【ショートショート】蝉【創作】
夏、灼ける様に暑い日差しを避けるように木陰に入っている。近くの川から流れてくる風が程よい冷気を帯びて肌を冷やす。まるであちらとこちらを別けるように影とが境界線を造っている。覚めてきた頭でぐるぐると考える。先程まで元気に動いていた目の前のそれをどうするべきなのか、一番最善の方法を考える。ああでもないこうでもないと考える。近くの木では許さないとでも言うように夏の虫がけたたましく鳴いている。時折、ざああと木が風に吹かれ強く揺れる。意志を強く持った葉はしがみつき枝から離れようとしない。そんなふと周りを見渡した時に視界に自動販売機が入ってきた。そして自分の喉が乾いていることに気付き、ジーンズのポケットへと手を入れる。指先でいくつかの小銭を確認して、自動販売機へ向かって歩いていく。目の前にしてラインナップを見る、見たことあるようなない様などこか懐かしささえ思うような商品だ。無難にどこのメーカーかも分からない緑茶を選び、ガタンと落ちてきたそれを手に取る。あまりの冷たさに一瞬手を引っ込める。急な衝撃に心臓がすこし脈を強める。改めて手にとり冷えたその身体を首筋にあて、熱くなった血液を冷やす。なんと気持ちのいいことか、熱い不愉快さを体験していないと感じえない気持ちよさにゆっくりを目を瞑る。「あぁ、これからどうしよう」勝手に口から出た言葉だった。「とりあえず、穴を掘るべきだと思うよ」また身体がびくりとはねる。周りを見渡すが誰もいない、だがその声は自分の近くから聞こえた、そうたとえば隣に人がいるような距離感。「どうしたの?考えている時間は無いと思うのだけれど。」見えない何かは自分の隣にいる様だった。頭に響いてくるような声は知っている声だった。そういう心霊系は信じていなくはないが、結局はそういう風に見えたり、聞こえたりする偶然のモノだと思っていた。実際こうして、どこからかよくわからない存在が自分に語り掛けてくる。ああ、どうしたものか。とりあえず、この声をかけてくる何かにしたがって穴を掘った方が良いのだろうか、先程とは違う冷たさが首筋をつたっていく。まるでそんな心境を笑っているようにかさかさと葉が揺れている。土を掘るにはスコップが必要か、でもそんな都合よく穴を掘るようのスコップなんてもっていない、買うべきか、でもそうすると足がついてしまうのではないか、じりじりと太陽にあたりながらまたぐるぐると思考を巡らせる。ああ、ああ、、なにも考えられない。「ほら、自販機の裏見てみて」また何かが言っている。指示通り自販機の後ろに回ってみる。ある、丁度穴を掘る用に特化したようなスコップが、なんでこんなところにあるんだ。でも丁度良かった、これで穴を掘ることができる、どこに掘ろうかと周りをぐるりと見渡す、すこししたところに雑木林がある。丁度良い鬱蒼具合で、丁度死体を隠すのに良さそうだ。雑木林に行き、大体の目安をつけ、死体を運ぶ、思ったよりも思いそれは背負いこむようにして運ぶ。ふと、後ろから声をかけられた。「おい、大丈夫か」低いすこししわがれた声。先程の声とは違う声だ。振り返るとそこには、少し白髪の交じった杖をついている老人がいた。すこしの間を得て、やっとのことで「大丈夫です」とだけ掠れた声が出た。「言ってもだいぶんぐったりとしてるよおだけど、熱中症かなんかか?俺んち近いけどくるか?」と大いに余計なお世話な世話人が続けて声をかけてくる。「大丈夫です」同じ言葉しか出てこない。この瞬間にもぐるぐると言い訳を考える。いいえ、だいじょうぶです。このちかくにいえがあるので、あ、でもきんじょにすんでるのか、ばれるじゃん、でもあてがないのに、これをはこんで、あやしまれ、どうしよ、どうしよ、どうしよどうしよ「おいあんたも大丈夫か、汗がすごいが、、、」「あっ、本当に大丈夫ですので!」と後ずさりしたとき、背負っているそれが、ずるっと地面へと落ちて行った。「おいっ!さすがに大丈夫じゃ、、」もう面倒だな。と腕が勝手にまた相手の首に伸びる。細く、皮と骨しかない様なその首はいくらか抵抗を見せるとすぐぐったりと重い荷物へとなった。あぁ面倒だ、二倍の穴を掘らないといけない。1、2つとさっさと雑木林へ死体を運ぶ。野犬や動物に掘り起こされないような深さに掘らなければいけない、太陽の届かないそこは作業をするのに丁度良かった。あたりは暗くなり、やっと二人分の穴が振り終えた、どさどさと中へ投げ入れる、土をかぶせるのは簡単だ、わからないようにそこらへんの落ち葉もぱらぱらとかぶせる。ふと自分が汗臭いことに気付いた。風呂、入りたいな。使ったスコップを元の場所へ戻し、帰路に着く。