AIの源氏物語読解(Gemini・Copilotによる「常夏」の分析)
「さはまた、さてこゝながらかしづき据ゑて、さるべきをりをりに、はかなくうち忍び、ものをも聞こえて慰みなむや、かくまだ世馴れぬほどのわづらはしさこそ心ぐるしくはありけれ、おのづから関守強くとも、ものの心知りそめ、いとほしき思ひなくて、わが心も思ひ入りなば、しげくとも障らじかし」(物語の語り手が源氏の内心を語る体裁)
について「理解する上で重要な点を、箇条書きにして説明せよ」と指示してみた。
その結果で不充分と判断した点を明示したい。
「ボトムアップの文理解プロセス」(読めば分かるは当たり前?、133)を頭に入れておいた方がわかりやすかろうと思う。
「視覚的分析」→「文字の同定」→「単語同定(意味変換)」→「単語間の関連理解」→「文間の関連理解」
源氏物語「常夏」の一節の重要ポイント解説(Gemini)
1. 語り手の状況
語り手(ここでは光源氏)は、ある人物(おそらく女性)を「かしづき据ゑて」世話をしている。
現代語訳や注解では必ずといってよいほど玉鬘結婚という補足が入る。ところがGeminiは無視する。
というより、ここに出てこないから触れないだけであって、人間は賢すぎて、少し先で話題とする結婚によって事態がどうかわるかという源氏の推論を、遡って注意喚起として訳・注の読者に示すのであろう。
「部分的なつまずきや表面的なつまずきを解消するための方略」として、「そのままなんとなく読み進めてしまったら、表象が構築できませんから、意図的に立ち止まったりゆっくり進んだり」(読めば分かるは当たり前?、178)する。
正確を期せば、特に引っかかることなく通りすぎたのに源氏がわざわざ玉鬘の結婚を想定するので、結婚も含めておくべきだと過剰に反応してしまう(読解の錯誤)、と考えることができそうだ。
「単語と単語が結びついて一つの意味表象を作るときは、『述語』が中心になってほかの単語が関連付けられます。この一つの『述語』と複数の単語が関連付けられたまとまりを『命題』と呼び…文を理解するときの基本単位はこの『命題』になります」(110)を応用すれば、補足を原文に組みこんで理解するなら、今度はまた(といってもここでようやく持ち出される)結婚が話題に登場した時、齟齬について考えざるをえなくなるように思う(と留保するのは、すべての読者がそのようにふるまうと思わないから)。
その人物はまだ世慣れない様子で、語り手は彼女の扱いに苦慮している。
玉鬘の苦境について源氏がどのように考えているか点は必ずしも明瞭でない、ということは可能である。
物語は、そこからどうするか(結婚が夫という関守をとまなわせる以下)を考えているという多段ないし多層の(将来への展望を含む)叙述であれば、物語はこの短いくだりですら進行している。
2. 語り手の心情
「わづらはしさこそ心ぐるしくはありけれ」と、世話の大変さ、気苦労を吐露している。
一方で、「いとほしき思ひ」という言葉からは、その人物への愛情や庇護心が感じられる。
「いとほし」が「弱い者、劣った者を見て、辛く目をそむけたい気持になるのが原義。自分のことについては、困ると思う意。相手に対しては『気の毒』から、『かわいそう』の気持に変り、さらに『かわいい』と思う心を表わすに至る」(岩波古語辞典「いとほし」)についてはひとまずおく。
「ものの心知りそめ」(第1の条件)「いとほしき思ひなくて」(第2の条件)「わが心も思ひ入りなば」(第3の条件)を充たせば、「しげくとも障らじ」という解決に至る。
また「いとほしき→思ひ+なく」が「いとほし」の否定であるのも理解できていない。日本語の統語では、「否定辞」が否定する対象のあとから添えられるので、何を否定しているかの位置が微妙にゆれる(すでに肯定した)。
ここでは愛情や庇護心を述べているのでないのだ。
彼女が世間を知り、自分の気持ちを受け入れてくれれば、苦労も減るだろうという期待も示唆されている。
3. 今後の展開の暗示
「さるべきをりをりに」という表現から、二人の関係が変化する時が来ることを暗示している。
「はかなくうち忍び、ものをも聞こえて慰みなむや」という言葉からは、語り手がその人物との関係を深めたいと考えていることがうかがえる。
「おのづから関守強くとも」という表現は、二人の関係には障害があることを示唆している。
「二人の関係には障害がある」のは確かにその通り。ただし結婚以前の今すでに障害は発生している。だから「関係を深めたい」。
結婚すれば生ずるはずの障害がかえってそうでないと考えるような複雑な(「いとけしからぬことなりや」と語り手がわざわざ指摘する)思考を、叙述している点を見逃すべきでない。
要するにここは、「二人の関係が変化する時が来る」「関係を深めたい」「関係には障害がある」と理解できるとしても、「関係が停滞している」「関係進展の障害がある」「関係改善の解決策がある」と読み進めることができる理解を見出さねばならない。おそらくそれは各段階での焦点をかえる必要がある、ということであろう。
