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【すっぱいチェリーたち🍒】スピンオフ 多さわこ(おおのさわこ)編 ⑲ 最終回(B面)


こちらの記事は、仲良くさせてもらっているうりもさんの企画に乗っかって書いています。

▼ プロローグはこちら。

▼ スピンオフ さわこ編 前回の第⑱話はこちら。


枯木逢春


クリリスマ会も無事に終わった。
文化祭のように何かを成し遂げた、という一体感はなかったが、それでも田梨木高校の年に1度の一大イベントを満喫できた。

1年生だった去年は、正直あまり楽しめなかった。

だが、今年は違った。
企画は違えど、仲間と一緒に何かに取り組むという事、またそれぞれの企画がそれぞれに完成度を高めたり質を高めて、仲間であっても負けてられない、あるいは、中途半端なモノを出せない、というような互いにリスペクトをした上でしのぎを削る感覚が、たまらなく楽しかった。

今年、"私"は、級長である吉田吉夫が企画した"カレーハウスよしだ”を手伝う事にした。

あ、カレーハウス吉田は、勝手に私がそう呼んでいるだけで正式名称ではない。

最初は単なる傍観者でいようと思っていた。
いくら文化祭でみんなと一緒に頑張ったとして、宇利盛男や阿久佳祐が成し遂げようとしている企画には入れないと感じていた。

小室哲子が企画し、おおのさわこが手伝いをする"こんばんみ~カフェ”にも興味はあったが、コスプレをする勇気は持てなかった。

・・・いや、もしかしたら興味はあったのかもしれない。
トナカイの衣装くらいなら・・・と思った事は事実だ。

だが、自分からは「手伝わせてほしい」という言葉を出せなかった。

そんな私の所に、吉田吉夫がやってきて、実はクリリスマ会でカレーを出したいんだが、静かな感じでやりたいので手伝って欲しい、とやって来た。

即答でOKを出した私は、吉田吉夫のオリジナルカレーのレシピを聞いて、材料の調達や、ちょっとした提案や、イベントブースの装飾など手伝った。

吉田吉夫は、ミスチェリの練習もあったので大変そうだった。
だから、できるだけ彼が練習にもカレーの開発にも集中できるよう、準備を頑張った。

イベント当日は、洗い物や片付けなど、裏方に徹したので、良い感じでこの企画の主役である吉田吉夫を立てる事ができたと自負している。

誰かの役に立てる事がこんなに嬉しい事だなんて、あの頃の"私"は知りもしなかった。

今年は、バンドライブも目玉だったが、フィーリングカップルの企画も大目玉だった。

実は、宇利盛男とカップルになれやしないかと、いろいろ画策をしてみたものの、どう考えても無理な事を100通りを超えるシミュレーションを行って自分で証明してしまった。非常に残念だ。
だが、仕方ない、それが現実というものだ。

そんな時、もうしばらく書き込んでいないメモ帳の存在を、ふと思い出した。

クラスの事や、田梨木高校の事、この町事など、"私"が集めた情報記録されたメモ帳。

さっき、片付けにも疲れたので文字数を数えてみたが、なんと40000字を超えていた。
我ながら驚きだ。
何に情熱を注いでいたのだろう・・・。

そのメモ帳を手に取って、そのメモを書いていた自分の事を思い出すと寒気がする。

もうあの頃には戻らない。
そう決意した"私"は、このメモ帳を処分しようと決意した。

誰にも見られずに処分するには、やはり学校の焼却炉が一番確実だろう。

その時、"私"は、はっとした。

そう、"私"は、あの焼却炉に、多さわこが落としてしまった木札を捨てたのた。

あれが何なのかは未だにわからない。
最初は、多さわこに返そうかとも迷ったが、あの頃の"私"には、それが出来なかった。・・・なんて馬鹿なんだ。

二枚の木札には、宇利盛男と吉田吉夫の名前がそれぞれ書かれていた。
何か大切な想いや願いが込められていたのかもしれない。
"私"のせいで叶わなかったら・・・
そう考えると今でも怖い、なんてことしてしまったのだろう。

