【掌編小説】MeTa

弱い悪魔を飼い馴らしてしまった。
「おいおい、手止めろよ」
悪魔が嗤いながら話しかけてくる。
「今度は何よ?」
「その作品は伸びねぇよ。だって、だらだらと長ぇだけで、ちっともおもしろくねぇもん」
「……うるさいわね」
「伸びてる作品を見てみろよ。スキしてほしいんだろ? もっと、読者に媚びへつらってけよ」
なんとなく、それはわたしにも分かる。
どんなジャンルの作品が閲覧数を集めていて、投稿した時間帯がいつで、どんなタグをつけているのか。お話たちを眺めていると、なんとなく伸びる伸びないの傾向が掴めてきて、作品を書いている途中でなんとなく手ごたえが分かってしまうのだ。
正直、このお話はつまらない。展開に欠けるし、言葉選びもナンセンス、それに何より、読んでいてもテーマが見えてこない。
いいなぁ……ってならない。
「いいの。究極の自己満足でやってんだから」
「いや、違うね」
悪魔にぴしゃりと否定される。
「違わない」
「違う。お前はどこかでスキを求めている。自分の書いた作品を、それが不出来でも、褒められたいと思っている。自己承認欲求なんてさらさらありません、って素振りを装っているが、一度得た快感をまた欲しがっている」
肋骨の檻での生活にすっかり馴染んでしまった悪魔は、我が物顔で心臓にふんぞり返っている。
「いや、ヨギボーじゃないんだから……」
「んあ? なんか言ったか?」
「なんでも」
舐め腐った態度の悪魔に、やれやれと溜息を吐く。
「まずな、お前は日本語のセンスがねぇから、タイトルは英語のほうが良さそうだよな。なんか、英語でバシッとキメたほうが、好奇心煽られて人集まってんじゃん」
「……それはそうね?」
本当は全文英語で書きたいと思っているぐらいだ。だが、それでは日本のメディアプラットホームに作品を投稿している意味がない。
「次は、話のテンポだよな。ポンポンポンと弾むように読めるお手軽なやつ、もっと書いてけよ」
「そういうのがポンポンポンって出てこないから困ってんのよ」
「書きたい作品を書いてるだけじゃだめなんだよ、人気を集めるには」
「気にしなきゃだめ? そういうの」
「だめ? ってな、もう気にしてるだろ。スキしてほしいならさ、スキが集まった作品風の作品を量産してこうぜ。なんとなく傾向はできてんだから」
悪魔の理路整然とした物言いは、ごもっともである。
スキが集まった作品を見て、こんなんでいいの? こんな話なら無限に書けるけどな? と思ったことも、正直、ある。
でも――
「ばーか、仕事じゃないんだから」
これに尽きるのである。
「あ? 俺はアドバイスしてやってんだよ、承認欲求満たされたいだろうが!」
「まぁまぁまぁまぁまぁ、仲良くしようぜ」
本当に、これに尽きるのである。

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