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【すっぱいチェリーたち🍒】スピンオフ 多さわこ(おおのさわこ)編 ⑬ 


こちらの記事は、仲良くさせてもらっているうりもさんの企画に乗っかって書いています。

▼ プロローグはこちら。

▼ スピンオフ さわこ編 前回の第⑫話はこちら。

▼▼▼ 今回は、以下の記事の直後か直前のお話となりますので、ご参照くださいませ。


芽生え・・・


ホームルームが終わった教室の中を、おおのさわこは、ぼんやりと眺めていた。

ぼんやりしていると、なぜか賀田さんの事が思い浮かんでしまう。

おかしいな、今までは仲良くなりたかった宇利くんや吉田くんの事が浮かんできたのに・・・。

そんな事をぼんやりぼんやり考えながら、次の授業はなんだっけ・・・と現実の空間に視線を合わせると、宇利くんと貝差さんが元気よくやり取りしているのが見えた。

あの二人は、いつも仲良しだなぁ・・・。
以前は、そういう二人の関係が羨ましくもあったが、なんだかもう宇利くんは遠い存在になってしまった。

吉田くんとは、劇の本番で裏方として一緒に頑張ったので、そう考えると吉田くんと小郷くんとは、すごく距離が近づいたような気もする。
なんだか気軽に話しかけれそう・・・。

ふっとそんな事を思うと、劇本番に宇利くんがあんなに練習した主役を演じられなかった事が、またチクチクと心を刺すようだった。

宇利くん、本当に大丈夫かしら・・・。
本当はまだ・・・。

そう思いながら、宇利くんの方を見ると、何やら貝差さんに詰め寄られて慌てて手を振っているようだった。

よほど慌てたのか、次第に手と一緒に首まで振り始めて、見ているこっちが首が千切れやしないかと心配になるくらいにぐるんぐるんと振っている。

よく見ると、宇利くんの顔が真っ赤だ。
貝差さんが宇利くんの顔に人差し指を突きつけながら、すごく顔を近づけているので、もしかしたらドキドキしているのかもしれない。

キラキラとした輝きを発する貝差彩子の姿を眩しく見つめながら、あんなに綺麗な人が近づいてきたらドキドキするよね・・・と思うさわこだった。

宇利くんが、何かあわあわしながら言った直後、さわこにも聞こえるくらい大きな声で貝差さんが言い放った。

『 は、何言ってんの? 』
ちょっと強めの口調だったので、周りのクラスメイトがそちらに集中する。

みんなの注目を集めたからか、宇利くんは更に慌てたように、あわあわした様子で何やら早口のように汗をいっぱいかきながら言っている。

宇利くんの目も風船みたいにふわふわしていて、なんだか何かを隠そうとしてごまかしているようだ。

・・・何かを隠そうとしている?
宇利くんが隠し事をするなんてちょっと珍しいので、さわこも二人のやり取りに集中する事にした。

貝差さんの声がまた聞こえた。

『 人は何かごまかしたい時によく喋るねん 』
・・・たしかに。
さわこもそう思ったし、はっきりしない宇利くんにも少し腹がたってきた。
何のやり取りかは知らないけれど・・・。

次の瞬間、貝差さんが宇利くんの耳元に顔を近づけて、何かを伝えたように見えた。

その瞬間、宇利くんの表情が固まった。
もう見事に固まっている。
なんていうか、本当にゴリラの彫刻のように固まってしまっていた。

遠くだからよくわからないけれど、宇利くんと目線がずっと合っている気もする。

・・・私の事、見てるの?

貝差さんが、なにか言い続けている。
何を言っているかまではっきり聞こえない。
気になる・・・。
何を言ってるの?
なんで宇利くんはこっちを見てそんなに固まっているの?