木札を拾ってからしばらくして体調を崩すようになった。
貝差彩子が訝しそうな視線をくれるようになったのもその頃だ。
うしろめたさもあり、原因がわからない体調不良も続き、どうしようもなくなってしまった"私"は、やむにやまれず、それらを焼却炉に放り込んだ。

今の今まですっかり忘れていた。
そんな事をしでかしたのだ、"私"は、自分が望むような幸せを望んではいけないのだ、そんな気がする。

宇利盛男へのこの気持ちは、ずっと自分だけが大切にしていたらいい。
彼には彼の幸せを、その手に掴んでほしい。

多さわこが困っていたら、力になろう。
彼女にも、幸せになって欲しい。
心からそう思う。



駆けだした足がどんどんと速くなる。

賀田さんの背中が近づいてくる。

まだ手が届かない、ずっと先を歩いている賀田さんが、駅の方に向かって手を挙げた。

誰かに手を振っているようだ・・・。

さわこのスピードが落ちる。

クリスマスの夜。
周りは、クリスマスの照明で彩られてキラキラしている。

赤と白と緑の光が街を照らしている。
照らされた人々は、みな幸せそうな笑顔だ。

そう、賀田よしたさんに手を振り返している蓏萌うりもさんも幸せそうに満面の笑顔で彼に手を振り返している。

さわこの足が止まる。

蓏萌さんに小走りで駆け寄った賀田さんが、両手に大切に持っていた何かを差し出す。

さわこは、思わず手に持っていた紙袋を握りしめていた。
シワにならないように大切に持ってきたのに、もうぐしゃぐしゃだ。

蓏萌さんが、驚いたように目を丸くしたあと、それを受け取りながら、本当に幸せそうに大笑いして何かを賀田さんに伝えている。

さわこの身体が勝手に後ずさる。
12月の冬風が手足に寒い。

賀田さんが照れ隠しのような感じで頭をかいている。
何かを蓏萌さんに伝えている。

もうここに居たくない。何も見たくない。
泣き出しそうなはずなのに涙は出てこない。
心臓が暴走しそうだ。
目をそらしたいのに逸らせない。
ただただ、足だけがゆっくりあとずさっていく。

蓏萌さんが少し考えた後に、賀田さんに何かを伝えて、ゆっくりと頷いた。
はっきり見えないけれど、じっと賀田さんの瞳を見つめたままのように見えた。

周りの喧騒が嘘のように静かになっていた。
何も聞こえない。
さわこは、賀田さんが蓏萌さんを抱きしめるのを見届けて、走り去った。

いくら世間知らずでもわかる。

ただ、もう少し、あの頃のままでいたかった、だけなのに・・・。



どれだけ走ったのか分からない。

気が付いたら家の屋根の上にいた。
いろんな想いが体中を駆け巡っている。
自分でもどうしたらいいのかわからない。

屋根の上から駅の方をずっと見つめている。
繁華街がある駅の周りはひと際明るい。
色んな光が瞬いている。

地上が明るいおかげで、こんな晴れた夜空なのに星が見えない。

だんだんと冷静になっていく。
もともと叶わないと思っていた。
ずっと自分の中であたためておきたかったのに。
いつか、こんな終わりが来ると思ってたのに、覚悟もしていたはずなのに・・・。
なんで・・・続く言葉をさわこは飲み込んだ。

気がつくと、いつの間にか台所から持ち出した包丁が右手に握られていた。

遠くにぼんやりと輝く光。
あの中に幸せな2人がいる。

さようなら・・・その想いと共に、右手がゆっくりと上がっていった。



オレの名前は宇利盛男。
田梨木高校に通う17才。
成績もスポーツもパッとしない。
特にこれと言って得意なこともない。
目標は『三年間無遅刻無欠席』という面白くもなんともない男子学生だ。

今日は、12月26日、そうクリスマスの次の日だ!

クリスマスは、田梨木高校のクリリスマ会が大いに盛り上がった。
オレもバンドで大活躍したし、彩子と一緒にやったラジオは最高に楽しかった。

なんだろう、オレはコレをやるためにゴリラになったんだ、って実感した。
そんな体験だったぜ。
誰がゴリラやねんっ!

