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神風

英霊は 神風を感じない
その年の風になびくすすきの姿を知らない
大東亜の理想は忘れて
痛むことさえ許されず消えた
子どもたちの声を知らない

ある処女は まぼろしから醒めて
緑の映える祖国で鬼の子を堕ろした
星空が妙に綺麗だった
米の飯が美味しかった
この世に命はあるのかと問うたが
答えは出てこなかった

五輪と万博が開催
のたまう学び舎で
僕らは平和の訪れに安心する
鈴虫は 
爆風で死ななくなったので
夜の舗装道路に紛れて
愛する者のためにリンと鳴いている

いま生きている僕はきっと
上司の機嫌が悪かったとか
買い物の時間に晴れるだろうとか
あの子の体調はどうだろうとか
とりとめのない生活を反芻して
弾痕の埋もれるアスファルトを歩く

生身の人間を
神と崇め始めたら最後
それはそれは寂しい現象なのだろうと
ひんやりした団地の壁にもたれて
あの人の影を感じた

どれだけ有難くとも
重たすぎる水は
誰も運びたがらない
人は手のひらに掬えるほどの記憶しか
喉の下を通らないのだから

忘れていく
掠れていく
まぶされていく

英霊たちの信じた神風を
嘲り 唾を吐き 踏みにじり
時代を評するかのように教鞭を執る
そのような心のなかに
神風が吹き抜けることを
僕らは未だ知らない


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