月あかり
真夜中の森で、ふと目をさました。
そよ風が乾いた木の葉をこする音がする。
落ち葉たちが朽ちて腐ってむせるような匂いがする。
あらゆるものの色と形を呑み込んでしまうような真っ暗闇があたりを包んでいる、
と思っていた。
そっと顔を上げたぼくは、おどろきを通り越して目をうたがった。
目閉じて、もう一度目を開けた。それでもやっぱり変わらない。
大地が、飛行石のように青白くゆらめいている。
一体どういうことだろう。
ゆっくりと目線をあげる。
木々の重なり合う枝葉のあいだから、まあるい月が顔をのぞかせていた。
風に揺られる木の葉たちがちらちらと、気まぐれにせわしなく、降り注ぐ青白いあかりをさえぎったり迎え入れたり、
月あかりの木漏れ日だった。
あたりを照らすものはほかに何もなく、月はこんなにも明るいのだと、はじめて知った。
街のビルや看板や車や街灯のきらきらしたいろんなひかりで、いともたやすくかき消されてしまう、
やわらかで、やさしく、にごりのない、青白くとうめいな、
月あかりがかがやくには暗闇がひつようで、
月あかりがかがやいているということは暗闇がそこにあるということ。
そして暗闇が深まるほど、月あかりはさんさんとかがやいた。