まぁ、いろいろモテモテの話とか沢山あるんだけど、そろそろ朝のホームルームが始まるから、それの話はまた今度な!

宇利盛男は、そんな事を俳優気分で妄想しながら、教室の窓から見える空にむかって、誰に届けるわけもなく一生懸命に投げかけていた。

おかげで、教室の窓がガラっと微かな音を立ててゆっくりと開くまで、そこに、誰かがいる事に気が付かなかった。

え???

目の前の教室の窓から田梨木高校の制服を着た女子が入って来た。
あまりに身軽な身のこなしに、あっけにとられる宇利盛男だった。
女生徒が教室の床に片膝をついて姿勢を低くした時には、いつの間にか、音もなく窓は閉じていた。

クラスメイトはまだ気づいていない、俺だけだ。

どこかで見たような、誰かに似ているような、そんな感じがしたが、こんなショートヘアが似合う可愛らしい女の子がこのクラスにいたっけな・・・
目鼻に紅が入ったようなメイクをしているようで、少し大人っぽいような妖艶なような、そんな雰囲気を少し感じた・・・

なんて事を考えていると、その女の子が、ゆっくりと口元に人差し指を当てて、シーっという仕草と共に、オレにメガネ越しのウィンクをした。

え?え?なになに、オレのファンなの?・・・こっ、告白??
いや、でもオレ、そんなこと急に言われても・・・
いや、言われてないけど。
それよりも誰?
教室間違えた?

そんな事を思っている間に、その子は風のように教室の後ろの方に走りさっていた。

何人からのクラスメイトは気が付いたようで、あ!?とか、え!?とか言っていたが、ザワつきかけたちょうどその瞬間に、油木先生がいつもの調子で元気よく挨拶をして教室に入って来た。

『 みんな!おっはー!!クリスマスは楽しんだ~? 』

何か良い事があったのか、油木先生はいつにもまして満面の笑顔だ。
そんな油木先生が、生徒の顔を一通り見渡していた時、教室の後ろの方で釘付けになったように、ピタッと視線が止まった。

一瞬驚いたような表情をした後に、すぐに笑顔を作り直して、
『 おおのさん!なになに!?チョー可愛いんだけどっ!!ガハハハハハー! 』

そういって、珍しく教壇を降りて歩き出した。
多さんの席へ向かっている。

『 えへへ、似合いますかぁ?先生 』
多さんがそう返事していた。
あれ?多さんってそんな明るい声で返事する子だっけ?

あれ?
多さんの席に座っているあの子、さっきの・・・

多さんの席に着いた油木先生が、少しの間、多さんを観察して髪の毛を少し触ったようだったが、次の瞬間、すごい大きな声で号令した。

『 よし!今日のホームルームと1限目の性教育の授業は無しにします! 』

突然の事だったが、珍しくはない。
クラスが沸き立つ。
オレも嬉しさのあまり胸をたたく。
仲間が、ドラミングしとる!とかゴリラやないか、とはやし立てる。

『 ただし!男子は漢字の書き取り! 』
『 女子は、各自メイク道具を持参して保健室に集合! 』

そう言って油木先生は、黒板に大きく漢字を書いた。

【 蟒蛇 】

『 男子は、これを108字書くこと! 』
『 それと、小室さんと大門寺さん、多さんを保健室まで連れて行ってあげてね 』
『 質問はなし! 』
『 なんのためにスマホ持ってんのよ! 』