貝差さんが、何かを言い終えた後、宇利くんの表情が変化した。
何かに気が付いたような、目からウロコがおちたような、はっとしたっ表情をして私から目をそらした・・・

どうしたんだろう、気になる。
何の話なんだろう・・・。

さわこから見える宇利くんは、今度は貝差さんをじっと見つめている。
少し頬を赤らめている様にも見える。

そうだよね、何を言われているのかわからないけれど、貝差さんはいつも真剣で全力でぶつかってるもんね。そういう熱意って伝わるもんね。

また、貝差さんの事、好きになるのかな・・・。
でも、二人はお似合いだと思うんだけどなぁ・・・。
すこーーーしだけ複雑な気持ちのさわこだったが、誰が見てもお似合いのカップルだ。

ぐっと息をのむような宇利くんの仕草が、彼が何かを決意したようにも見えた。

貝差さんが喋り続けている。
喋っているうちに気持ちがノッてきたようで、どんどんと声量が大きくなっていくので、後半の内容が聞こえてきた。

『 ・・・何回も家で練習してたんやろ。タイミングとか、声の大きさとか、どんな風に言ったらいいかってあんたのことやから一生懸命考えてたに決まってる、私分かるもん。宇利って、そういうやつやん。』

少しだけ聞こえてきた。
・・・そっか、やっぱり劇の事話してたんだ。

やっぱり貝差さんも心配してたんだよ、そうだよね。
宇利くん、あんなに頑張って練習してたんだもん。

貝差さんが続けている。
『 皆分かってるよ、宇利のこと。いつも真剣で、まっすぐで。外ではヘラヘラ笑ってるけどさ、本当はめっちゃ考えて考えて、悩んで悩んで、お腹痛なって舞台立たれへんくなるまで頑張って頑張って頑張ってきたってこと。皆分かってる。・・・』
クラスメイトのそうだぞ!の声に最後の方の言葉がかき消された。

『 ・・・外ではヘラヘラフラフラすぐ女の子のこと好きになるけど、宇利、ほんとはそういうやつやんか。外ではすぐ女の子のことヘラヘラ好きになってふらふら振られてるけど 』

それが聞こえて、クラスメイトが今度は爆笑する。
宇利くんが何か言ったが、さわこには聞こえない。

貝差さんの大きな声が爆笑をかき消す。
『 そんなわけないやん! 』

その言葉を聞いた宇利くんは、目を大きく見開いて、すごく納得したような表情になっていた。

みんなの顔見ながら、覚悟を決めたような表情になっていく。

そして、貝差さんをじっと見つめた宇利くんは、心の底から絞り出すように、こういった。

『 やる 』
『 やるわ、俺。もう一回。』

その瞬間、教室の中で、吉田くんと大門寺さんが立ち上がったように見えたが、少し遅れてクラスメイトも一斉に立ち上がって、よく言った!等の歓声が上がったので状況がよくわからなくなってしまった。

立ち上がった気配の宇利くんの声だけが聞こえてくる。

『うん、やる。だって、このままやったら俺、終わられへんもん。悔して、俺だけ眠られへん。皆にはほんまに悪いし、大変やとも思うけど、でももう一回、一回だけでいいから、力貸して欲しい。』

やっぱり、劇の事ずっと悩んでたんだ・・・。

クラスメイトが息をのむ様子が伝わってくる。
その瞬間、急に眩しい光と共に目の前に貝差さんが現れた。

あまりに眩しかったので、目を閉じてしまったさわこだったが、貝差さんに手をとられるがままにいつの間にか立ち上がっていた。

手を引かれて歩いて行く。
どこに向かっているのかわからないけれど、貝差さんが握ってくれている手にだんだんと力が入ってくるのがわかる。

宇利くんの声が近くで聞こえてくる。
眩しくて状況がよくわからない。
『 観客は、なくていい。あったらもちろん嬉しいけど、でも、俺真剣にやるから。俺一人だけでもやるけど、でも、出来たら皆一緒にいて欲しい 』

やっぱり劇を頑張りたかったんだね・・・
そう思った瞬間、貝差さんの声が耳元で聞こえる。

『 さわこちゃん、アタシ、応援してるから 』
貝差さんが背後に消えて目の前がひらけて見える。

え?なに?どういう・・・
・・・こと?

