to_you_you

日々感じることを、感じるままに、書き留めておきたいと思っています。フィクションとノンフ…

to_you_you

日々感じることを、感じるままに、書き留めておきたいと思っています。フィクションとノンフィクションのあいだ。

マガジン

  • もう一度、君と手をつなぎなおすために

  • にんげんとして生きる

最近の記事

Ⅲ.愚か者

遮るものが何もなく、容赦なく降り注ぐ陽射しが痛かった。アスファルトの照り返しで地面がゆらめいている。一年のうち半分以上は深い雪に閉ざされるアラスカの地も、夏はこんなにも暑いものなのかと、君もきっと驚くと思う。たいていの人は驚くんだ。ぼくが向こうで、半袖短パンで日中過ごしていた話をすると。 半袖を捲った肩に食い込むザックをときどき背負い直す。一歩、また一歩、ザックの重みで倒れるように足を出す。重い荷物を背負っているときはこの歩き方が一番楽なんだと、教えてくれたのも君だった——

    • かなしみを生きる

      かなしいことは、つらいことじゃない。 かなしいから、つらいんじゃない。 かなしくて涙がでてもいい、 いっしょに涙を流せる人がいれば。 かなしくて立ち上がれなくてもいい、 となりに座ってくれる人がいれば。 かなしくて立ち尽くしてもいい、 肩を抱いてくれる人がいれば。 つらいのは、かなしいからじゃない。 つらいのは、そばに誰もいないから。 君がそばにいてくれるのなら、 ぼくがそばにいられるのなら、 そうしてかなしみを分かち合うことができるのなら、 どんなかなしみが降り

      • Ⅱ.忘れられないこと

        さて、 この文章を読んでくれているということは、第一関門は突破したわけだ。いろいろな気持ちがあると思うけれど、何よりもまず、ありがとう。そしてこれから文章が続いていくので、飽きずに最後まで読んでくれたら、と思う。 いきなりだけれど、時々考えるんだ。 君はあのとき何歳だったのだろう。あのとき君はどんなふうに過ごしていたんだろう。十七年前の春、君はどんな子どもだったのだろう。友達と仲良く、今と変わらず無邪気に楽しく過ごしていたんだろうか。 ぼくはひどく忘れっぽいから、楽し

        • Ⅰ.プロローグ

          ♪タラッタ、タ、タ、タ、タ、タ、ターン、ターン、ターン、ターーン ピアノの旋律が寝ぼけた耳にぼんやりと聞こえてくる。 おはようございます。 テレビ体操の時間です。 体を動かす機会が減少すると、様々な機能が低下する恐れがあります。 予防効果を高めるように、意識を持って体操を行いましょう。 この時間のピアノ、○○さんです。 ♪タッ、タッ、タッ、タラララララーン いつもの音楽。 いつものセリフ。 けれどもあまり耳にしない名前で、今朝のピアノ演奏者が誰かうまく聞き取れない。布

        Ⅲ.愚か者

        マガジン

        • もう一度、君と手をつなぎなおすために
          3本
        • にんげんとして生きる
          3本

        記事

          はじめまして世界

          あなたはおぼえていますか。 すきとおる水がぱしゃーんとはじけるきらめきを、 つかまえようと何度も手を伸ばしたことを、 伸びたりちぢんだりしながらどこまでもついてくるかげと、 いつまでもたわむれていたことを、 ぱあっとさしこむ太陽のあまりのまぶしさに、 いつまでも顔をしわくちゃにしていたことを、 アッ、とはじめてのどから声が出たとき、 こんな音が出せるんだ、 とおどろいたように笑っていたことを、 木の葉たちが陽の光をあびながらひらひらとおどっているのを、 ほほをゆるま

          はじめまして世界

          言葉は、

          言葉は、 気持ちを表現するためだけにあるのではない。 言葉は、 考えを伝えるためだけにあるのではない。 言葉は、 世界をかたちづくるためにこそある。 子どもはみんなせっせと毎日、 そうして世界をつくっているのに、 (ぼくらもみんなそうだった) いつからだろう、 そんなことも忘れて、 どこかの誰かがつくった世界であくせくしているのは。 世界を自分の手に取り戻すために、 沈黙に声を上げ、 余白に文字を刻み、 真空にキーボードを打ち込む。 たとえそれが誰にも届かなくても、

          言葉は、

          三. にんげんとして生きる

          文章を売ってお金にする? そもそも、せっかく文章を書くなら、売ってお金になったらいいじゃん、という自分の考え方が解せなくなってきた。 なんでそうやってすぐにお金になるかどうかの話になるんだろうか。いつからぼくのあたまはそんなふうになってしまったんだろうか。 「文章を売るようになったら、そのうちお金が出ないと文章を書かないようになっちゃうんじゃないの」 妻は半分冗談、半分本気な顔で言ってきた。 「そんなことはないよ」と言いつつも、ぼくのあたまの中にはすでに、文章を書いて

          三. にんげんとして生きる

          二. 自由と恐怖と曝け出す覚悟と

          なんて自由なんだ! 誰からも検閲されず、査読も評価もされず、口出しもされず、ただ書きたいことを書いて、言いたいことを言えるなんて。 そう、ただ書きたいことを書いて、言いたいことを言うだけ。 とても単純でシンプル。でもそれがとても難しい。 だからもう一回だけ言いたい。 なんて自由なんだ! 曝け出すことへの恐怖 だけど怖かった。 自分の言いたいこと、思っていること、感じていることを、言葉にすること。表現すること。外に出すこと。曝け出すこと。 誰かから後ろ指を差される

          二. 自由と恐怖と曝け出す覚悟と

          一. なんて自由なんだ!

          「やっぱりさ、おれ、文章書きたい。書くの、好きだと思うんだよね」 「何書くのよ」 「え、それは、なんか、自分が感じたこととか、考えたこととか、これまでのこととか?」 「それはつまり、書いた文章を本にしたいってこと?」 「そうだね、せっかく書いたら本にしてたくさんの人に読んでもらいたいよね」 「ふうん。なんで本なんかにしたいんだろうね」 妻は真顔でそう言って、直球で疑問をぶつけてきた。 本を書きたいのは、なんで? 君だって本好きで、図書館に行けば何時間だって過ごせるような

          一. なんて自由なんだ!