Grusがかわいいんだねえ
時にきみ、Grusを知ってるか。
俺も最初は知らなかった。みなそうだ。VRCでの使用が想定されたBoothで販売されている3Dアバターだ。
知ってる?あぁそう
僕もずいぶんと前からこのアバターを知っていた。一緒に始めた友達がずっと使っていたからだ。僕は、その友達に誘われてVRChatを始めた。彼はVRCでのストリートピアノに興味があったらしく、一人では怖いと思って僕を誘ったのだ。僕は彼の弾く曲を聞いて、ショパン調練習曲作品10-3をリクエストした。巨大なピアノがあるワールドに行き、彼が僕には共感できない興奮をして、気づけば僕はVRCにどっぷり浸かり、彼はあれ以降VRCを開こうともしなかった。
僕はVRC彼はDiscordと、しばらくの間疎遠だったのだが、数か月した後に、今度は僕から彼をVRCに誘うと、彼は見事なまでにVRCにハマっていった。僕よりもハマってた。VR睡眠は彼の生活と化し、昼はJPT夜はイベントかパブリック、自分とまったく関わりのないような人とも仲良くなって、気づけばまた疎遠になった。
ごく最初を覗けば、彼はずっとGrusを使っていた。僕は、最初のアバターをAvatar museumで見つけて買ったが、彼がどこからGrusを知ったのか、今日になっても甚だ疑問だ。その彼は立派なGrus愛好家であった。気づけば彼のツイートはGrusについてのオタクトークで埋まり、リツイートもGrus、アイコンもGrus。Grusって横のつながりが広いんだよねえとか言って気づけば彼の周りはほぼGrusで囲まれていた。
素敵なアバターだとは思っていたが、自分では到底使う気になれなかった。なんとなく芸術肌な人が使うイメージがあったからだ。どうせ使わない関わらないと思ってGrusをちゃんと見ようともしなかった。僕にとってのGrusは彼がすべてであった。
どこかしらのきれいなワールドをめぐる。それはさながら辞世の句のような、深い悲しみや諦めを帯びたところだったりする。なにか特定のワールドではない。どっかにそうした文脈を感じるワールドがポツポツある。そしてそんなワールドを作ってる人、たいていGrus。あとGhost Clubとかのアングラ系明るいダークウェブみたいな場所もGrus多い。ここまで全部偏見。あとなんかすごいゲームワールドのクレジットでGrusが載る確率高い。
ここまで書いといてなんだけど、最初に言った彼は、普通に今もバチバチに関わってるからもしこの記事をみたときを思うと怖くてしょうがない。いやそれは違うでしょとか言いながら言葉の厳密性を求めて詰めてくるに違いない。どうか見ないでくれ。あるいは見てないふりをしててくれ。
そんなんで、僕は今年に入るまで、彼と、断片的なGrusしか知らずに、のうのうと暮らしてきたわけだ。それでいいと思ってた。でも違った。違ったんだよ!正月にな、彼のところへjoinしたんだ。なにしてんだと見に行ったんだ。そこの場に居合わせたGrusがね、その場に居合わせたGrusがね
めっちゃくちゃかわいかった。
僕の知るところのGrusは、もっとつり目で、白い服装での白い髪、マネキンか人形かと言及した方が自然そうだった。彼がそうだったのだ。初期からあえて、ほぼ何もいじっていないのを、僕は、なにもいじれないのだと錯覚していた。
でもそのGrusは、僕の記憶するところのどのGrusとも違う。ぱっちり開いたお目目に、ぷっくりとした唇で、和服を着ている!!!!まじ?Grusってこんなにかわいくできるの?僕は驚愕したし大声でかわいいとも叫んだ。その子はびっくりして一歩遠ざかった。
そうか。Grusか。そうか。
気づけば僕は考え込むようになる。厳密にはなにも考えてない。Grus。そうか。Grus。こればかりをリピートして彼のTwitterのRTを遡った。ふーん…かわいいじゃん。この"え"って感じの顔、好きだな。あ、昨日のGrusいた。フォローしておこう。ついでにこの子のRTも見よう。
ふん…。かわいいじゃん。
ふーん…やるじゃん
…ゆらゆらしてんじゃん…
なにかが、折れる音がした。
ああああぁぁぁぁぁあぁぁあっぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
罪深い。正月から一週間経った頃に僕はGrusを使うようになった。初めにその姿を見せたのは彼だ。その様子を、よく覚えている。
「やっほー、おひさー」「え、Grus?え、よくみたらGrusじゃん」
「ほおー、いいねえ。ふんふん」
「そのマフラーあれでしょ、うささきさんとかにも対応してるやつで…」
「その下のシャツはビスチェ…みたいな名前のやつで」
「ほんで髪はGRAYさんとこのやつか」
「足とズボンはGrusVRMのやつだよね」
え、全部特定するじゃん。ヤバ。こっわ。真っ先に見せる相手間違えたかも。というか全身ちろちろ見てくる様子こわ。
そういうわけで僕はGrusになったのだ。
後日、僕はまた彼に会いに行く。時刻は深夜。日が明けそうだから僕は寝るに寝られなかった。彼は寝ていた。ここ、イベントの会場だよな。とっくにイベントが終わってるから、もう主催者との雑談場所みたいになってるけど、当の主催者は遠くでデスクトップ放置してる。彼の方をみると、数人で固まって寝ている。ペンはなかったか見渡してみる。そうしてある人と目が合う。その人はすかさず近づいてきた。
「えっと…ねこ…トーストさん?が使ってるそのアバターってGrusですよね…?」「ですよねですよね!いやあ遠くから見てて、ほんと、すっごくいい改変だなあって!」「最近使い始めたんですか!そうですか!いい選択をしましたね!」「いやあ、寝る前の挨拶でそこの彼にjoinしてきたんですけど、寝てましてね。でも深夜まで起きてみるのもいいものですね!こんなにかわいいGrusと出会えるなんて…」「あ!よかったら一緒にツーショしませんか」
え?知らぬ間にチュートリアルに飛ばされた?フレンド申請の方法を教えるために最初にフレンドになってくれるタイプの人?まじ?こんな簡単に人とフレンドになれる?同じアバター使ってるだけで?会話の糸口がこんなにも広がる?!