4. 和歌との関連性
この一節は、常夏の巻のクライマックスで、光源氏が玉鬘への愛情と将来への不安を吐露する場面である。
このように要約することは可能であるとして、「常夏」の前半は玉鬘を源氏の娘と称して貴族社会を偽りながら、玉鬘を女として我物にしようと図る源氏を描く。
後半(分析した場面以降)は雲居雁を夕霧に疵物とされ、また新たに見つけた近江君が貴族にふさわしくないありさまをあらわにして落胆する内大臣を語る。
とすれば、盛り上げて盛り下がる峠をクライマックスとしていることになる。
常夏(ナデシコ)の花言葉は「永遠の愛情」「変わらぬ心」であり、この一節における光源氏の心情と重なる。
この一節の背景には、玉鬘の出自や複雑な人間関係が横たわっており、それを踏まえて読むことで、より深く理解することができる。
まあそんなことをいうだけは簡単である、「出自や複雑な人間関係」を明解にできなくても。
とはいえ、「常夏」の花ことばに気づけておめでとうというべきか。
5. 文法・語彙
古文の助動詞や係助詞、謙譲語・尊敬語などが使われており、文法知識も理解を深める上で重要となる。
「かしづき据ゑて」「はかなくうち忍び」「ものをも聞こえて」など、和歌や物語特有の表現も含まれている。
参考文献
源氏物語 - 紫式部
源氏物語[新編日本古典文学全集] - 阿部秋生, 池田和夫, 今井上, 尾崎左永子
北村季吟が「玉を源に子分ながら、かやうの事はあるは、世上のきこえ玉かづらの身のため、いとほしき遠慮ある事也。ぬし定まりては其思ひなき也」(古典セレクション版源氏物語7、152注17)と述べているらしい。
[補足:古典セレクション版は新編日本古典文学全集版を再編した廉価版。本文・現代語訳・脚注からなる。新日本古典文学大系版は、完全な対訳でないもののかなりの現代語訳を注に含み、修正して岩波文庫になった。一部に本文横に現代語訳と頭注をつけた新潮日本古典集成。以上が源氏物語の一般向けとして今でもよいと思える。読解で際立った違いはないものの、微妙な相違には出会す。岩波文庫がもっとも使いやすいものの、時にどうかと思う注に遭遇する回数が多い、と感じてきた。]
「源氏は、玉鬘の夫の目を盗んで、玉鬘と情を交したいと思う」(注13)と整合しているかを検討して、関守に先立ち紹介しているのであろうか。これでは玉鬘の処女性を尊重すべきと考えてい紹介といえまい。
あえて付言すれば、「玉かづらの身」が、帝ないし春宮の夫人や貴族の正夫人に不可欠であろう処女性でないと考えることはできる。
以下はCopilotによる解説(数回の修正を指示)を参考として。
### 1. 内面的な葛藤と願望
**「さはまた、さてこゝながらかしづき据ゑて、さるべきをりをりに、はかなくうち忍び、ものをも聞こえて慰みなむや」**
この部分では、源氏が現在の状況に対して内面的な葛藤を抱いている様子が描かれています。平安時代の貴族社会において、源氏は高い地位にあるが故の責任と義務に縛られています。「かしづき据ゑて」はしっかりと支えることを意味し、「はかなくうち忍び」はひそかに忍耐することを示しています。つまり、源氏は玉鬘を支えるべき存在として、彼女を守りながらも内心では不満や苦しみを感じています。
### 2. 未熟さと心労
**「かくまだ世馴れぬほどのわづらはしさこそ心ぐるしくはありけれ」**
ここでは、玉鬘の未熟さや世慣れていないことによる心労が描かれています。平安時代の女性は、特に若い頃は宮中や社交界での生活に慣れることが重要でした。「心ぐるしく」は気が重く感じることを示しており、玉鬘は未熟さゆえの苦しさに直面し、それをどう乗り越えるかを考えています。この背景には、源氏が彼女を守り導く立場であることが影響しています。
(平安時代の文章であることを考慮するよう指示したものの、句それぞれの動作主が明示されているかいないかの処理は、その論理が明示されているといいがたく、まことに興味深い。「まだ世馴れぬほど」「わづらはしさ」の動作主でありながら「心ぐるしくはあり」を源氏と解するのはたやすいことであろうか。)
### 3. 自己認識と覚悟
**「おのづから関守強くとも、ものの心知りそめ、いとほしき思ひなくて、わが心も思ひ入りなば、しげくとも障らじかし」**
この部分では、源氏が自己認識と覚悟を持ちつつある様子が描かれています。「関守強くとも」は強い守りを持っていることを意味し、「ものの心知りそめ」は物事の本質を理解し始めることを示しています。平安時代の価値観では、自己の心をしっかりと持ち、困難に立ち向かうことが重要視されました。源氏は玉鬘を守りつつ、自分自身の心にも向き合い、どんな困難があっても乗り越えられると決意しています。
### 総括
この一節では、源氏が玉鬘を庇護する立場でありながら、自身の内面的な葛藤や未熟さからくる心労と向き合い、自己認識と覚悟を持つまでの過程が描かれています。全体を通して、作者は人物の複雑な思考過程を丁寧に描写し、読者にその心情を深く理解させるよう工夫しています。