自分を元気づけるために、僕は日記を書く。
以前、自分の本音を形にするために日記を書いているという話をnoteに書いた。別にそれだけじゃなくて、他の理由もあるよなと思って、今日はそんな話。
今は転職したのでもう続けていないが、僕は新卒でシステムエンジニアになった。大学で専攻していたのは全く別分野のマスコミ学。入社するまでプログラミングの経験なんてほぼなかった。
そんな僕が社会人になったくらいで技術力が劇的に変わるわけもなく、入社後の研修から大苦戦だった。今だから分かるけども、プログラミングはエラーは出してナンボの世界。「間違っている」という事実を明らかにしてから、あーでもないこーでもない、と試行錯誤を繰り返して自分がイメージする動作に近づけていく。ただ、まともな経験がなかった僕はなかなかそう思えなかった。
エラーがいっぱい。どうしていいか分からない。そもそもどうしてこうなっているか分からない。「とりあえず手を動かして色々試してみて」と先輩たちの声を聞きながら、僕の手は金縛りにあったように固まった。
帰りの電車の中でため息ばかりつく毎日。「このままだとダメになる」って本能的に思って、日記に救いを求めた。
仕事中に手元に日記帳を置くようにした。書いたのは「その日できたこと・褒められたこと」。後でまとめて書こうとと忘れてしまうと思って、いつでも書き込めるようにした。何でも小さなことでも良い。電話対応で噛まなかった、先輩に分からないところを質問できた。
別に日記に書いたところでプログラミングが上手くなるわけじゃない。でも、帰り道で落ち込むことは減った。電車の中で日記帳を開くと、その日できたことが箇条書きで載っている。なんだ、ちゃんとできていることもあるじゃん。昔の自分が励ましてくれているような気分になった。
----------------------------------
僕の好きなプロ野球でも、同じことを実践していた人がいた。
小谷野栄一。
1980年生まれのいわゆる松坂世代だ。創価大から北海道日本ハムファイターズに入団し、三塁手のレギュラーを掴むと勝負強い打撃でチームに欠かせない存在となった。その年最も打点をあげた選手に贈られる打点王のタイトルも1度獲得している。晩年にはオリックス・バファローズに移籍し、そのまま引退。今はバファローズでバッティングコーチをしている。
小谷野は現役中にパニック障害を発症した。特定の緊張するシチュエーションなどで感じた不安や恐怖が、身体に伝わり、動悸や過呼吸、吐き気などの症状を引き起こす。試合中、バットを持って打席に立っているときに嘔吐してしまったこともあった。症状は悪化し、とうとうチームメイトと練習をすることすらままならなくなってしまった。
小谷野に限らず、アスリートはドーピング規約に引っかかるなどの理由で強い精神安定剤は服用できない。そんな中で小谷野が試したのは「日記」だった。
「大学時代の4年間、日記を書いていたことを思い出し、再び書くようになりました。できたこと、続けられたことを書きます。例えば、電車に乗れた、乗れなかったで一喜一憂するのではなく、2日連続で駅まで行けたら、ほめてあげる。自分をどんどんほめる方向へ持っていきました。そして、日記の最後は、みんなへの感謝や『ありがとう』で終わるようにしていました」
窮地に陥った小谷野もまた、できたことに目を向けていた。小谷野がパニック障害を患っていたことは知っていたが、日記を書いていたことは知らなかった。日記を書いてどうなったかは直接は記事内で言及していないが、こうして取材で話しているくらいだからきっと効果はあったのだろう。自分の好きなプロ野球選手と接点ができた気がしたし、僕自身がやっていたことに少し安心できた。
1日1日、そのときの自分ができることを自分らしくやったなら「何もできなかった日」なんてないのだと思う。できたことに目を向けるのか、それともできなかったことに目を向けるのか。自分らしくいられるのはどっちなのか。考えるきっかけは、日記がくれた。
自分で自分のことを元気づけるために、僕は日記を書いている。