油木先生が矢継ぎ早に指示を出す。
男子が質問しそうなことを先に答えている。

小室さんと大門寺さんが、すっと立ち上がって多さんの所へ向かう。

他の女子も、油木先生と多さんの様子を見て合点がいったようだ。
すぐに忙しそうにメイク道具などを持ち出して保健室にむかっていく。

取り残された男子は、不満そうに、何で男子だけなんだよー!とブーイング。

こんな時は、男子代表のオレが頑張らないといけない。

教室を出ていきかけている油木先生に、
『 何でどうして男子だけなんですかぁ? 』
・・・と駆け寄っていくと、油木先生の前に二人の人影が立ちはだかった。

圭子と波都子だ。
もう目が怖い。

『 男は黙って自習してろや! 』
二人の声がシンクロする。

そして、二人の完全にシンクロした、目にも止まらないダブルボディブローがオレの鳩尾みぞおちに炸裂する。

『 ここは男子の出る幕じゃねぇんだよ 』
そう吐き捨てて、二人は油木先生と共に保健室に向かって行った。

廊下なのに、三人の歩き去っていく後ろ姿を隠すように土煙があがったような、そんな気がした。西部劇のようだ・・・。

しばらく意識を保っていたオレも、教室のドアが閉まった瞬間に限界を迎えて崩れ落ちた。

阿久や保志田、吉田に藤岡くんが駆け寄ってくるの最後に見えた。

あぁ、恋愛マスター理論の藤岡くん・・・。
また新しいマスター理論を教えてもらわないと・・・。
なぜかそんな事を思いながら意識が飛んだ。



『 はっ? どーしたんや多さん!その髪ぃ! 』

開口一番、茶保先生が校舎中に響きそうな大声で言った。
いや、叫んだ。

耳が痛いよぅ、先生・・・。

哲子ちゃんとナナコさんが保健室まで寄り添ってくれた。

昨日は眠れなくて寝不足だし、ずっと泣いてしまっていたから目も鼻も真っ赤に腫れていた。

両のおさげ髪をバッサリ包丁で切り落としてから、不思議なくらい気持ちはスッキリしたのに、なぜか涙が止まらなかった。

学校を休もうかと思ったけれど、今日休んでしまうと明日登校できるのかわからなくなって怖くなったから頑張って登校した。

目元と鼻を慣れないお化粧で隠したりしていて、遅刻しそうになっちゃったので、最短コースで教室に入った。

宇利くんのびっくりした顔を見て、なんだかうれしくなった。
宇利くんの真似をしたみたんだけど、何もツッコんでくれかったからさみしかったな。

でも、宇利くんは、みんなを笑顔にしてくれる不思議な存在・・・。

少し笑顔も出せたけど、やっぱりすぐに落ちこんじゃった。
哲子ちゃんときこちんが心配そうにこっちを見てくれていた。
今までみたいに黙って気配を消していたら大丈夫のはずだったのに・・・。
頑張って元気を装ったけれど、やっぱり油木先生は誤魔化せなかったみたい。

みんなの優しさが嬉しくて、涙が出てくる。

『 あ~あぁ、なんやこんなに真っ赤な目ぇして、鼻もぐずぐずやないか 』

茶保先生が涙目になって、私の顔を拭ってくれている。

『 それに、こんな適当に髪の毛切ったらあかんわ、髪の毛ガタガタやないか・・・ 』
髪の毛の切断面を触りながら、悲しそうにそう言った時、油木先生と一緒にクラスメイトが保健室に来てくれた。

何があったかなんて誰も聞かないで、メイクの仕方や髪形はこうした方がいいとか、矢田さんがショートはこうした方がいいとか、みんな手を取って教えてくれたり、見本を見せてくれたり、メイク道具を貸してくれたり、ちょっと無造作すぎたショートカットの髪型を、綺麗に整えてくれたり、途中でやってきた垣野先生が、アタクシのヘアースタイルも真似てもいいのよ?と言ってくれたり、ネイルをしてくれたり、いろんな眼鏡をかけてくれたり、途中からメイクの実験みたいな事にもなっていたけれど、誰かが私服もってきてないの?とか言ったり、油木先生がアタシの服持ってくる?とか言ったり、それを茶保先生がアホか、と一喝したり、そう思ったら、なぜか白衣着てみるか?と言って白衣を着せてくれたり、なんだかすごく楽しかった・・・。

