「物隠しが無くなるまで、先生は給食を食べません」

10年程前のお話です。当時受け持っていた3年生の学級で、物隠しが頻発したことがありました。特定の誰かの物が隠されるのではなく、ターゲットは次から次へと変わっていきました。学級の全員に意見を述べさせたり、学年集会を開いてもらったり、色々と手を打ちましたが、一向に治まりませんでした。

当時、経験が浅かった私は、何を思ったのか ある日、教室で子ども達に次のように言いました。

「物隠しが続いているのは先生の責任です。皆さんには何の責任もありません。本当に申し訳なく思っています。先生はこの学級から本気で物隠しを無くしたいと思っています。だから、物隠しが無くなるまで、先生は給食を食べません」

教室に(えぇ・・・?)という空気が流れました。(先生は一体、何を言っているんだ・・・?)という空気が流れました。給食の時間がやってきました。男子の1人が「先生、本当に食べないんですか?」と聞いてきます。私は「食べない。物隠しが無くなるまでは」と言いました。

「先生、体壊しちゃうよ」と言う女子もいました。給食の時間、教室はお通夜のように静まりかえっていました。シクシクと泣いている女子もいました。私も、(一体、自分は何をやっているのだろう)と、涙があふれてきました。

午後はひどくお腹を空かせながら授業をしました。それでも物隠しは無くなりませんでした。悔しくてやるせない気持ちになりました。それから翌日も、そのまた翌日も私は給食を食べませんでした。それでも物隠しはおさまりませんでした。

ところが、何がきっかけだったのかは分かりませんが、私が給食を食べなくなって10日ほど経った頃、物隠しがピタリと止みました。数日様子を見ました。もう二度と物隠しは起こりませんでした。

給食の時間がやってきました。「先生、給食は?」と子どもが言いました。私は「食べていいかな?」と言いました。「食べましょう!」と子ども達が言いました。「よし!食べよう!」と私は言いました。先日シクシク泣いていた女子が、今度は「・・・良かった」と言って泣いていました。

私は久しぶりに食べる給食の味をかみしめました。今振り返っても、無茶苦茶な指導でした。私が給食を食べなかったことと、物隠しがおさまったことには、きっと何の関係も無かっただろうと思います。駆け出しの頃は、こんな風に ただただ思うがまま、がむしゃらな指導をしてしまいました。

あの頃は意味のよく分からない指導をたくさんしてしまっていたなと、ふと思い出しました。

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