってゆく

トコトコトコトコ、トコトコトコトコ、トコトコトコトコトコトコトコト…

(こいつ考えなしに歩いて馬鹿だなぁ、前見えてるのかなぁ)

なんて事を思っていたら、いつの間にか僕はこいつから目が離せなくなっていた

すると、一生懸命登っていた幼虫が足を踏み外し、木の幹から真っ逆さまに地面に落ちてしまった

(あぁ!おい大丈夫かよ、、)

幸い枯葉のクッションで大事には至らなかったものの、僕は心配だったので、もっとつかみやすそうな木にこいつを移し替えてやることにした

これでよし

相変わらずコイツは真っ直ぐに木を登る

トコトコトコトコ、トコトコトコトコ、トコトコトコトコトコトコトコト…

ポトッ!

(あぁもう!馬鹿なのかこいつは!)

またこいつは落ちやがった。せっかく捕まりやすい木に乗せてやったのに。

地面で仰向けになってもがいてる幼虫にもう一度人差し指を差し出し、今度はもっと背の低い、且つ、掴みやすそうな僕の一押しの木を探してそこにつけてやった

コイツはなりふり構わずまた歩き始める。

トコトコトコトコ、トコトコトコトコ、トコトコトコトコトコトコトコト…

僕は続きが気にならないでもなかったが、あまり甘やかしすぎるとコイツの将来によくないと思い、幼虫を1人残して家に帰ることにした


帰り道、蚊に刺されまくった腕をかきながら、なぜたった一匹の幼虫相手にこんなになるまでやってやったんだろうと少し後悔したが、なんとなく気持ちはスッキリしていた

(僕もさっさと課題を終わらせよう。まずは一歩一歩だ。)

薄暗く赤色に染まった空の下手、いつもより蝉の鳴き声が心地よく感じた。

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