だけど、なぜかなぜか、涙がとまらなかった・・・。
嬉しいのに、笑う所なのに、なんでか涙がとまらなかった・・・。

最後には、泣きながら笑っていた。
へんなの。
・・・でも、なんだか幸せだった。



僕は、阿久くんから『頭よし、顔よし、運動よし、オシャレよし!会話よしの5冠王や!』という異名を与えられている恋愛マスターの藤岡だ。

下の名前は秘密にしておこう。
そうこれまで名前まで秘密にしていたんだ、このくらいの秘密が残っていた方がミステリアスでいいだろう。

クリリスマ会の後、僕は完全に生まれ変わった。
そう、あの"メモ帳"を焼却炉で処分して、スッキリした。

気持ちも心も軽く登校した僕は、いつもと同じ景色を見ているはずなのに、いつもよりも明るく見える同じ景色で不思議な感覚に包まれていた。

いつもどおりの日常なのに、なぜこんなにも世界は明るいのだろう。

ただ、いつも、いつの間にか登校しているおおのさんの姿が、いつまでも見えない事に不安を感じていた。

彼女は、昨日はあんなに楽しそうだった。
そう、僕が彼女の事を見誤るはずがない。
誰よりも僕は、彼女を見てきたからだ。
彼女は、心の底から楽しんでいた。
あんな笑顔や明るい顔は、今まで見たことがなかったくらいだ。

そんな彼女を見て、僕も幸せな気分になっていたのに・・・
どうしたのだろう・・・

その時、ふわっと風が通ったかと思ったら、いつの間にか彼女は着席してた。

だが、僕は目を見張った。
あまりの彼女の変貌ぶりに、空いた口が塞がらなかった。

本当に、空いた口が塞がらない事ってあるんだ・・・と思った。

その後の事はもう知っているだろ?

宇利くんがスケバン2人に殴られてぶっ倒れた時、思わず飛び出してしまっていた。

正直、本当に馬鹿だな、と思ったよ。

空気読めないかなぁ、多さんがあんなに泣きはらした顔で髪の毛までバッサリ切ってしまっていて・・・。

でも、そんな馬鹿ば所がある宇利くんの事が、たまらなく愛おしく感じる。
この気持ちは永遠に秘密だけどね。

後で意識を取り戻した宇利くんが、僕にこう言ったんだ。

『 恋愛マスター・・・新しいマスター理論を教えてください。 』
・・・て、真剣な顔でそんな事を言うもんだから、思わずこう答えてしまったんだ。

『 女の子のちょっとした変化でも気が付かない内は、無理だね。 』
まぁ、僕はそんな宇利くんが好きなんだけどね。
残念ながら、彼は女子に夢中だ。

女子の変化??
ってすごく難しそうで悩んでいる宇利くんは、まさに考えるゴリラだったよ。

まぁ、今日の多さんを別人と間違えているようじゃ、まだまだだけどね。

そんな事よりも、あれから日を追うごとに宇利くんや、その仲間たちと自然に話せるようになって、自然に輪に入れるようになった。

同じ立ち位置に立てている実感が、何よりも嬉しい。
こんな幸せな事はない。



その後、藤岡君は、中性的な言動のYouTubeがバズり、高校を卒業してから芸能界入りをして、タレントとして活躍する事になる。

スタイルも良く運動神経も抜群でイケメン、それでいて裏表なく誰にでも優しい性格の彼はモテモテだったが、生涯誰とも結婚をしなかった。

趣味で書いていた小説が当たり、作家活動をメインにするようになってからは表舞台からは姿を消したが、20年後、宇利盛男と貝差彩子がやっているラジオ番組にゲスト出演したりして、公私ともにクラスメイトとの交流は続けている。

