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第1回

お題:蒸し暑い密室だった・切子硝子


touhukan 391文字

べたべたと肌にくっつくような湿気と風通りの悪い部屋の中、机と座椅子、生活に必要最低限な家財が置かれた場所で、景色に合わない親戚から貰った切子硝子のコップで、乾いた喉に、冷蔵庫で冷たくなった麦茶を流しこむ、温度差によりコップに結露ができ、まるで汗を流しているようにも錯覚する。

ピンポーン

訪問者が来ること自体珍しいこの家にチャイムの音が響いた。

何も音のない部屋に機械的な音はどこか寂しく思えた。

そこから記憶は次の場所まで欠如している、チャイムの音が聞こえた後、

そこから今いる場所での記憶が全くと言っていいほど無い。

今自分がいる場所は、とても蒸し暑い密室だった。

なぜこの様な場所にいるのかがわからない。

察するに誘拐か何かだろうけど、心当たりが何もない。

ただ周りは何もない殺風景な部屋だ。

部屋なのかもわからない、何もない。

本当に何もない、扉もない。

自分が生きているかさえ、わからない。


usan 453文字

窓なんて締め切っていた。たいした秘密でもないのに、お得意の笑顔で内緒話のポーズをされてしまえば、閉められた鍵を開けようなどとは思えなかったもので。

 二人して机の上、紅茶に詰め込んだ氷が全て溶けてグラスも二人も汗をかいて何もかもぬるくなってしまった中で、レースで編まれたコースターの上に鎮座しているそれだけがきらきらと冷たく、鋭く光っていた。

「私が競技会で頑張ったら、ほしいものがあると言っていたでしょう」

 そこでつながりに気付いた私はいつの間にか必死に見つめていたその、切子硝子の筒から、万華鏡からはっと顔を上げた。こちらを見る涼し気な青の見守るような眼差しになんとなく後ろめたくなってもう一度目をそらす。

「これのことなの」

「そう、見たでしょう? 私が一番だったから、お願いしたの」

 ひそめるような声から跳ねるようになっていった声。

「あなたと二人で見たいからって」

 顔が上げられないまま、万華鏡の極彩の眩しさを思い出す。

 汗ばんで熱くなった肌も色もごまかせる密室がきっと、このためにあるのだろうと思った。

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