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精神保健福祉分野から見た『居る』の課題

こんにちは、とある心理師です。

前回の記事を書いてから随分時間が経過してしまいました。
ここ最近は仕事の研修や国試のスクーリングなどで忙しく、記事を書くための時間を捻出することがなかなかできずにいました。

今日は、前回の記事の最後にも少しお伝えした通り、筆者が現職を務めながら日々感じている『居る』の課題や必要と感じている取り組みを、とある心理師の目線で取り上げてみたいと思います。

今回はやや専門的な内容の記事になりますが、最終的には『居る』という大きなテーマについて筆者なりの考察も少しご紹介しておりますので、ご興味のある方は少しだけ辛抱して読んでいただけたらと思います。



精神保健福祉分野から見た『居る』の課題


地域に『居る』ことが困難な人たち

筆者は相談支援専門員として様々な精神障害者を対象に相談援助を行っていますが、ここ最近は、居場所を地域の中で作れずに困っている方の支援に関わることが増えています。

どういうことかと言いますと、精神科病院に入院している期間が長期化してしまっている、いわゆる長期入院患者と接する機会が多くなってきてまして、専門的には『地域移行支援』というのですが、なかなか退院できず困っている患者様の退院支援を行う事案が増えているんですね。

地域移行支援の内容に関しては、詳しく解説している動画がありますので、もしご興味があれば視聴してみて下さい。


この地域移行支援ですが、短く言ってしまえば、クライエントの退院後の居場所を作り、ご本人らしく地域に居続けられる環境を整備する仕事です。退院先の居住地の確保をするだけでなく、日中の活動先を提案して紹介したり、訪問系のサービスを調整したり、行政への手続きのフォローを行ったり等々、クライエントが地域生活を送るための様々な内容の支援があります。

そして、一筋縄ではいきません。

退院先の居住地の確保がそもそも難しかったり、退院できても環境の変化に適応できずクライエントの病状が悪化してしまったり、通所先のデイケアや作業所で対人トラブルが発生したり、近隣住民からクレームが入ったり、等々。様々な事情で、クライエントが地域の中で『居る』ことができず、折角退院できたのに再入院してしまうケースも少なくありません。

そして、そのような諸問題を抱えた精神障害者を支えられる受け皿が地域に無いなどの社会的な側面が原因で、結果として長期間の入院を強いられているような事案も一定数ありまして、特にそのような入院を『社会的入院』と表現したりします。私が支援を行っている地域では、長期入院患者の過半数は社会的入院と言っても過言ではないと感じています。


長期入院患者を支える地域や制度の課題

以前に、筆者は地域移行支援に関する協議会に参加したことがあるのですが、この分野で働く福祉職や医療職の方の認識は概ね一致していて、「地域移行は進んでいるが、患者様を受け入れるための地域の受け皿が追い付いていない」と話しています。

確かに、行政はここ10年で積極的に精神障害者を病院から地域に送り出そうとしてきたように感じますが、地域の体制を整える前に送り出すことを先行して制度を進めてしまった印象も筆者は受けております。そして、それ故に居場所難民と化してしまう患者様も増えてしまったし、その皺寄せが医療や福祉に携わる現場の職員にもきているようにも思います。

一方で、地域の中の課題や制度上の問題はあるものの、その中でも医療や福祉の現場では退院支援を進めていかなければならない現状はありますし、社会的入院を強いられている人達は今も沢山いるわけです。そのような状況の中で、私たち現場の職員は、何を軸にして支援を推し進めていけばいいのかを日頃から考えさせられています。


筆者が考える『居る』ことが困難な人たちへのケアで大切なこと

さて、これまで専門的な内容を小難しく書いてきたわけですが、前提として、筆者はまだ地域移行支援の経験も浅く、どのような事案においても手探りで支援をしているような状況です。なので、『この支援で大切なことは○○だ』などと明瞭にお伝えできる立場の人間ではありません。

それでも、「多分、これは間違いなく、地域移行支援において大切なケアだろう」と感じていることがあります。

それは、当たり前のことではありますが、相談員である私自身がクライエントと地域の双方と良好な関係性を築くことです。

筆者が思うに、クライエントが希望する『居る』を実現するためには、まずは援助者がクライエントのことを深く『知る』こと、そしてクライエントが生活する拠点の地域を広く『知る』ことが重要だと考えています。

クライエントとの面談の回数を重ねることで相手のことを深く知ることができ、お互いの間に関係性が生まれ、徐々にクライエントが心を開いてくれたり、あるいは必要な配慮事項が明確になったりします。また、地域のことを広く知ることで、思わぬところでクライエントの味方になってくれそうな人物と出会えたり、居場所の候補として考えられるようなところを見つけられたりします。

そうやって、クライエントと、地域の社会資源とも関係性を作りながら、『繋がり』を構築することで、クライエントの居場所が確保でき、地域の中でクライエントが幸せに『居る』ことができるようになると思っています。

勿論、地域移行支援の実践においては、他に大切なことは山のようにあります。ここでお伝えした内容は基本中の基本のような話なのですが、実務に追われているとつい大切なことを忘れがちになってしまうので、いつも筆者はここに立ち返るようにしています。


まとめ

冒頭でもお伝えした通り、今回の記事は専門的な内容になってしまいました。精神保健分野の医療・福祉系の方であれば、ある程度はストレスなく読めたと思うのですが、そうでない方は筆者の文章の稚拙さもあり読みにくかったと思います。ここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございます。

ただ、題目のテーマでここまで記事を書き進めて思ったのですが、筆者が現職で感じている精神保健福祉分野での『居る』の課題、そして大切にすべきことは、何も精神障害者や長期入院患者に限ったことではないかも知れません。

『知る』ことを通じて『繋がり』が生じ、希望する『居る』を実現できるようになる。そして、どこかに『居る』ことで新しい何かを『知る』ことができたり、誰かと『繋がり』が生まれたりして、世界が広がっていく。

そんな風に、『知る』・『繋がる』・『居る』のサイクルが好循環することで、地域に『居続ける』ことができるようになるのだと思うし、それはどんな障害やパーソナリティを持っていても同じだと思います。

要するに、私たちは皆、同じような構造で社会の中に『居る』と思うのです。そして、同じような『居る』課題を背負いながら生きているとも思うのです。

このテーマについては、今後も折に触れて取り上げていきたいと思います。

そして次回以降、このように『居る』について深く考察するきっかけになったアートプラットフォーム『iru』についても詳しくご紹介します。



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