【すっぱいチェリーたち🍒】スピンオフ 多さわこ(おおのさわこ)編
今回は、親しくさせてもらっているうりもさんのイベントに参加させて頂きますので、いつもと違う感じの内容になっております。
詳細は、以下のイベント詳細のnote記事をご覧くださいませ。
そんなわけで、ちょっとプロローグとか色々読んで思い浮かんだ妄想を書いていこうかと思います。
“多さわこ”についての記録
“私”は田梨木高校に通う高校生。
毎日毎日何の変哲もない日常を過ごしている。成績は平均以上だか良くもない、クラスの中では目立たない存在だ。
クラスメイトには、本人は目立っていないつもりのようだが十分に目につく宇利盛男がいる。嫌いでも好きでもないが、なぜか目を引く存在だ。
しかし、その宇利盛男の存在をここまで気にするようになったのには理由がある。
多さわこの存在だ。
彼女は”私”より目立たない存在で、もしかしたらこのクラスで彼女の存在を感じていない生徒もいるかもしれない・・・そんな風に思わせるほどに存在感がない。
いや、実は”私”は彼女があえて存在感を消していると直感している。きっとそうに違いない。そうでなくてはあそこまで気配を消せるはずがない。
彼女には何か目立ってはならない理由があるのだろうか・・・。
そんな彼女の存在に気がついてから、自然と彼女の言動に注目するようになってしまった。
しかも、彼女に気取られないようにだ。
気配を消しているつもりの彼女をこっそりと観察する、なんだかワクワクして学校生活が楽しくなってきたのも事実だっだ。
そうして彼女をこっそり観察して気がついたのだが、彼女はいつも宇利盛男を目で追っているのだ。
周りに気取られぬよう、こっそりと。
だがそれでいて獲物に狙いを定めているような感じもする。
ただならぬ視線を送っているのだ。あの宇利盛男に。
解せない。
多さわこは、年度の途中で転校しきた転校生だった。
おさげ髪の肌の白い子だなぁ、というのが第一印象だった。北海道から転校してきたそうで、だから肌が白いのかな・・・、なんて思ったのを思い出した。大きな黒縁メガネをしていて自己紹介で何を喋ったのかも思い出せないほど印象に残らない初対面だった。
そうだ、彼女が一度だけ黒縁メガネを落とした事があった。
そう、その黒縁メガネを偶然近くを通りかかった宇利盛男が拾って手渡していたのだ。その時から彼女は宇利盛男に注目するようになったような気がする。
“私”もその時、偶然に彼女の素顔を見た。
かなり度の強い黒縁メガネだったのだろう、メガネを外した彼女の顔は別人のように見えた。特に大きな瞳が印象的だった。
いや、白状しよう。
あの一瞬で“私“は、あの美しい瞳の虜になったのだ。
だからあの綺麗な瞳が、あのなんの変哲もない平凡でゴリラのような顔の宇利盛男の姿を追っているのが許せなかった。
“私“は知っているぞ、宇利盛男。
彼は、先日貝差彩子に告白をして見事にフラれている。しかも2回もだ。
このクラスの観察者である“私“の目は、その程度の事は把握している。
そんな身の程知らずの宇利盛男だが、なんと性懲りも無く別のクラスの女子が気になっているらしい。男というのは本当に馬鹿な生き物だ。
ゴリラの新たな標的はどうやら小室哲子らしい。
まったく脈なしなのだが当の本人は浮かれまくっている。
本当に男は馬鹿だ。
周りの男子の友人にも囃し立てられているようなので近いうちにフラれるだろう、いい気味だ。
クラスの男子といえば、もう1人気になる男子がいた。
級長の吉田吉夫だ。
彼は級長らしく一番前の座席で黒縁メガネをしていて一見優等生に見えるのだが、実はそこまで成績はよくない。
たしか英語は追試を受けていたはずだ。
真面目に勉強すれば成績は良くなるはずなのに勿体無い。
彼は何故か教科書に「お笑いマニュアル」を挟んでお笑いの研究をしている。
本人は誰にもバレてないつもりのようだが“私“の目は誤魔化せない。
芸人タイプではない彼がお笑いを研究してるのは滑稽だが、彼が面白いことを言った記憶はない。
いや、先日朝のホームルームでクラス全体が吉田吉夫の号令で笑ったな。
何で笑ったのかわからない、きっとくだらなさ過ぎて記憶にも残らなかったのだろう。
多さわこもクスりともしていなかった。それどころがあの感情を出さない彼女が吉田吉夫に殺意のこもった視線を一瞬、ほんの一瞬送ったことを“私“は見逃さなかった。
そう、その時から“私“は、吉田吉夫の事も気になり始めたのだった。
宇利盛男と吉田吉夫は、多さわこにとって何か特別な存在になりつつあるのだ。
許せない。
彼女は“私“と同じように、クラスの中のその他大勢であるべきだ。
あれだけ存在を消せる彼女が、あんなに無表情な彼女が、あんなに無色の彼女が、あの2人の男子に対して興味を持っている事が許せない。
まだ色がついていない彼女は、そのまま無色であるべきだ。“私“と同じように・・・。
