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小説002 自己紹介

ここで僕のことを少し話しておこう。

自分で言うのも何だが僕は社会の敵だ。とにかく人をいたぶるのが大好きなのだ。
小学生まではその衝動ままに暴発させていたため近所では問題児として有名で、そんな僕を親はほとんど見捨てていた。
だが親の転勤により転校した先の中学で僕の人生が変わる。

転校してから二日目の昼休みのこと。別に誰でも良かったのだが、たまたま目に入ったツーブロックをネチネチいじっていたら、キレて襲いかかってきたので丁重に青あざをお作り差し上げたところ、なぜかクラス中の拍手喝采を浴びた。

後で聞いたところによると、どうやらそいつは僕の上を行く乱暴者のようで、手下ともども嫌われていたらしい。
天然バカだった僕はこのときやっと、みんなの嫌われ者は大っぴらにいたぶっても文句を言われないどころか感謝される、と知ったわけだ。

この経験が僕を検事にしたと言っていい。
もっともこの頃将来のことなど何も考えておらず、検事こそが天職と悟るのはもっとずっと後のことなのだが、そのことは別の機会に話そう。

それから人並みの紆余曲折経て晴れて検事になったのだが、任官してまず驚いたのは、想像以上に検察組織にお人好しが多いことだった。
てっきり僕みたいな異常者ばかりだと思っていた。
基本的に血気盛んな奴隷が多い方が僕にとって都合がいいのだが、しかしここまで多いととばっちりを受けるとも限らないと感じた。

現に例の証拠改竄事件のせいで、取り調べの録音録画などというふざけた制度が義務化され、おかげで僕の衝動を全開で解き放つことができなくなってしまった。
迷惑この上ない話だ。

だいたい無罪判決を限りなくゼロにするという目標に無理があるのだ。
そのシワ寄せが被疑者に行けば冤罪、下っ端検事や事務官に行けばパワハラ、上に遡れば派閥抗争となって現れる。
全く下らない伝統だが、賞賛という飴と、庶民の期待を裏切って人身御供を差し出すことに失敗した際に食らうであろう厳しい鞭の間に挟まれ、おいそれとドブに捨てるわけにもいかないのだろう。

中学のあの日以降、クラスメイトから寄せられた無言の期待、露骨に言えばツーブロックへの復讐心、それとも一所に閉じ込められているゆえのストレスというべきかわからないが、集団に鬱積するドロドロの負のエネルギーを全身で浴びた僕にはよくわかる。

まあそのおかげで僕のような人間が混じってもあまり目立たないわけだが、しかしこの隠れ蓑が暴走し潰れては困る。せめて僕が退官するまでは、適度なブラックさを保ったまま生き延びて欲しいところだ。

後記

とりあえず主人公のキャラを決めてみた。
垢バンを警戒したため今一つ恐さが出てませんが、そこは察して頂けると助かります。

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