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ある男子高校生の初恋

「僕は、今は自分のことが全然おかしくないと思っています。今までは『僕はおかしいのかな』と思うことで、『普通』とのバランスを取ろうとしていたんだと思います」

先日、「授業後先生の時間を少しください」と言われて、私はある高校生の男の子と教室の机に座って向き合っていました。彼がこう言い出したとき、私は彼が今から何を言い出すのか見当がつきませんでした。

「僕は部活の男の先輩が好きになって、一緒にいたい、デートしたいって思ったんです。僕は女の子になって、先輩の彼女になれたらいいのにと本気で考えます。だからこのゴツい体がイヤだ。もう、本当に死にたいって思います。高校を卒業したらタイに行こうかな……」

「僕はこのことはたった一人の親友、女の子なんですけど、その子に言ってます。先生も話して大丈夫なのが分かるから話しています」

「その点、親は無理です。父親には最初から話す気にもならない。母には話したい、というか……。実はこの前、夏休み明けの9月の初めあたりですけど、少し話したんです。男の子が好きかもしれないと。そしたら母は一言『キモい』と。すごく傷つきました」

「僕は母が大切に育ててくれたとおりに素直に育ったと思うんです。こんなこと自分で言うと変ですかね。でも、その結果が『キモい』なんてなかなかつらいです。僕は、あなたが僕をこう育ててきたんです、と言いたい。母親には分かってもらえると思っていたし、分かってほしいです」

セクシュアルマイノリティの高校生から話を聞くのは彼が初めてではありませんが、彼らの多くが家族に対して疎外感を抱いています。彼らは、親のことが好きなのに、この寂しさをどうしようかと煩悶しています。家族という枠組み自体がヘテロセクシュアルを土台にしているという点で自分とは違うことに気づき、自分の家族だけでなく、家族という枠組みそのものから疎外されたと傷ついているのです。

こういう傷つきを解消することなんて誰にもできないけれど、引き合う孤独の力を感じながら、彼らと一緒に右に左にと揺れることくらいは私にもできるのではないかと思います。

「その恋は初恋?」と私が尋ねると、彼はにこっと笑った後に「初恋ってどこまでの思いを言うのかな。さかのぼったらいろいろあったけど、僕はこの恋が僕の初恋だと決めました」と言いました。

私はそんな彼がまぶしくてしかたがなくて、「この話、何にでも使ってください」と言う彼に応える形でここに書きつけてみました。

西日本新聞 こども歳時記(2022.10.3)

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