目の前に、深々と頭を下げた宇利くんがいた。

次の瞬間、聞いた事がないような覚悟を決めたような宇利くんの声が教室に響き渡る。

『 もう一回、お願いします! 』

顔を上げた宇利くんと目と目が合う。
はっきりと視線が交差する。
驚きのあまり、さわこの瞳はこれ以上は開かないというくらいまん丸に開いている。

宇利くんも私の瞳を見て驚いている。
まばたきもせず、じっと見つめてくれている。

あまりの出来事に頭の中が真っ白になっていく。
顔が熱い。
ひどく熱い・・・。
眼鏡が燃えているように熱い・・・。
なにこれ怖い。

なんだか魂が抜けるように、自分を見下ろしているような、そんな感覚にとらわれる。
心臓が高鳴り、胸がどきどきする。
全身の脈が早くなって地震で揺れているようだ。

こ、こ・・・
告白されたのっ?
わたしがっ??
さわこは、すごい勘違いをした。

周りの風景がスローモーションのようにゆっくりと流れていく。
周りの音も何も聞こえなくなってしまった。
何も考えられない、ただただ立ち尽くすしかできなかった。

すごく長い時間をそうしていたように思う。
前を見ているようで何も見えていない。

すぐそこに宇利くんが居たのに、もうどこに居るのかもわからない。

フワッとした感覚と共にさわこの意識がなくなりそうになったその瞬間、そっと背中を支える優しい感触と、目の前に誰かが割り込んで来た感覚で意識が戻る。

『 はいはいはいはい、そこまでー!!宇利、残念ーー!!おおのさん困ってるやろ!! 』
吉田くんと小郷くんの声がする。

『 おおのさん、ごめんっ!宇利がまた急に変なこと言い出して!!こらっ、宇利、また突然変なこと言うな! 』
今度は阿久くんと保志田くんの声が聞こえる。

意識がはっきりしてきたのか、自分の魂が身体に戻ってきたのか、だんだんと目の前の景色が見えてくると同時に全身の拍動も再び感じるようになってきた。

心臓がバクバクしている。

吉田くんや小郷くん、阿久くんと保志田くんの肩越しにオドオドしながらしどろもどろになって、
『 いやっ、オレは、その、これは、・・・』
と、びっしょりに冷や汗をかいて歯切れの悪い事を言っている宇利くんがチラチラ見える。

どうしたの?宇利くん?
なんでそんなに気を遣っているの?

どうして私を見ているようでちゃんと見てくれないの?

『 えっと、もう一度お願いって言うのは、その・・・』

宇利くん?
なんでそんなに気を遣っているの?
わたしのこと、好きって言ってくれたんだよね?
いや、言ってないけど、もう一度お願いって、そういうことだよね?

・・・ん?

だんだんと冷静になって落ち着いてきたさわこは気がついた。

もう一度お願いって、なに?

そう、さわこはもう一度も何も、宇利盛男と一度も何かをした事はないのだ。

だんだんと自分が勝手に勘違いして舞い上がってしまっていた事に気がついて、今度は凄く恥ずかしくなってきた。

なんでどうして勘違いをしたんだろう。
正気を取り戻せば戻すほどに恥ずかしい。

恥ずかしい恥ずかしいはずかしい!
消えて無くなりたい!

そうだよね、宇利くんもみんなと一緒に劇をやりたいよね。
あんなに練習したもんね。

そうだよね、そうだよ!
劇の事だよ、当たり前だよ。
私のことだなんて、あるわけないよ。

少しだけ芽吹いた何かを打ち消すように、言い聞かせるように、そんなわけないと強く思ったが、それが返って余計に悲しい気持ちを連れてきた。

なんで、どうして?
こんな気持ち・・・

急いで振り払う。
早く何かで上塗りしないと・・・

そうそう、劇の事だよ。劇のこと。
わかるよ、私も宇利くんと一緒に劇をやりたいよ。

そうだよね、劇をやりたいよね。
みんなと、劇をやり遂げたいんだよね。
あんなに頑張ったんだもん、みんなと一緒に完成させたいよね。

宇利くんは、ずっと黙ったまま立ち尽くしている。
すっごい目が泳いでいて、さわこはそんな宇利盛男を見ているのが辛かった。

宇利と、そしてさわ子にとって、永遠かのように思える沈黙がしばし続いた。

冷静になってよく見るとわかる。
宇利くんは凄く困っている。
だってあんなに目が泳いでるんだもん。
金魚すくいの金魚みたいに・・・。

誰が金魚やねん!って出てきそうになった脳内盛男を強い気持ちで引っ込める。
お願いだから今は出てこないで!

