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裸の筆

コーラで浸したペンで小説を書きたい。原稿用紙がブクブクのドロドロになるまで赤黒く埋め尽くしたら、全国の金持ち大名を滅ぼすくらいの最終回は望めるだろう、と妄想した冬の星屑。

男の鬼に嫌われているから女の子になりたい。経年劣化の牢獄に住んでるから清楚さをください。お育ちのよろしい言葉には蕁麻疹が出るので私は五臓六腑を罵倒する。この筆名は画数占いでそれなりの成績が観測されたので、死後の世界の伴侶としよう。今日は青空が狂っていて気持ちがいい。

神絵師の友人にアイコンを描いてもらって、一番バエそうな写真をヘッダーにコピペして完成。連発フォローの努力が実って、呆気なくフォロワー百名突破。これで正真正銘の創作アカウント。僥倖。

お金はない。団欒も忘れた。恋も捨てた。だから私は私になるべく小説を書く。

…ってことにしたくて飛び乗った高速バスを凍死させたいのが現在の心境。

生を避けていた私が。言葉を侮っていた私が。夢を雪に埋めた私が。花開くなんて道理に反している。書いて藻掻いて、迷って彷徨って、憎くてみにくくて、要らなくなった心をフリマで転売したい気分。

刈りたい、燃やしたい、むしり取りたい、草草草草草。笑え嗤え、嘲笑え。でも何故か因縁多きこの筆名を捨てられない。形骸化した化けの皮は鳥の羽よりも軽い。もういいよって天使の囁きを心待ちにしていると、皮肉にも悪魔が舞い降りてきて二回目の僥倖。意味なんてない小説をさも意味深に見せつけるのが腕の見せ所。

でも意味を持たせたいんだよ、君の物語には。

中身なんて二の次。書いている理由、生きている理由なんて膿と混ぜてしまえばいい。湧きだしたインク、乾きだした言葉。君へ推したい感情と、畢生をやり直したい衝動。私のすべてが死んだって構わない。構わないけれど。

やはり世界を創りたいんだよ、作中の君にだけは。


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