彼の代表作には、田梨木高校時代の思い出話をベースにした【ゴリオ物語シリーズ】があり、その挿絵はマルチアーティストになっていた宇利爽が担当している。

ゴリオ物語では、スタンダードな学園モノの話から、謎の組織と学園の秘密組織が戦うアクションモノまで、幅広い物語展開があり人気となっている。

主人公のゴリオについて、モデルはいないと公言していた藤岡だったが、宇利と彩子のラジオにゲスト出演した時に、主人公のモデルは、宇利盛男であると白状した。

また、学園側のスパイの謎の少女やその少女をフォローする黒縁メガネの相棒についても、クラスメイトをモデルにしていると告白した。



生徒を先に帰して保健室には、油木先生、垣野先生、茶保先生の三人だけになっていた。

『 さわこちゃん、大丈夫かいな 』

ため息交じりに茶保先生が心配そうに言う。

『 大丈夫、私の生徒だもん、私が見てるもん! 』
『 まぁ、あの様子だったら大丈夫じゃないかしら 』

『 あんたら余裕あんなぁ、それでも心配やで 』
『 ふふふ、あの同級生がついているんだから大丈夫よ 』
『 そうよ、私の生徒だもん 』

『 そっかぁ、そうやなぁ、それもそうか! 』
『 さっきね、一枚引いたのよ、それがこれ 』
垣野先生が、一枚のタロットカードを差し出した。

絵柄は、正位置の THE SUN(太陽)だった。

垣野先生が、意味ありげに微笑んだ。

『 ほんなら、安住センセーとの話、ちょっとしたろか 』
『 えー!わたしも獣医さんとの新しい話あるよ! 』
『 しまった・・・かるた部に夢中でサボってたわ・・・ 』



数日後・・・

宇利盛男は、遅刻しそうだった。
無遅刻無欠席の目標が危なかった。

必死に走っていた。

『 宇利くん!そんなんじゃ遅刻しちゃうよ! 』

そう言って、おおのさわこが凄いスピードで走り抜けていった。
追い抜くときに、一瞬くるっと回って宇利盛男を見て、小さく敬礼をして、チョッと舌を出して悪戯っ子のような顔でニッコリと笑った。

そのまま左脚を軸に回転しながら少し腰を沈めたかと思うと、さっきよりももっと早いスピードで駆け抜けていった。

『 ちょっ・・・待てよ!・・・よ・・・ょ 』
キムタクのモノマネをしてみたものの、誰も見ても聞いてもいなかった。

沢山走ってあっついはずなのに、背筋が寒くなった。

急がないと本当に遅刻してしまう!

・・・あれからおおのさんは、すごく明るくなって元気になった。

宇利盛男は、なんだかそれが、とても嬉しかった。

おおのさわこが駆け抜けていった後、少し、いい匂いがした。



おしまい






枯木逢春

読み方 こぼくほうしゅん

辛く苦しい状況から抜け出ることのたとえ。
弱ったものや不遇な境遇にあるものが、勢いを取り戻すことのたとえ。
枯れているように見える木も、春になれば生き返るという意味から。
「枯木(こぼく)春に逢(あ)う」とも読む。

四字熟語辞典

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カーテンコール

▼ 宇利盛男役のうりもさん

▼ 貝差彩子役の彩夏さん

▼ 宇利爽役のsou.さん

▼ 橋田壽賀美役のららみぃたんさん

▼ 千代子役のチョコさん

▼ 吉田吉夫役のよしよしさん

▼ 保志田役のほっしーさん

▼ 波都子役のloveheartさん

▼ 圭子役の西野圭果♡さん

▼ 阿久佳祐役のアークンさん

▼ 瀬里役のゼリ沢梨さん

https://note.com/saigo_no_matane

▼ 小郷オーエン役の習慣応援家 shogoさん

▼ 油木肉子先生役のゆきママ@男の子4人育児さん

▼ 茶保先生役のちゃぼはちさん

▼ 垣野先生役の書きのたね。ブルボンヌ。さん

▼ 千葉ヨメン役のばちょめんさん

▼ 古事スイカ役のkojuroさん

▼ 八木風歌役の八風(やふー)さん

▼ トシさん役のトシさん

▼ 小室哲子役+小室友美役のT Kさん

▼ 田中健一役の香坂兼人さん

▼ 大門寺ナナコ役のだいなさん

▼ 青野先生役のあおのうさぎさん

▼ 早戸先生+戸橋先生役のパヤとバーシーさん

▼ 寅子役のとらふぐ子さん

▼ 蓬田陽介役のよよさん

▼ 冨永利子役のkikiさん

▼ 見栄晴男役のミエハルさん

▼ 富良子不良雄役の脱サラ料理家 ふらおさん

▼ 八足種雄役のpersiさん

▼ 千世子役の千世(ちせ)さん

▼ 矢田なぎこ役のやなぎだけいこさん

▼ 三毛猫の三毛田さん役の三毛田さん

▼ 岡田源役のおかぐちや源太さん

▼ かっちーさん役のかっちーさん

▼ 大谷役の大谷翔平さん


■ 巻末付録

おおのさわこ
by よしよし
リアルさわこ
by sou.さん


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