さわこは、芽生えた何かを摘み取る思いで自分に言い聞かせる。

宇利くんの劇を成功させよう。
私は、そうしたい。
それを手伝いたい。

そう決意した瞬間、教室に油木先生が入ってきた。

『 改めて、おっはー。お待たせー、授業始めるよ!え、どうしたの宇利くん?何をもう一度だって? 』

油木先生の声、綺麗だし元気になるし、いいなぁ

なんてことを、ぼーっとしながら考えたさわこの両の手を、それぞれ大門寺ナナコと小室哲子が引いて、さわこの席に連れて行ってくれた。

ナナコさんも哲子ちゃんの手も、柔らかくてあったかいなぁ

教室の前の方で吉田くんと大門寺さんが油木先生に何か提案して、宇利くんも何か言っているようだった。

耳が遠くなったのか、なんだかあんまり周りの音が聞こえない。

いつの間にか着席してしたさわこは、いつのまにか握っていた白いシュシュをにぎにぎしていた。

わたし、宇利くんのこと・・・



油木肉子は、実は少し前から教室の中の様子をこっそり覗き見ていたので、だいたいの状況は理解していた。

なにやら恐ろしいほどの勘違いが渦巻いているようだが、生徒たちがそれぞれに仲間を大切にしている想いだけは、ひしひしと伝わってきた。

青春だわ、あたしも混ざりたい!

そんな想いを、担任であるという事実を認識する事で何とか気持ちを落ち着けた時、クラスの空気がシーンと静まり返った瞬間が訪れた。

これ以上の間を空けると寒くなる。
そんなタイミングだった。
油木先生身体は頭が考えるより先に動いて教室のドアを開けていた。

『 改めて、おっはー。お待たせー、授業始めるよ!え、どうしたの宇利くん?何をもう一度だって? 』

みんながそれぞれ、それぞれの席についていく。
力なく自席に座った宇利盛男に声をかけたが、1日に3度も4度もフラれたような死んだ目をしている。
いや、そんなフラれた事ないから知らんけど。

見かねたのか、級長の吉田吉夫と大門寺ナナコが手を挙げて起立し、劇の再演について提案をしてきた。

こういうの、好き。

あーん、なんであたし先生なの!?

そんな想いを何とか抑え込んで、口元がニヤケそうになるのを必死に我慢しながら腕を組んで目を閉じて考え込む、フリをする。

そうでもしないとクラス担任としてのキャラが保てない。

もう答えはきまってる。
勿論、OKだ。
校長先生の許可なんてどうとでもなる。
生徒の人生が!とか大袈裟に言えばだいたい何でもOKだ。
チョロい校長先生だが、だがそこがイイ。

顔を上げて、もったいぶって、校長センセーが何てイウカナーなんて事を言った後に、たっぷり間を置いて、

あたしが校長を説得するわ!
あなた達は準備をしておきなさい!
と言い放つ。

クラスが湧き立つ。
みんな嬉しそうだ。

ただ、その一角で、椅子に座ったまま、髪の毛をボサボサにして両手に持った何かをにぎにぎしている多さわこの様子が気になって仕方ない油木先生だった。




つづく

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今回は、以下の方に登場してもらいました。

▼ 宇利盛男役うりもさん

▼ 油木肉子先生役のゆきママ@男の子4人育児さん

▼ 吉田吉夫役+賀田さん役のよしよしさん

▼ 阿久佳祐役のアークンさん

▼ 貝差彩子役の彩夏さん

▼ 保志田役のほっしーさん

▼ 小郷オーエン役の習慣応援家 shogoさん

▼ 小室哲子役のT Kさん

▼ 大門寺ナナコ役のだいなさん









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