「そういえばねこトーストさんは明日、行かれるんですか」
はァ…今思い出しても、あれはやばかった。なぜみんなあんなにかわいいのか。改変が上手なのか。何人といたが、その中で一人としてキャラクターかぶりなんて存在しなかった!というか別件の写真展示ワールドで名前だけ知ってた人と実際にあえたのもうれしかった。このときほどGPUを変えたいと思ったことはない。
そうして僕は、またこの集会で知り合った人ともフレンドになり、僕は心臓の高鳴りを求めて彼らに会うのだ。彼の、Grusは横のつながりが広いという言葉の意味が、やっと理解できた。一か所掘ればわんさか出てくる、身の回りにGrusなんて本当にいないのに、行くところ行けば数十人単位で一緒に固まってる。
そうして、またフレンドを作って、会いにいくのさ。こんばんは、こんばんはと連呼してるうちに、ある人が目に入る。
Twitterでみた。みたことある。あったことはない。確かにみたことがある!この動きを知っている(もし知らないならちょっと上を遡りたまえよ)。有名人に会った気分だ。僕の斜めに構えたハートを、ポキンと折ってきたあの人が!実在したのか!本当に生きていて僕と会話しているのか!この目で見るまでインターネットにしか生息してない精霊の一種かと本気で思ってた!出会い頭になんてことをいってるんだと思うだろう!君は僕のヒーローなんだ。君と、君が知らないであろう、僕が出会った人が、僕をこの世界に招いてくれた!
「そうなの。でもねこちゃんそれもっとちゃんと近くでいいなよ」いやいやいや!この距離でもちゃんと伝わってるから。わざわざ近寄るなんて、僕にはとてもできない。恐れが多い。恐れが多いんだ。こんなにもかわいい子が
「ほら向こうから来てくれたよ」ぎゃああああ!!!熱い!熱い!脳が熱い!!やめてくれ!!こないでくれ!こないでいいんだ。くるな!!いい匂いが鼻に入ってしまうだろ!こんなのって耐えられない!こんなことはきっと僕には許されていないんだ!享受してしまった暁には、僕はきっとこの世にいなくなってしまう!
「あーあ、かわいそうだねえ」
ごめんって!!!!!
「今度いるときinviteするね」やめろ!!!いや、やめないで。やっぱやめてくれ!違う!違うんだ!殺してくれ!!!
こうして僕は狂った。なぜ狂ってしまったのかは知れない。Grsuの何が僕を狂わせたのかもわからない。心が痛い。痛いんだ。痛いんだよ心が!!!ぎゃあああ!!!
「てかねこちゃん今度ゲームやる?あの子シージもってるらしいよ」え、やる。その話についてはここに
まじでさ….
この子だけじゃないぞ。ほらみてくれよ
パンあげちゃお
あ!一緒に座ってる!
君に知ってほしい!知ってほしいんだ!なぜなら君には責任がある!ここまで読んでくれた!僕の人生に関与した!みてくれ、僕のフレンドが!こんなにもかわいいことを!!
あ、疲れた。
あなたたちはかわいいよ。かわいすぎる。卵の黄身とはちみつをたっぷりかけて、オーブンで予熱してから焼いて食べてしまいたい。
君には知ってもらいたいんだ。僕のフレンドのこんなにかわいいことを。当然だが、こんなのはほんの一部にすぎない。氷山の一角の、降り積もった雪のひとひらほどもないんだ!僕は幸せ者なんだ。僕はこれから、どんどん不幸になる。そうじゃないと、きっと割に合わない。