リードオフ・マンの存在【10/9 対横浜戦●】
ファーストステージここまでの2試合で、自分の持ち味をいかんなく発揮しているタイガースの選手がいる。1番の中野拓夢だ。矢野燿大監督はクライマックスシリーズ開始前の記者会見で試合のキーマンとして中野と近本光司を挙げている。近本は1戦目に先制のタイムリーヒットを放ち、中野は4安打をマークした。2戦目に出た安打は1本のみだったが、そのヒットを足がかりにしてチームは一打同点のチャンスを作った。
矢野監督が1軍の監督に就任してからこだわってきたのが走塁だ。積極的な走塁は敵にとって大きな脅威となる。キャッチャー出身の矢野監督ならではの目線なのかもしれない。島田海吏、熊谷敬宥、江越大賀……2軍監督時代から気にかけていた選手たちが矢野監督の教えを体現し、近本と中野の加入で積極的走塁はより強固なものとなった。
7回の攻撃、先頭打者はこの日3度目の打席を迎えた中野。チームはベイスターズ先発の大貫晋一に抑え込まれていた。中野は6球目のストレートにバットを出すも、打球はショート方向。誰もが内野ゴロと思ったはずだ。ショートの大和が難なくボールを処理する。一塁にボールが送られるのより、中野の到達のほうが速かった。ショート方向の平凡なゴロ。たしかに大和の送球は一瞬遅れたかもしれない。だが、それも「ほんの一瞬」だ。ミスとは言えないレベル。中野の驚異的な脚力が、プレーの結果を大きく変えた。
続く打者は糸原健斗。どんな作戦で来るだろうかと考える暇もなく、走者の中野が走り出した。初球から盗塁を敢行。キャッチャーはボールが手に馴染まず、二塁に投げられなかった。ただのショートゴロがノーアウト2塁に変わった。
カープがリーグ3連覇を達成した頃、タイガースの選手が守っている時間が苦しかった。妙な緊張感があった。緊張感の正体は、ちょっとでも隙を見せたら付け込まれる走塁にあったと思う。わずかな守備のミスが出塁のきっかけになる。ほんの少しでも油断したら次の塁を狙われる。当時のカープの選手たちには、そんな力があった。
この日は惜しくも得点には結びつかなかったけれど、中野の足は相手から見て脅威に映っただろうか。
試合には負けた。決着は次の3戦目に持ち越された。
まだだ。誰ひとりとして下を向いていないじゃないか。あと1つ、あと1つ勝てば神宮に行けるんだ。
どうか、どうか、選手やみんなの弾ける笑顔が見られますように。