“私“と多さわこと宇利盛男と吉田吉夫は、自宅の方向が同じなので登下校では途中まで同じ道を歩いている。他にも何人かクラスメイトも同じ方向だが、“私“にとって重要なのはこの3人だ。
当然、全員バラバラで登下校している。
宇利盛男は仲良しグループの阿久佳祐や小郷オーエンたちといつも一緒だ。
吉田吉夫は、いつも1人だ。
教科書を開いているが勉強しているわけではない事は知っている。
多さわこも当然独りだ。
気配を消しているので、いつもある程度の距離を保って吉田吉夫の後を歩いてる事に誰も気がついていない。
いや“私“だけが知っているのだ。
フフフ。
そんな日常が続いていたある日の登校の時、いつも多さわこが可愛がっている公園に居着いている黒猫が居なくなっていたのだ。
実は“私“もその黒猫には時々餌を与えている。だが、その黒猫は“私“にはなかなか懐いてくれない。可愛げのない猫だ。
もう1人、この黒猫の世話をしている人物がいるのを“私“は知っている。
宇利盛男の妹で小学生の爽だ。
この黒猫は爽にかなり懐いている。
おそらく多さわこは、爽の事は知らないだろう。
黒猫がいなくなっている事に気がついた彼女は少し不安そうな顔をして、しばらく公園の中をあちこち探していたが、黒猫は見つからなかった。
これ以上探すと遅刻してしまうので諦めて学校の方へ走り出した彼女は、ポケットからある物が滑り落ちてしまった事に気がつかなかったようだ。
彼女が走り去り、公園の角を曲がって姿が見えなくなってから“私“は、彼女のポケットから滑り落ちた物に駆け寄って拾い上げた。
それは、2枚の薄い木の板だった。
長方形で手のひらサイズだが、見ようによっては菱形にも似た形で見た事がない珍しい形だ。
その2枚の板を裏返した時に戦慄した。
板の裏には、それぞれ人形のような模様と共に、宇利盛男と吉田吉夫の名前が書かれてあったからだ。
筆跡は多さわこのものだった。
“私“が彼女の筆跡を見間違えるはずが無い。
“私“は咄嗟にそれらをカバンにしまってその場を立ち去った。
これは使えるかもしれない・・・
“私“が彼女の事をもっと深く知れるきっかけになるかもしれない・・・
いや、もしかしたらあの瞳を“私“だけのものにできるかもしれない・・・
フフフ・・・。
"私"の鼓動は自然と高鳴った。
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多さわこは焦っていた。
どうやら『アレ』を公園で落としてしまったらしい。
常にあるべき場所にある事を確かめている。
公園で"うりも“を探していた時に落としたのだろう。
その直前まで間違いなく持っていたのだから。
誰にも怪しまれないように少し回り道をして走って戻った。
誰にも見られていない。
公園が見える場所まで辿り着いた時にさわこは凍りついた。
“あの人“が何かを拾って走り去っていったのだ。
ーアレを見られたー
さわこの顔は蒼白となったが、走ってきたので頬は紅潮していた。
だが息は切れていない。
落ち着いた呼吸で精神を整える。
“あの人はきっと今日も私をつけていたはず“
“先に教室の席についてないと怪しまれる“
“今ならまだ間に合う、考えるのは後だ“
その判断した瞬間、さわこの身体は動いていた。
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音もなくその場から消えたさわこの姿を、宇利盛男の妹の爽に見られていた事に、さわこは気がつかなかった。
冷静なつもりが、やはりアレを落としてしまった事に動揺していたのだ。周囲への警戒が緩んでしまっていた。
爽は、しばらく呆気にとられていたが、しばらくしていつも可愛がっている黒猫の“ウーリー“を探していた事を思い出して再び探し始めた。
探しているうちに、さわこの事も忘れてしまった。
そんな事より、いつも呼びかければ喜んで駆けてくる“ウーリー“が居ない事が、この世の終わりのような不安を爽に感じさせていた。
これ以上は遅刻するから探せない・・・。
『ウーリー、お腹空かせてないかなぁ。大丈夫かなぁ・・・』
爽の登校の足取りは、いつもよりずっとずっと重かった。
帰ったらお兄ちゃんに相談しようかな・・・
だめだ、馬鹿兄貴は好きな女の子の事で浮かれまくっていて使い物にならない・・・
爽の深いため息が、その不安な想いを乗せて綿毛のようにフワフワと宙を舞って風に吹かれて飛んでいく。
そして田梨木高校の日常は、いつもと変わらず続いていく。
これは、黒猫がつなぐ物語。
知らない人は知らないちょっとした秘密のお話。
つづくかも?
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とりあえずこんな感じで参戦します。
お祭りみたいで楽しいですね(笑)
以下、このお祭りのマガジンです。
イラストは、そうさんの作品で、物語に登場する爽ちゃんのモデルです。
あとは、さわこ関係で重要人物になる予定の吉田吉夫くんのモデルのよしよしさんは、こちらの記事をご参照ください。