詩 五編
「遠心力」
せっかくの休みでも
心安らかにはさせない
自分からそうさせない
毎日が
どれだけ忙しくとも
どれだけ暇だろうとも
いつも四方八方へ
心のベクトルを伸ばすこと
それが いまの私にとって
至高の休養だから
ひと呼吸 ひと呼吸
心の中軸を回転させる
ひと呼吸 ひと呼吸
体の血潮を沸き立たせる
理由はかんたんだ
何もしなければ
重力に引きずられ
奈落へと堕ちていく我が心に
遠心力を生み出すため
「満月」
静まりかえった
秋の夜
頭のうえで
ぽっかり口がひらいた
まるい月
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
まるい月が
怖い
昔の傷口がひらいたようで
怖い
だれか
助けて
「封筒」
仕事のほとんどを
メールで済ましている
現代のオフィス
恥ずかしながら
言葉遣いに
まったく自信がないもので
ひとつのメールに
かなりの時間を要します
メールを送ったあとも
ずっと不安がつきまといます
だから不思議なことに
手書きのお手紙を
封筒にしまって
しかと糊付けしたときの
安心感といったら
ありません
「義教」
尊敬する歴史上の人物はだれか
と聞かれて
足利義教
と答えるひとに会ってみたい
およそ六百年の昔
岩清水の神前で籤を引いたときから
彼の人生は約束された
大勢の人間を敵に回して
彼は日本になにを残したのか
計り知れない怨嗟を背負って
凶刃に斃れたとき
彼はなにを想ったのか
まことに まことに
数奇な人物
「あとひと」
あのひとに
会いたい
だれかとは言わず
あのひとに
会いたい
そう思ってしまうこと
この頃 多くなりました
なにを話すでもなく
なにに報いるでもなく
特定のだれかというわけでもなく
あのひとに
会いたい
なんて
ほんとうの わがまま
きっと
あのひと、とは
私の短い人生の
全部
だからでしょう