商品の品質が求められる時代。
先日、商工会議所のセミナーで笹井清範氏の講演を聞いてきました。
現状は、人口がどんどん減少していく中で、安ければ物が売れる時代が終わり、価値あるものにお金を出す、そんな時代になっているという話を聞いて本当にその通りと思いました。
小売りの現場の話を中心に聞かせてもらいましたが、コロナ禍でも業績を伸ばし続けている大小の会社で共通していたのが、自分たちが売り出す商品にたいしての”こだわり”と、その商品を通してお客様に喜んでもらう為の”ひと手間”だったと思います。
この講義を聞いている中で、介護サービスは現場職員そのものが商品であり、そこで生み出されるサービス自体も商品であるという事に改めて気づかされました。
そうであれば、一人一人の職員が、一人一人の利用者様に対して、この人口減少の時代でありアフターコロナの時代で利用者様(本人や家族)から評価を得るためには、それぞれ成功している小売りの現場で当たり前に行われている”こだわり”や”ひと手間”を介護業界なりに工夫をして作り出していく必要があると思いました。
そもそも現状の介護現場では、人手不足や過酷な労働環境などがフォーカスされ、現場全体にどこか”限界感”が漂っているように感じています。
・・・というか感じていました。
だからそういう現場から独立して開業したわけですが、これまで勤めていたどの現場でもそういった閉塞感というか、これ以上頑張れない感が漂っていたように感じています。
その中でリーダーとして管理者としてもっとやれることがあるはずだ、もっと工夫ができるはずだと言ってきたわけですが、チームに賛同者や共感してくれる人が少ないとその感覚を維持する事自体も大変な精神力が必要になりました。
小売りの現場と介護の現場を簡単に比較はできませんが、自分たちが販売する商品に対しての想いや向き合い方については、比較してもよいと思っていて、何も介護の現場だけが人手不足で大変なわけではありませんので、講義で聞いた成功している現場の取り組みや工夫を聞いていると、どうしても介護の現場での自分たちが提供しているサービスの質やそのサービスを届けた時の自分の想いや、同じサービスであっても利用者様一人一人に対して提供する際のひと手間というのが欠けているように感じました。
その原因は、介護保険制度という枠組みがある事によるものや、チーム内で勝手な動きが出来ない事もあるとは思いますが、個人的にはそういう大枠で統一しないといけない内容と、個々の職員がひと手間ふた手間かける独自の工夫というのは別物だと思いますし、もしかしたらこういう同じサービスでの手間のかけ具合というのを、介護業界は評価できないで来たのが上述の限界感や閉塞感のような感覚を生み出してしまっているのではないかと感じました。
このひと手間ふた手間をかける、という部分ですが、これは認知症ケアの場面で同じサービスを提供したとしても結果に大きな差がでるケースだと思っています。
認知症であろうがなかろうが、本来あるべき人間同士のコミュニケーションを正しくとる事でほとんどのケアがうまくいくと思っていますが、これが仕事になっている介護の現場では、こういうサービスが、単なる作業や業務になってしまっている場面が多くみられると思います。
人対人の関係の中で、相手が作業的な、あるいは業務的な対応をされたとして、自分がしてほしい事や自分の気持ちをその人に言えるでしょうか。
要はそういう事なんだろうと思うんです。
介護の現場であっても、人対人の関係を大切にしたうえで、その人(職員)なりのその人(利用者様)への対応の工夫は千差万別であって当然ですし、個々の気づきの上で様々なアプローチがあり、それ自体が人間同士のコミュニケーションの楽しさであり難しさであると思います。
そういうのを楽しめている現場職員は、一つ一つのサービスにひと手間もふた手間もかける事ができていて、その結果様々な気づきを得て、更に関係を深める事ができていって適切なケア(商品)を提供できるようになるという好循環を生んでいると思います。
こういう部分については、これまでも頭の中で気づきとしてあったのですが、今回の講義を聞く中で、もしかして”コレ”が介護技術の一番大事な部分であって、これが出来てない人を出来るように指導育成する事が一番大事なんではなかろうか・・・なんて思ったわけです。
で、これの何が難しいかと自分なりに思った所、これが出来ている職員の多くは、対利用者様との関係の中では特にこれを仕事だとか思わずに自然に応対できているという部分が大きいな、と勝手に分析しています。
だから、そもそも”やって当然””出来て当たり前”という感覚で、自分が何をどう工夫しているのか自体を自覚していないという事が多いんじゃないかと思いました。要するに、空気を吸うように心臓が勝手に動いているように出来ている事なわけです。
一方でこれが出来ない職員の多くは、それ自体を仕事や業務として位置付けてビジネスライクに取り組んでいる傾向が強いと感じています。
仕事なのでそれはそれで正解なのでしょうが、サービスの質(商品の質)としては劣ります。
介護サービスの質は、利用者様の生活の質を向上させる事と要介護度が維持できるような自立支援が出来るかどうかが重要なポイントです。
ですので、100人利用者様がいれば100通りの人生があって当たり前ですし、100人全員の人生が違うように性格や考え方も違って当たり前なんですが、この人間対応の一番重要な部分をビジネスライクに仕事だから業務だからとして対応してしまうと、そこで生まれる個別性に特化した工夫やひと手間が生まれる事はほとんどないと言っていいと思います。
生活の質(QOL)を高める事が仕事の我々介護職が生み出すサービス(商品)は、大量生産品であってはならないという事なんだろうと思いますし、ここの商品開発(ケアの工夫)を様々な要因があったとしても諦めないで追及している事業所が生き残っていくのだろうと思いました。
お客様のニーズに対して真摯に対応できているかどうか。
小さなニーズでもきちんと拾えるかどうか。
対人間関係の部分が今後もより一層重要になっていくだろうと思いますし、そこでの工夫やひと手間が今後の介護サービスにはより重要で求められてくる内容なんだろうと思いました。
講義で紹介されたお店で印象に残ったお店を紹介します。
それぞれのお店が独自のこだわりをしっかりと持った上で、一人一人のお客様に対して真摯に取り組んできた結果、さいちさんでは”おはぎ”が生まれ、飯田屋さんでは”エバーピーラー”が生まれたとの事です。
3000円以上もするピーラーが売れているそうです。
僕自身もちょっとほしくなりました。
要は、世の中はそんな時代になっているという事で、介護業界もおいて行かれないようにしないと介護職員の処遇改善どころの話ではなくなりそうだな、と思いました。
ピーラーでもこれだけの工夫ができるのですから、介護現場のサービスについてもまだまだ工夫のしどころはあるんじゃないかと思います。