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第2回
お題:麦茶・結晶
touhukan 383文字
そう、後悔はいつだってできる。
この夏という時期、暑さからくる脳神経へのダメージで人は自分を追い込む。
そう、怪談という精神にダメージを負うような馬鹿げたイベント事で。
よく聞くのはその手の話をしていると幽霊やらが寄ってくるという話だ。
しかしうちに来たのは、
雪女という名の、妖怪と言われる類の者だった。
「ねぇ、暑くて溶けそうなのだけど。」
机に並べられた2つの飲みかけ麦茶の中にある氷は
僕たちの行く先を嘲笑う様にゆらゆらと揺れていた。
「これ以上寒くすると僕が風邪を引いてしまう。」
「それだったら何か涼しくなるような話をして頂戴。」
今、生まれてきて妖怪なんてのははじめてのこの状況、
僕的には震えるほど涼しいのだが、と思いながら
ぐいっと麦茶を飲み干し、コップの中に残った
角の無くなった冷たい結晶を口の中でころころと回し、
どうやって帰ってもらおうか考える。
部屋は冷え切ったままだ。
usan 418文字
明礬の結晶を作りたいんだって、宝箱を見つけたみたいに笑うのを、ぬるくて薄い麦茶を飲みながら、また生ぬるく見届けただけだったんだけど。
あげる、なんて差し出されたのは、不規則な直線で形になった、透明で美しいだけの結晶イヤリングだった。
「協力者への礼はしとかないと」
汗をかき終えたグラスを持ち上げて麦茶を喉に流し込む。ただそれだけに少し時間を要したのは、いくつもの言葉を飲み込んだからだ。
助力も何も、本当に、のんべんだらりと見守っていただけだとか。塩でできたイヤリングは使うに困るとか。そもそも男だからとか。
「......ありがとう」
垂らしただけの白い糸の先にイヤリングを結んだだけできた、本当に子供のおもちゃみたいな。いや、本当に、お遊びで作られた物とわかってはいるのに。
手のひらで受け取って、汗で溶けないようになんて思ってしまうのは。そうやって、大切そうに掲げて見てしまうのは。
澄んだだけの結晶の先の笑顔に、満更でもない気持ちになってしまうのは。